ベラルーシ系の小教区(?)が、アメリカ合衆国ウクライナ正教会(UOC-USA)に加入したという話(2024年3月)

 ベラルーシ系の小教区(?)が、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープル/アメリカ合衆国ウクライナ正教会(UOC-USA)に加入したという話が出ています。

 

 (英語:アメリカ合衆国ウクライナ正教会 公式ウェブサイト)Our Lady of Zhyrovytsk Belarusian Orthodox Cathedral of Strongsville, OH Embraced into Spiritual Union with the Ukrainian Orthodox Church of the USA | Ukrainian Orthodox Church of the USA
 (英語)Ohio: Schismatic Belarusian parish joins Ukrainian Orthodox Church of the USA (Constantinople) / OrthoChristian.Com

 

 UOC-USA公式ウェブサイトは、加入した集団がもともと所属していた教会については述べていません。

 OrthoChristian.Com は、加入した集団について、ベラルーシ独立正教会(Belarusan Autocephalous Orthodox Church)に所属していた1小教区とし、たまに言及されているベラルーシ独立正教会(Belarusian Autocephalous Orthodox Church)とは別の教会としています。
※”Belarusan”と”Belarusian”で “i” の有無の異綴字になっています。

 OrthoChristian.Com は加えて、三名の主教がシノドを構成しているとしていますが、主教を三名も擁している集団が、系譜関係もまったく知られずに存在しているものか、と困惑したので、リンクされているその公式ウェブサイトを見てみたところ。

その小教区というか、聖堂?の公式ウェブサイト:
 (英語)BELARUSAN ORTHODOX CATHEDRAL – HOME
※今後、閲覧が可能かどうか不明です。

 どうやら、 UAOC-Sobornopravna というウクライナの在外の教会の系統を組むようで、三名のうち、二名は UAOC-OU (在外ウクライナ独立正教会?)と書かれています。
 また、後者のベラルーシ独立正教会の首座および唯一の主教“スヴャタスラウ大主教”は一時期この教会とも関係があったようですが、現在は関係が無いようです。

His Beatitude, The Most Blesséd UAOC-OU Metropolit MAKARIOS, Svyachenno-Archimandrit,
His Beatitude, The Most Blesséd BAOC Metropolitan SERAFIM, Elder
His Eminence, The Most Rev. UAOC-OU Archbishop DAVID, Geron

+Metropolitan of Vilnius and New York Seraphim
+ Metropolitan Makarios of Houston and Texas
+Archbishop of Kansas and Missouri DAVID

 “ヴィリニュス・ニューヨーク府主教セラフィム座下”(BAOC)
 “ヒューストン・テキサス府主教マカリオス座下”(UAOC-OU)
 “カンザス・ミズーリ大主教デービッド座下”(UAOC-OU)

※「ヴィリニュス」はリトアニアの首都じゃないのと思った方のために説明しておきますと、(詳しく知りませんが)ベラルーシ人の中にヴィリニュスはもともとベラルーシ人のものだったというような感覚があるようです。事実はわかりません。

 この三名が今どのような活動をしているのか、唯一の情報源でもあるようなサイトを持つ聖堂を持っていかれて今後活動ができるのかはまったく不明です(特にセラフィム府主教)。
 また、今回の「加入」が、彼ら三人の同意があったのかどうかもわかりません。

キリスト教/ルーマニア正教会が、「ウクライナ・ルーマニア正教会」を“設置”(2024年2月)

 2024年2月29日、キリスト教/東方正教会/ルーマニア正教会総主教庁の聖シノドの会合がおこなわれました。
 発表文のうち、

追記(2024年3月5日):
 英訳版の発表文が出ているのであらためてリンク。またその他の記事へのリンクを追加。

 

 (英語)Romanian Orthodox Church Holy Synod meets for first time this year: main decisions – Basilica.ro

XユーザーのBasilica.ro (EN)さん: 「Romanian Orthodox Church Holy Synod meets for first time this year: main decisions https://t.co/fEV1qeNy4Z https://t.co/XN8adTsE92」 / X

11. To bless, encourage and support the initiatives of Romanian Orthodox communities in Ukraine to re-establish communion with the Mother Church – the Romanian Patriarchate – through their legal organisation in a religious structure called the Romanian Orthodox Church in Ukraine.

