キリスト教/ロシア正教会の「西欧における総主教代理」が交代(2019年5月)昨年末【2018年12月】に再設置

 2019年5月30日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の聖シノドは、同教会のウィーン・ブダペスト大主教アントニー座下(His Eminence Archbishop Anthony【Antoniy】 of Vienna and Budapest)を新たな「西欧における総主教代理」に、昨年末【2018年12月】の再設置より「西欧における総主教代理」を務めていたイオアン府主教座下をウィーン・ブダペスト府主教にするという、交代人事を決定しました。
 翌5月31日に、アントニー座下は府主教に昇叙されています。

 

 (英語)New Exarch of Western Europe of the Patriarchate of Moscow – Romfea News

Romfea.newsさんのツイート: "New Exarch of Western Europe of the @mospat_ru #romfeanews https://t.co/gTHgG3Ve8e"

 

 昨年末にロシア正教会は、対コンスタンティノープルの意思表示として、「西欧における総主教代理区」と「東南アジアにおける総主教代理区」を設置しました。
 このうち、「西欧における総主教代理」に叙任されたイオアン座下は、主教から(大主教を経ずして)府主教に昇叙されるという、例外的な事態となっていました。

 今回、ギリシャの正教会系メディア Romfea 英語版は、この短期間での交代を「予想されていなかったもの」としています。
 しかし、上記のように、イオアン座下を総主教代理とした昨年の人事が例外的なものだったことを考えると、いずれイオアン座下は“本来の昇格路線”に戻し、別の人物が総主教代理となる予定だったとみるべきでしょう。

 アントニー座下のほうは、今回の総主教代理叙任とともに、府主教に昇叙されました。
 また、アントニー座下は、以前より(モスクワ総主教庁のロシア連邦外の教会に関する役職に就いているため)コンスタンティノープル管轄権下にある西欧ロシア正教会大主教区のロシア正教会“移籍”に関して、ロシア正教会側の窓口となっています。
 今回、アントニー座下を「西欧における総主教代理」に移したのは、大主教区の件と関係があるかどうかはわかりませんが、仮に交渉が破綻した場合、ロシア正教会側は個別に切り崩して「西欧における総主教代理区」に入れるように行動するでしょう。アントニー座下はこれから大主教区メンバーとの接触もますます増えるだろうことを考えると、切り崩しの前準備のようにも思えますが……。

 

キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下がウクライナ駐箚ローマ教皇大使と会見(2019年6月)コンスタンティノープルとモスクワの教会分裂への失望が表明された模様

 ギリシャの正教会系メディア Romfea 英語版によりますと、キリスト教/ローマ・カトリック教会の首座/ローマ教皇聖座およびバチカン市国の絶対君主/ローマ教皇フランシスコ聖下(His Holiness Pope Francis)は、ウクライナ駐箚ローマ教皇大使クラウディオ・グジェロッティ大司教座下(レベルム名義大司教 : Archbishop Claudio Gugerotti, Titular Archbishop of Rebellum, Apostolic Nuncio to Ukraine)と会見。ウクライナのゼレンスキー新大統領への祝意伝達のほか、コンスタンティノープルとモスクワの教会分裂への失望が表明されたとの“消息筋”からの情報が出ています。

 

 (英語)Frustration of the Pope for the freezing of the relations between the Phanar and Moscow – Romfea News

 

 東方正教会の方面での解決はないので、カトリック側がいつ東方正教会(というのが一つの固まりであるということ)を“見限る”か、というのが歴史(キリスト教史)上の転換点になるでしょうか。

 

キリスト教/コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】首座“エピファニー府主教”が、元ジョージア【グルジア】大統領サーカシヴィリ氏と会見(2019年6月)ジョージア正教会【グルジア正教会】による OCU 承認を目指す方針ですが、逆効果では……

