“モンテネグロ正教会”で新たな首座が選出されたとの報道。これまでの首座“ミハイロ府主教”はこの動きを否定(2023年9月)

 2023年9月3日に、キリスト教/東方正教会系統の、主流の教会からはどこからも教会法上合法と認められていない、モンテネグロ正教会(MOC)の協議会が開かれ、新たな首座が選出されたと報道されました。

 

Portal Aktuelno:
Opštecrnogorski Zbor, himna – YouTube

 

 (モンテネグロ語)Opštecrnogorski zbor: Episkop Boris je novi mitropolit CPC

 

 この記事によれば、ボリス主教が新たな首座である府主教に選出され、これまで教会を率いていた“ミハイロ府主教”(ツェティニェ大主教・モンテネグロ府主教ミハイロ座下 : His Beatitude Mihailo, Archbishop of Cetinje and Montenegrin Metropolitan)は「引退」とされています。

 

 しかし、 MOC の公式サイトはこの動きを完全に否定。

 

 (モンテネグロ語:モンテネグロ正教会 公式サイト)Propali politički miting | Crnogorska Pravoslavna Crkva
 (モンテネグロ語:モンテネグロ正教会 公式サイト)Privremena zabrana činodjejstvovanja | Crnogorska Pravoslavna Crkva

 

 また、同教会の“シメオン大主教”という人物もこの動きを批判している記事が出、自身と同教区は賛同していないとしています。

 (モンテネグロ語:モンテネグロ正教会 公式サイト)Obraćanje Arhiepiskopa Simeona povodom skupa 03. 09. 2023. godine | Crnogorska Pravoslavna Crkva

 

 詳細は不明ですが、 MOC は2018年にも一部メンバーが離脱して新組織を結成しており、今回の件もそのようなもの(として落ち着く)かもしれません。

 

追記:
 モンテネグロを管轄する、主流の教会から教会法上合法な教会と見なされているのは、セルビア正教会です。
 上記の、新たにモンテネグロ正教会の府主教に選出されたと主張するボリス主教は、セルビア正教会の、ブエノスアイレス・中南米主教キリロ座下(His Grace Bishop Kirilo of Buenos Aires and South-Central America)の いとこ だそうです。

 

追記2:
 英語の記事を出しているところがあったのでリンクしておきます。

 At the gathering in Cetinje, Boris was elected as the metropolitan; Mihailo: A political group that has no legitimacy

 

続報:
 “モンテネグロ正教会”で新たな首座に選出されたと主張する“ボリス府主教”らが扉を破壊して聖堂に侵入したとして、“ミハイロ府主教”側が告訴をおこなったと発表。またそれに対する反論が“ボリス府主教”よりおこなわれた模様(2023年9月)
 “モンテネグロ正教会”の首座“ミハイロ府主教”ら三人の主教が、新たな首座に選出されたと主張する“ボリス主教”の聖職者としての地位を剥奪と発表(2023年9月)
 “モンテネグロ正教会”の新たな首座を称している“ボリス府主教”が礼拝でモスクワ総主教やセルビア総主教の名前を挙げたと、“ミハイロ府主教”側が非難(2023年10月)

東方正教会シスマ2020:モンテネグロ議会選挙でジュカノヴィッチ大統領与党敗北(2020年8月)野党連合の代表の一人は、キリスト教/セルビア正教会の重鎮モンテネグロ府主教アンフィロヒイェ座下に報告

 モンテネグロ議会選挙は野党連合の勝利に終わりましたが、ジュカノヴィッチ大統領はまだまだゴネており余談を許さない状況ではあります。
 ここでは、東方正教会の方面から事態を見ていきます。

 

 もともとモンテネグロは、キリスト教/東方正教会/セルビア正教会の管轄権下にあります。
 一方、同国には、教会法上合法でない勢力が結成したモンテネグロ正教会が存在します。
 ジュカノヴィッチ大統領はこの集団を利用し、コンスタンティノープルから独立正教会として認めるトモスを得て政治に役立てようとしましたが(いわゆるウクライナモデル)、この集団の首座“ミハイロ府主教”がコンスタンティノープルの不興を買っている人物であったこともあり、こちらの計画は進んでいませんでした(ミハイロ府主教は承認に自信を見せたりしていましたが……)。

 一方、ジュカノヴィッチ大統領は、同国のセルビア正教会モンテネグロ府主教庁【モンテネグロおよび沿海の府主教庁】の教会財産を強制接収する法案を通しました。
 これに対する抗議行動は、他の多数の抗議行動と結ぶ付き、今回の選挙結果につながっています。

 選挙後、野党連合の代表の一人ズドラヴコ・クリヴォカピッチ氏(Zdravko Krivokapić)は、モンテネグロおよび沿海の府主教アンフィロヒイェ座下(His Eminence Metropolitan Amfilohije of Montenegro and the Littoral)を選挙後訪問、祝福を求めたようです。