 

 (ルーマニア語)Comunicat: Noi hotărâri ale Sfântului Sinod al Bisericii Ortodoxe Române – Basilica.ro

XユーザーのBasilica.roさん: 「Comunicat: Noi hotărâri ale Sfântului Sinod al Bisericii Ortodoxe Române https://t.co/0OXQIEdLTz https://t.co/ap3iSPn6DG」 / X

11. binecuvântarea, încurajarea și susținerea inițiativelor comunităților ortodoxe românești din Ucraina de a reface comuniunea cu Biserica Mamă, Patriarhia Română, prin organizarea lor juridică în structura religioasă numită Biserica Ortodoxă Română din Ucraina.

 ウクライナにいる、ルーマニア総主教庁とコミュニオンを回復したいルーマニア系住民のために「Biserica Ortodoxă Română din Ucraina」という組織を通じて支援をおこなうとしています。
 この組織がいかなるものなのかは大っぴらにはなっていませんが、英訳では「Romanian Orthodox Church in Ukraine」とされています。日本語では「ウクライナ・ルーマニア正教会」とでもなるでしょうか。

 

 (英語)Romanian Synod establishes “Romanian Orthodox Church of Ukraine,” Ukrainian hierarch responds / OrthoChristian.Com
 (英語)Romanian Patriarchate establishes the "Romanian Orthodox Church of Ukraine" – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)UOC comments on the creation of "Romanian Orthodox Church of Ukraine" – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)OCU calls creation of Romanian Church of Ukraine "brazen invasion" – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)The Synod of the Romanian Church established the “Romanian Orthodox Church of Ukraine” – Raskolam.net
 (英語)The UOC commented on the decision of the Romanian Church to create the “Romanian Church of Ukraine” – Raskolam.net
 (英語)A religious scholar said that the Romanian Church’s decision is a very bad signal for the OCU – Raskolam.net
 (英語)The OCU accused the Romanian Church of working for the FSS over the establishment of the Romanian Orthodox Church of Ukraine – Raskolam.net
 (英語)Controversial decision by Romanian Patriarchate on Ukraine | Orthodox Times (en)
 (英語)Romanian Orthodox Church Opens Door to Ukrainian Communities – Orthodoxy Cognate PAGE
 (英語)Romanian Orthodox Church seeks to establish a canonical branch in Ukraine’s territory – RISU

 

 さて、ここからは管轄権の話ですが。
 現在、東方正教会で主流とみなされる教会のうち、ウクライナの管轄権を主張しているのは、

  • ロシア正教会モスクワ総主教庁
  • ウクライナ正教会(UOC) … モスクワ総主教庁系とも呼ばれますが、現在、独立を宣言しています(教会法上の扱いは難しい状況)。
  • OCU … コンスタンティノープルが教会法をいい加減に取り扱って設置した教会。コンスタンティノープルと、ギリシャ、キプロス、アレクサンドリアが独立正教会として認めていますが、他の教会からは独立がどうとかいう以前にまともな教会組織としてすら認められていません(2019年にトモスを受取りもう五年……)。

 今回のルーマニア正教会の決定は、上記の三教会のいずれとも事前に話をしたという形跡はありません。
 つまり、ルーマニア正教会は他の教会の管轄権を侵害しています。

 これをルーマニア正教会側から見ると、ロシア正教会と話をするのは政治的にリスクが高い上にウクライナ国内においてはまったく無意味であり、モスクワの手先としてウクライナ政府に弾圧されているウクライナ正教会(UOC)と話をするのも意味がなさそうです。
 また、ルーマニア正教会は OCU を認めておらず、話をする必要がある相手ではありません(上記ニュース記事によれば、その OCU の聖職者はルーマニア正教会をモスクワの手先と罵りはじめましたが……)。

 よって、すべて無視して勝手に決めて発表するのが最善なのでそうした、というのが一つの見方でしょう。

 ただ、ウクライナ国内のルーマニア系住民のうち、今回のこの取り組みに賛同している人々がどれだけいるのかはよくわからないところです。

 また、ルーマニア正教会が、上記三教会とこれからも話をしないかはよくわからないところです。これは同教会の長期的な方針があるのかないのか、あるとしたらどういうものかなのにもよります。
 モスクワ総主教庁と一定程度の友好関係を保とうとするのか、 OCU を承認することがありうるのか、また歴史的にはルーマニアの一部でもあったブコビナ(ブコヴィナ)などのウクライナ側の地域を自教会の管轄権内に入れたいのか、など。