 2019年6月4日、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】首座“エピファニー府主教”は、ミヘイル・サーカシヴィリMikheil Saakashvili)元ジョージア大統領・元ウクライナのオデッサ州知事と会見しました。

ゼレンスキー新大統領により、サーカシヴィリ氏のウクライナ市民権は回復された模様。

 

 (英語)Former President of Georgia Mikheil Saakashvili visited Metropolitan Epiphanius – Romfea News

Romfea.newsさんのツイート: "Former President of Georgia @SaakashviliM met Metropolitan @Epifaniy of the Autocephalous Church of Ukraine on June 4 #romfeanews https://t.co/ea3aKm60de"

 

 両者は、ジョージア正教会【グルジア正教会】など、他の独立正教会による OCU 承認に向けて話し合ったようです。

 ウクライナ問題で、ウクライナ本国を除いて二番目に被害を受けているのはジョージア【グルジア】。
 ロシアの支援を受けてジョージアより事実上分離しているアブハジア共和国では、ロシア正教会モスクワ総主教庁の事実上の管轄下にある「アブハジア正教会」と、ロシア正教会より離れた聖職者らが結成し独立正教会となる(=コンスタンティノープルの承認を受ける)ことを目指している「アブハジア府主教庁」が存在します。
 ジョージア正教会がコンスタンティノープルにつけば、アブハジアは「アブハジア府主教庁」を弾圧し完全な親ロシア姿勢を見せなければならないでしょう。「アブハジア正教会」はロシア正教会の一部となります。そして、ロシアとジョージアの関係は悪化するでしょう。
 ジョージア正教会がモスクワにつけば、コンスタンティノープルは「アブハジア府主教庁」を独立正教会として認定し、アブハジアを「ウクライナ化」するでしょう。また、「ロシアの犬」と化したジョージア正教会はナショナリストに襲撃を受け、ジョージアは内乱状態に陥るかもしれません。
 こうやってみると、どちらもろくなことになりません。ついでにサーカシヴィリ元大統領が OCU にからんできたことにより、ジョージアの現政権は対応が面倒くさくなっています。

 いずれにせよジョージアの未来は暗いです。

 

キリスト教/ロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下が、韓国の例の国会議長(文喜相:ムン・ヒサン)と会見(2019年5月)

 2019年5月29日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の首座/モスクワ・全ロシア【全ルーシ】総主教キリル聖下(キリール総主教 : His Holiness Kirill, Patriarch of Moscow and all Russia【Rus’】)は、ロシア連邦を訪問した例の韓国の国会議長(文喜相ムン・ヒサンMoon Hee-sang)と会見しました。

 ロシア正教会側から、
 東南アジアにおける総主教代理/シンガポール・東南アジア府主教セルギイ座下(His Eminence Metropolitan Sergiy of Singapore and South-East Asia, Patriarchal Exarch in South-East Asia)、
 同総主教代理区の朝鮮大主教フェオファン座下(His Eminence Archbishop TheophanFeofan】 of Korea)、
 が同席。

 ウクライナに続く、コンスタンティノープルとモスクワの管轄権争いの場になっている朝鮮半島ですが、北朝鮮にはコンスタンティノープルの影響はないので、なにか起こるなら韓国でしょう(すでにモスクワ側が主教区設置と大主教叙任をしていますが)。
 韓国の現政権は、モスクワとコンスタンティノープルの争いにうといらしいということを昨年さらけ出しましたが、今回の議長によるモスクワ総主教訪問はロシア側への謝罪行脚かもしれません。

 

russianchurch(ロシア正教会モスクワ総主教庁公式チャンネル):
Святейший Патриарх Кирилл встретился с Председателем Национального собрания Республики Корея – YouTube

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Patriarch Kirill meets with Speaker of the National Assembly of the Republic of Korea | The Russian Orthodox Church

 