 

Susret Amfilohija i Krivokapića posle izbornog trijumfa opozicije – YouTube

 

 同府主教庁の公式サイトでは、「キリスト復活! モンテネグロ復活!【ハリストス復活! ツルナ・ゴーラ復活!】」などの文字が踊り、ジュカノヴィッチ政権の弾圧終了に向けた選挙結果を祝っていました。
 ただし、組閣は10月予定であり、ジュカノヴィッチ大統領がおとなしくしているとも思われていません。
 まだまだ予断を許さない状況の中、(あとで記事にしますが)北マケドニア共和国の大統領がコンスタンティノープルに対し自国の教会法上合法でない集団を独立正教会として認めるよう要請したというニュースが出てきました。
 どちらもセルビア正教会の管轄権下にある領域である以上、片方の状況がもう片方に強く影響することは言うまでもありません。
 「シスマはシスマは呼ぶ」とは有名な言葉ですが、モンテネグロが落ち着くかどうかはまったく見通せません。

 

関連:
 東方正教会シスマ2020:北マケドニア大統領ペンダロフスキ閣下が、キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教バルソロメオス聖下に対し、同国の教会法上合法でない“マケドニア正教会-オフリド大主教庁”を独立正教会として認めるよう要請したと報道(2020年9月)

 訃報(2020年10月30日):キリスト教/セルビア正教会の重鎮/モンテネグロおよび沿海の府主教アンフィロヒイェ座下が永眠(1938~2020)新型コロナウイルス感染症【COVID-19】の治療で入院との既報

 

キリスト教/“モンテネグロ正教会”の“ミハイロ府主教”が、コンスタンティノープルからの独立正教会としての承認に自信をみせたとの報道(2020年1月)

 キリスト教/東方正教会の教会法上合法な教会に属さない(または主流のグループに属さない)“モンテネグロ正教会(MOC)”首座の“ミハイロ府主教”(ツェティニェ大主教・モンテネグロ府主教ミハイロ座下 : His Beatitude Mihailo, Archbishop of Cetinje and Montenegrin Metropolitan)は、コンスタンティノープルの全地総主教庁から独立正教会として認めるトモスを取得することに自信をみせたとの報道。
 コンスタンティノープル側は、モンテネグロはセルビア正教会の管轄権下にあるとしてたびたび否定していますが、彼ら自身のいうことはまったくあてにならないので渡すかもしれませんとしか……。

※ミハイロ府主教は、ついでに「マケドニア正教会-オフリド大主教庁【MOC-OA】もトモスをもらえるだろう」というように受け取れるように発言しているように書かれていますが、マケドニア正教会のほうは本当に交渉しています

 

 (英語)Mass media: Head of “Montenegrin church” says his structure would get Tomos – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 

関連:
 モンテネグロ議会が野党議員を18人ほど拘束してキリスト教/セルビア正教会の教会財産を大量に接収するための新法を成立(2019年12月)

 

キリスト教/“モンテネグロ正教会”の“ミハイロ府主教”が、イタリア王妃エレナ(モンテネグロ出身)の彫像設置のためモンテネグロを訪問したイタリア王室(直系)継嗣ヴェネツィア公エマヌエーレ・フィリベルト殿下と会見・同行(2019年9月)

※この記事は世界の王室ニュースと一部重複します。

 

 キリスト教/東方正教会の教会法上合法な教会に属さない(または主流のグループに属さない)“モンテネグロ正教会(MOC)”首座の“ミハイロ府主教”(ツェティニェ大主教・モンテネグロ府主教ミハイロ座下 : His Beatitude Mihailo, Archbishop of Cetinje and Montenegrin Metropolitan)は、曾祖母の故イタリア王妃エレナ陛下(Her Majesty Queen Elena of Italy : モンテネグロ出身)の彫像設置のためにモンテネグロを訪問したイタリア王室継嗣のヴェネツィア公/ピエモンテ公/サヴォイア公子エマヌエーレ・フィリベルト殿下(His Royal Highness Prince Emanuele Filiberto of Savoy, Prince of Venice and Piedmont)と会見、同行しました。

 

 エマヌエーレ・フィリベルト殿下とモンテネグロ文化大臣のアレクサンダル・ボグダノヴィッチ閣下(Aleksandar Bogdanović)の会見:

会談と、その後の大臣と殿下それぞれのコメント。殿下のコメントは4:49辺りから、
冒頭などで出てくる白ヒゲの聖職者がミハイロ府主教/
Ministarstvo kulture Crne Gore(モンテネグロ文化省公式チャンネル):
2019 09 07 Cetinje – Ministar kulture Aleksandar Bogdanović – Princ Emanuel Filiberto di Savoja – YouTube