 ロシア正教会やウクライナ正教会(UOC)が今回のこの件(管轄権侵害)だけでルーマニア正教会とのコミュニオンを解除するとは思えませんが、ロシア正教会とはモルドバの管轄権を巡って問題が続いており、想定外の事態が発生すればそこまでいってしまうこともありえます。

 

追記:
 この事態がどのように進むかはわかりませんが、一つだけ重要なことを追記しておきます。
 ローマ教皇聖座駐箚のウクライナ特命全権大使アンドリー・ユラシュ閣下(His Excellency Mr Andrii Vasyliovych Yurash)という人物がいて、彼は 2011年(この時は大使ではない)に以下のように述べています。

 (英語)Religious Expert: Russian Orthodox Church Cannot Keep Romanian Orthodox Church From Coming to Ukraine – RISU

“From the viewpoint of the law, the position of the Romanian Patriarchate in Ukraine can be the same as those of the Kyivan Patriarchate. The Ukrainian laws do not and cannot prohibit in any way the development of communities and, later, eparchies of any patriarchate here,” explained Andrii Yurash.


The Ukrainian laws do not and cannot prohibit in any way the development of communities and, later, eparchies of any patriarchate here,
 要するにウクライナには信教の自由があるから、ロシア正教会が教会法違反だと言おうが、ルーマニア総主教庁(ルーマニア正教会)がウクライナでどう活動しても自由だ、ということです。
 これだけ聞くと「その通りだ」と思うかもしれませんが、これは、ルーマニア総主教庁がウクライナに進出すると、ルーマニア系住民が所属しているモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会(UOC)から教区を奪うので、「ざまあ」と言いたいという、ざっくり言えばそれだけのことです。
 この記事が出ているのが 2011年。
 そして13年後の2024年、まさしくルーマニア総主教庁がルーマニア系の信徒のためにウクライナで自由に活動しようという表明をしたところ、このユラシュ閣下が熱烈に支援している=反モスクワの OCU の“聖職者”は、ルーマニア総主教庁を「教会法違反」「モスクワの手先」と罵る事態になっています。

 

追記(2024年3月7日):

 (英語)Creation of the "Romanian Church of Ukraine": the first conclusions – Faith Protection – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists

 ある程度のまとめ記事のようなものです。

 最後の方にある見立てですが。

 コンスタンティノープルが沈黙しているのは、 OCU (コンスタンティノープルがウクライナについて管轄権を認めた)のトップがコメントを出すのを待っているか、あるいはすでにルーマニア正教会とコンスタンティノープルで“取引”が出来ておりルーマニア正教会が OCU を承認する前提での対価になっているという見方です。後者の場合、ルーマニア正教会を批判している OCU の聖職者らは事実を知らされていないということになるでしょうか。そしてこれも後者の場合ですが、ロシア正教会はルーマニア正教会とのコミュニオンを解除することになるでしょう。

 

追記(2024年3月8日):
 UOC と OCU のコメント。
 OCU はルーマニア正教会を批判し、コンスタンティノープル総主教とルーマニア総主教に書簡を送ることを決定したようです。

 (英語:UOC 公式ウェブサイト)Commentary by the UOC Information and Education Department in connection with the intention of the Romanian Orthodox Church to establish her entity on the territory of Ukraine – Ukrainian Orthodox Church
 (英語)The UOC commented on the intention of the Romanian Orthodox Church to open its structure on the territory of Ukraine – Raskolam.net
 (英語)UOC urges Romanian Church to reconsider its decision on Ukraine – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Ukrainian Church Denounces Romanian Orthodox Church's Move to Establish Entity in Ukraine – Orthodoxy Cognate PAGE

 (英語)The OCU condemned the decision of the Romanian Church to establish its structure in Ukraine – Raskolam.net
 (英語)Synod of OCU condemns the establishment of 'Romanian Church in Ukraine’ – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists

キリスト教/ラトビア正教会の代表団が、モスクワ総主教庁より聖油を受け取る(2023年10月)