キリスト教/コンスタンティノープル管轄権下で一方的に総主教代理区の地位を廃止(2018年11月)された西欧ロシア正教会大主教区。ロシア正教会に“移籍”した場合に関するモスクワ側の提案はこれ以上譲歩の可能性はなさそうな内容だが快諾はない模様(2019年5月)「なにもしない」ことになるのでは

 キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの管轄権下にあったものの2018年11月にコンスタンティノープルから一方的に総主教代理区としては廃止され、大主教区という集団としても解体されそうな、西欧ロシア正教会大主教区ですが、ロシア正教会に“移籍”した場合に関するモスクワ総主教庁側の回答内容や、聖職者らのコメントなどが散見されます。

 モスクワ総主教庁側の回答内容で目立つのは、“移籍”が成立すれば、同大主教区に(補佐的な職務をおこなう)主教を二名叙聖する用意があるという項目です。
 ジャン大主教座下は、自らが高齢なのにコンスタンティノープルが後継候補の主教を叙聖しようとしないことについて、主教不在による大主教区の消滅を狙ったものだとコメントしていました。
 二名の主教が追加されることにより、(ジャン大主教座下に万が一のことがあっても二名の主教が残っているので)東方の教会の伝統(新たな主教はすでに主教となっているもの二名によって叙聖される)を守ることが可能になります。
※余談ですが、この「自然消滅を狙って新規の主教叙聖をおこなわない」というのは、キリスト教/英国正教会【イギリス正教会】がキリスト教/オリエント正教会/コプト正教会より離脱(2015年10月)したときにも観測(コプト正教会は英国正教会の自然消滅)としてあったものです。素性の違う連中が寄り集まっている自治的な集団を解消しようという発想はどこにでもあるということでしょうか。

 また、大主教区そのものについては、ロシア正教会の西欧における総主教代理区に属するものではないとも明言された模様。
 自治的な内容については、詳細ははっきりしませんが……。

 これらの内容からすれば、ロシア正教会側の提案は、これ以上の譲歩の可能性はほぼない(詳細がはっきりしない自治的な内容に関してはともかく)ものですが、大主教区側はこの内容について積極的に受け入れようとする空気は、そこまで広がっていないようにみえます。
 この原因ですが、いろいろ理屈はいってますが、結局のところ、彼らのいう「教会法上合法」というのが、コンスタンティノープルまたはコンスタンティノープルとフル・コミュニオンの状態にある教会に属することであるため、コンスタンティノープルの指示に逆らって行動を起こすということがおかしいということにあるのでないかと思います。
 ロシア正教会側は、この大主教区を受け入れる(自らに戻す)ことは悲願で、達成したいはずですが、一方、現在出している条件ではいつまたコンスタンティノープル側に裏切るかわからない連中が裏切るのを止める方法がないわけで、ここまで出したならここが限界でしょう。本音を言えば、教会財産をすべてモスクワに戻して、大主教区をつぶしたいはずです。
 また、大主教区側には、21世紀に入ってから“裏切った”人々が含まれており、彼らの教会財産や聖職者の地位に対しては、どれだけ保証されるかはわかりません。というか、たぶん財産をすべてモスクワが接収して、聖職者は僻地の修道院かどこかに押し込めると思います(こうなるかはわかりませんが、報復処置がおこなわれそうなほのめかしはあるようです)。

 いずれにせよ、この条件で受け入れられないならば、可能性はもうないわけで、9月7日に臨時総会としたのも、その頃までになにか奇跡が起こってすべてうまくいくといいねみたいななげやりな日程設定だったのでしょう。

 それにしても、あきれるのは、「コンスタンティノープルとモスクワの争いの被害者にはなりたくない!」という発言で、まるで彼らが両者の争いに無関係であるかのような責任感のなさ。
 21世紀にもなって、モスクワから離脱した人々を受け入れた大主教区の連中がなにをいうか、とあぜんとしました。
 あなた方の存在そのものがコンスタンティノープルとモスクワの争いであり、ウクライナ問題の前哨戦です。