 

向かって左から、エマヌエーレ・フィリベルト殿下、ミハイロ府主教、文化大臣:
Aleksandar Bogdanović – Princ Emanuel Filiberto di Savoja,… | Flickr
Aleksandar Bogdanović - Princ Emanuel Filiberto di Savoja, Cetinje

 

 (モンテネグロ語【セルビア語】ラテン文字:モンテネグロ文化省公式サイト)Detalji | Ministarstvo kulture podržava inicijativu o podizanju spomenika kraljici Jeleni u Podgorici
 (写真)Aleksandar Bogdanović – Princ Emanuel Filiberto di Savoja, Cetinje (07.09.2019.) | Flickr

 

 

 エマヌエーレ・フィリベルト殿下とポドゴリツァ市長イヴァン・ヴコヴィッチ閣下(Ivan Vuković)の会見(ミハイロ府主教が同行):

 (モンテネグロ語【セルビア語】ラテン文字:写真あり)Podrška Glavnog grada za podizanje spomenika kraljici Jeleni – Glavni Grad Podgorica

📢|Podrška Glavnog grada za podizanje… – Glavni grad Podgorica | Facebook

Con il sindaco di Podgorica per… – Emanuele Filiberto | Facebook

 

 

エマヌエーレ・フィリベルト殿下と“モンテネグロ正教会(MOC)”のコトルの教区の聖職者ら:
ПОĆЕТА ПРИНЦА ЕМАНУЕЛА ФИЛБЕРТА… – Епископија Которско-приморска – ЦПЦ | Facebook

 

エマヌエーレ・フィリベルト殿下、モンテネグロ駐箚イタリア共和国特命全権大使、ミハイロ府主教:
Con SE l’Ambasciatore d’Italia in… – Emanuele Filiberto | Facebook

 

追記:
 記事が二つ出ていたのでリンク。

 (英語)Prince Emanuele Filiberto di Savoia: Montenegro has great potential – CdM
 (モンテネグロ語:セルビア語ラテン文字)Crna Gora je preporođena država | Analitika – Informativni Portal

 記事によれば、今回の訪問はミハイロ府主教の招待によるもののようです。なぜか“モンテネグロ正教会”と関係が深いようです。
 モンテネグロ政府の協力などは、対セルビアの戦略の一環でしょうか。
 また、セルビア正教会と“モンテネグロ正教会”との問題について殿下は、知識がないとしてコメントを控えたようです。

 

キリスト教/セルビア正教会の重鎮モンテネグロ・プリモルスカ府主教アンフィロヒイェ座下が、「ローマでもコンスタンティノープルでもなく、エルサレムがすべての教会の母」(2019年7月)

 ロシアのタス通信【ТАСС / TASS】が、キリスト教/セルビア正教会/モンテネグロ・プリモルスカ府主教アンフィロヒイェ座下(His Eminence Metropolitan Amfilohije of Montenegro and the Littoral)へのインタビューを複数回記事にしています。
 その内容に関してのほとんどは、今まで主張されてきたものですが(モンテネグロのジュカノヴィッチ大統領はチトー主義者で無神論者なのに教会を作ろうとしている、など)、一部に注目すべき内容があります。

 

 (ロシア語:ほかにも記事があります)Митрополит: попытка повторить украинский раскол на Балканах станет объявлением войны СПЦ – Общество – ТАСС

 (英語)SOC hierarch: Jerusalem's mother of all Churches not Rome or Constantinople – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 

 タス通信の記事が複数で長いのですべて読めていないのですが、その一分を引用している UOJ の英語記事によりますと(訳が少しあやしいですが)、アンフィロヒイェ座下は、ローマ皇帝コンスタンティヌス1世より前の時代に戻るべきであり、すべての問題は公会議によって解決されるべきと主張しているようです。

 

 また、ローマでもコンスタンティノープルでもなく、東方正教会のすべての教会の母はエルサレムであるとしています。

 最近、エルサレム総主教庁の聖職者から、「エルサレムはすべての教会の母」という文言が挨拶に盛られることが多いのですが、今回のアンフィロヒイェ座下のコメントはそれを支持するかのようにも見えます。

 ただ、エルサレム総主教庁およびアンフィロヒイェ座下のコメントにどのような意味が込められているのかは、いまだはっきりとしない段階です。
 比喩的に用いられるならさして問題とならないものですが、「だからコンスタンティノープルではなくエルサレムが首位となるべき」というのであればこれはまた一つ大問題の発生でしょう。
 しかし、繰り返しますが、現状ではエルサレム総主教庁およびアンフィロヒイェ座下のコメントにどのような意味が込められているのかははっきりしません。