 2023年10月5日~10月7日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を行使するラトビア正教会(ただし国内の政治の要求により独立正教会であることを宣言)の代表団が、ロシア連邦のモスクワを訪問したようです。

 一行は、ロシア正教会の高位の聖職者のうち、
 クルチツィ・コロムナ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan Pavel of Krutitsa and Kolomna)、
 ヴォスクレセンスク府主教ディオニシー座下(His Eminence Metropolitan DionysiusDionisiy】 of Voskresensk)、
 モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Anthony of Volokolamsk, Chairman of the Department for External Church Relations of the Moscow Patriarchate)、
 らと会談したようです。

 

 (ロシア語:ラトビア正教会 公式ウェブサイト)Встреча в Отделе внешних церковных связей. | Официальный сайт Латвийской Православной Церкви

 

 また、モスクワ総主教庁より聖油を受け取っていることが、最後のパラグラフにさりげなく書かれています。

 この辺りの理屈がまったくわからないと、訪問して何か受け取って帰った、というだけのことになりますが。

 

 (英語)Latvian Church receives Chrism from Moscow just months after consecrating bishop without Moscow’s blessing / OrthoChristian.Com

 

 上記の記事にあるように、この聖油を受け取るという行為は、自らが渡す相手の教会の一部であることを示す、というのがロシア正教会の見解です。
 一方、これもまた上記の記事にあるように、コンスタンティノープルは他の独立正教会にも渡しています(コンスタンティノープルにとって他の独立正教会というのがどういうものなのかもうわからなくなっていますが、それはともかく)。

 ラトビア正教会は、ロシア正教会から許可を得ずに主教の叙聖をおこないました。

関連:
 キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

 この件に関する審議がおこなわれますが……。

 仮に主教叙聖が後付けで承認されるとなると、聖油を受け取っていることを含め、ロシア正教会側から見てラトビア正教会は変わらずロシア正教会の一部であり、問題はあったが後から(ある程度は)修復されているし、残りも後からどうにでもなるということになるのではないでしょうか。

 ラトビア正教会側がどう考えているかはわかりませんが、ラトビアの政治家の目を欺いて教会独立偽装をおこなっておりロシア正教会から独立するつもりはさらさらないか、あるいは情勢がどうなってもいいようにできるだけ綱渡りをしているのか。

キリスト教/東方正教会コンスタンティノープルの司祭が「バルソロメオス総主教のウクライナにおける行動は誤り」(2023年10月)

 (ウクライナ語)«Вважаю дії патріарха Варфоломія стосовно українського питання помилковими»

 (英語)Phanar cleric from UOC-KP: I was re-ordained, why was OCU admitted in rank? – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Phanar priest: Patriarch Bartholomew’s actions in Ukraine are a mistake – News – news of Orthodoxy – the Union of Orthodox Journalists

 (英語)Constantinople priest: The OCU is a spiritually deluded, frivolous church—Patriarch Bartholomew greatly erred / OrthoChristian.Com

 

 キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの司祭がウクライナ語のインタビューで、バルソロメオス総主教のウクライナにおける行動は誤りと述べています。

※インタビューの中には、教会法以外の現実の問題の話もありますが、とりあえずここではルールの話に絞ります。

 2018年に、バルソロメオス総主教らの主導により、ウクライナで“統合会議”なるものが開催され、教会法上合法でなかった“ウクライナ正教会キエフ総主教庁(UOC-KP)”や“ウクライナ独立正教会(UAOC)”らの“主教”らによって、“ウクライナ正教会(OCU)”が結成されました。
 2019年、バルソロメオス総主教のトモスが OCU の“首座”“エピファニー府主教”に渡され、 OCU は独立正教会となった、というのが事の流れですが……。
  OCU を独立正教会、その“主教”らを神品(聖職者)と認めているのは、コンスタンティノープルやコンスタンティノープルに追随したギリシャ人系の教会(エルサレム総主教庁を除く)だけで、元・コンスタンティノープルの聖職者が首座を務めるアルバニア正教会ですら OCU を認めるのを拒否しているという状況。
 もともと、ウクライナには、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を行使していた教会法上唯一合法なウクライナ正教会(UOC)が存在し、こちらはロシア・ウクライナ間の事態の流れにより独立正教会であることを宣言してはいますが、今もこちらをウクライナ国内の唯一の教会法上合法な教会と認めている教会が多数。そもそも、ほとんどの教会にとって、 OCU の“主教”らは神品(聖職者)でない(=せいぜい平信徒、あるいは信徒ですらない)ので、 OCU が独立正教会かどうかというのは実はどうでもいい従属の問題(そもそも平信徒は教会を率いることはできないし、信徒でないならば無関係)です。
 ところが、日本の NHK を含む各国の報道がいい加減なこともあり、何も知らない人たちには、コンスタンティノープルがアホなことをやったという、ただそれだけのことが、まったく伝わっておらず、宗教的に意味があることがおこなわれたようなことになっている。これはまあ、カトリック系のメディアとかもいい加減なので、 NHK が悪いというよりは、所詮メディアは……ということなのでしょう。

 今回の司祭のインタビューでは、この件がさらに掘り下げられています。
 この人物は、上記の教会法上合法でない UOC-KP の“司祭”だったらしいのですが、 2004 年にコンスタンティノープルで叙聖を受けてコンスタンティノープルの司祭となりました。これは、 UOC-KP の“司祭”は司祭としては認められないというのがコンスタンティノープルの姿勢だったからです。つまり彼は、コンスタンティノープルの叙聖を受けるまで、教会法上合法な司祭ではなかったということです。
 ところが、2018年になって、突如上記のような事態になり、 UOC-KP や UAOC の神品(聖職者)は教会法上合法な存在だということになりました。なりましたというか、コンスタンティノープルの中でそうなったのかどうかすらわからないのですが、そう扱っているからそうなったのでしょう。しかし、これに関して、なんにも説明がないのです。なんでいきなり教会法上合法な存在になったのか? 天から何か降ってきたのか? 地から何かわいてきたのか? コンスタンティノープルは彼らを教会法上合法な存在にする行為を何もしていないのだから、元から教会法上合法な存在だったということになるしかないのですが、そうなると 2004年 にこの司祭は(コンスタンティノープルからどうこうされるまでもなく)教会法上合法な司祭だったはずです。しかし、すでに司祭になっている人物に(同格の)司祭の叙聖をおこなうのはこれまたルール違反なので、どこをつついてもコンスタンティノープルはムチャクチャという結論しか出ないのです。

 要するにコンスタンティノープルは、ロシア正教会にマウントをかけたいがために教会法を大幅に無視してムチャクチャをした、その結果多くの教会からスルーされ、今回自らの司祭から批判を受けている、それだけのことです。そして、ここで折れるともはや失墜が避けられないため、ルール違反をルール違反と知りつつ政治的に押し通そうとしているのです。
 それが成功するかどうかは、しないような気もしますが、わかりませんが、したところでだからなんなんだというしか……。

“モンテネグロ正教会”の公式ウェブサイトで、「トモスを手に入れる唯一の条件」は「教会が国家の支持を受けること」(2023年10月)

 キリスト教/東方正教会系統の、主流の教会からはどこからも教会法上合法と認められていない(さらに対立で分裂も起きている)、モンテネグロ正教会(MOC)の、“ミハイロ府主教”(ツェティニェ大主教・モンテネグロ府主教ミハイロ座下 : His Beatitude Mihailo, Archbishop of Cetinje and Montenegrin Metropolitan)側の公式ウェブサイトで、「トモスを手に入れる唯一の条件」は「教会が国家の支持を受けること」というような文章を含む記事が出ています。

 

 (モンテネグロ語:モンテネグロ正教会【ミハイロ府主教側】 公式ウェブサイト)Odgovor Branku Kaluđeroviću | Crnogorska Pravoslavna Crkva

 

 これは要するに、ミハイロ府主教は、元はファナル(コンスタンティノープル)から破門された司祭にすぎないのですが、モンテネグロという国家が認めれば、ファナルから独立正教会として認めるトモスが手に入るだろう、という見解です。
 (対立しているボリス府主教派の立場は、ファナルから破門された人物がトップにいるとトモスが手に入らないだろうという見解)

 これを一笑に付すのは簡単ですが、ラトビアで政府主導で“独立正教会”が成立した(というか宣言した)ということを考えると……(ラトビア正教会の独立は、どこもまだ認めてないようですが)。

 どちらにせよ、外部と関係なく分裂に陥っているモンテネグロ正教会の未来は明るいものでもないでしょう。