キリスト教/コンスタンティノープル管轄権下で一方的に総主教代理区の地位を廃止(2018年11月)された西欧ロシア正教会大主教区。ロシア正教会に“移籍”した場合に関するモスクワ側の提案はこれ以上譲歩の可能性はなさそうな内容だが快諾はない模様(2019年5月)「なにもしない」ことになるのでは

 キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの管轄権下にあったものの2018年11月にコンスタンティノープルから一方的に総主教代理区としては廃止され、大主教区という集団としても解体されそうな、西欧ロシア正教会大主教区ですが、ロシア正教会に“移籍”した場合に関するモスクワ総主教庁側の回答内容や、聖職者らのコメントなどが散見されます。

 モスクワ総主教庁側の回答内容で目立つのは、“移籍”が成立すれば、同大主教区に(補佐的な職務をおこなう)主教を二名叙聖する用意があるという項目です。
 ジャン大主教座下は、自らが高齢なのにコンスタンティノープルが後継候補の主教を叙聖しようとしないことについて、主教不在による大主教区の消滅を狙ったものだとコメントしていました。
 二名の主教が追加されることにより、(ジャン大主教座下に万が一のことがあっても二名の主教が残っているので)東方の教会の伝統(新たな主教はすでに主教となっているもの二名によって叙聖される)を守ることが可能になります。
※余談ですが、この「自然消滅を狙って新規の主教叙聖をおこなわない」というのは、キリスト教/英国正教会【イギリス正教会】がキリスト教/オリエント正教会/コプト正教会より離脱(2015年10月)したときにも観測(コプト正教会は英国正教会の自然消滅)としてあったものです。素性の違う連中が寄り集まっている自治的な集団を解消しようという発想はどこにでもあるということでしょうか。

 また、大主教区そのものについては、ロシア正教会の西欧における総主教代理区に属するものではないとも明言された模様。
 自治的な内容については、詳細ははっきりしませんが……。

 これらの内容からすれば、ロシア正教会側の提案は、これ以上の譲歩の可能性はほぼない(詳細がはっきりしない自治的な内容に関してはともかく)ものですが、大主教区側はこの内容について積極的に受け入れようとする空気は、そこまで広がっていないようにみえます。
 この原因ですが、いろいろ理屈はいってますが、結局のところ、彼らのいう「教会法上合法」というのが、コンスタンティノープルまたはコンスタンティノープルとフル・コミュニオンの状態にある教会に属することであるため、コンスタンティノープルの指示に逆らって行動を起こすということがおかしいということにあるのでないかと思います。
 ロシア正教会側は、この大主教区を受け入れる(自らに戻す)ことは悲願で、達成したいはずですが、一方、現在出している条件ではいつまたコンスタンティノープル側に裏切るかわからない連中が裏切るのを止める方法がないわけで、ここまで出したならここが限界でしょう。本音を言えば、教会財産をすべてモスクワに戻して、大主教区をつぶしたいはずです。
 また、大主教区側には、21世紀に入ってから“裏切った”人々が含まれており、彼らの教会財産や聖職者の地位に対しては、どれだけ保証されるかはわかりません。というか、たぶん財産をすべてモスクワが接収して、聖職者は僻地の修道院かどこかに押し込めると思います(こうなるかはわかりませんが、報復処置がおこなわれそうなほのめかしはあるようです)。

 いずれにせよ、この条件で受け入れられないならば、可能性はもうないわけで、9月7日に臨時総会としたのも、その頃までになにか奇跡が起こってすべてうまくいくといいねみたいななげやりな日程設定だったのでしょう。

 それにしても、あきれるのは、「コンスタンティノープルとモスクワの争いの被害者にはなりたくない!」という発言で、まるで彼らが両者の争いに無関係であるかのような責任感のなさ。
 21世紀にもなって、モスクワから離脱した人々を受け入れた大主教区の連中がなにをいうか、とあぜんとしました。
 あなた方の存在そのものがコンスタンティノープルとモスクワの争いであり、ウクライナ問題の前哨戦です。

 

ハプスブルク家のエドゥアルト大公殿下(ローマ教皇聖座駐箚ハンガリー大使)が、キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下のルーマニア訪問への喜びを語る(2019年5月)ハンガリー系コミュニティなどの訪問予定が組まれている模様

 ローマ教皇聖座駐箚ハンガリー特命全権大使の、オーストリア大公エドゥアルト殿下(オーストリア皇子 : ハンガリー王子 : ベーメン王子 : His Imperial and Royal Highness Archduke Eduard of Austria, Prince Imperial of Austria, Prince Royal of Hungary and Bohemia : エドゥアルト・フォン・ハプスブルクEduard von Habsburgエドゥアルト・ハプスブルク=ロートリンゲンEduard Habsburg-Lothringen)が、2019年5月末~6月頭に予定されているキリスト教/ローマ・カトリック教会の首座/ローマ教皇聖座およびバチカン市国の絶対君主/ローマ教皇フランシスコ聖下(His Holiness Pope Francis)のルーマニア訪問への喜びを語っています。
 ハンガリー系コミュニティなどへの訪問予定があるようです。

 エドゥアルト殿下は、いわゆるハンガリー副王系の人物です。

 

 (英語)Hungarian Ambassador to Vatican on pope's trip to Romania: “for us it has a special meaning” | ROME REPORTS

ROME REPORTS in English:
Hungarian Ambassador to Vatican on pope's trip to Romania: “for us it has a special meaning” – YouTube

 

追記:
 聖ヨハネ・パウロ2世のルーマニア訪問時に、これらのハンガリー系コミュニティや教会関係の場への訪問がおこなわれなかったことを考えると(おそらくルーマニア正教会への遠慮でしょうから)、カトリックは、ルーマニア正教会を、そして東方正教会を“格下げ”したのでしょう(融和への努力が実ったと表現しても同じですが)。
 ウクライナをめぐる一連のいざこざというか醜態で東方正教会の敗北は決まりましたが、後は、これからどれくらいカトリック側が東方正教会のメンツを立ててさしあげるのかというところでしょう。
 今回も、おそらく教皇からは、ルーマニア側へのお世辞の数々が出るとは思いますが、もう勝ったと思えば、安いものです。

 

マクシム主教発言問題収束せず:ウクライナ問題を巡ってキリスト教/セルビア正教会の米国西部主教マクシム座下がコンスタンティノープル支持(ウクライナへの独立正教会設置は800年前のセルビア正教会設置と同様)の発言をしたと報道された件 → 教会側が本人の釈明・否定の発言を発表 → その発表内容が捏造だと報道 → 教会側がその報道を否定する声明を発表(2019年5月)

 2019年1月に、キリスト教/東方正教会/セルビア正教会の米国西部主教マクシム座下(His Grace Bishop Maxim【Maksim】 of Western America)が、インタビューを受けるという出来事がありました。
 これはシスマに関連するもの以外も含むものです(ものらしいです)。
 その内容なのですが、ウクライナ問題に関連してコンスタンティノープルを支持といいますか、コンスタンティノープルがウクライナに独立正教会を設置したのはセルビア正教会が独立正教会となったのと同じという内容が含まれており、教会法上非合法な集団をルールを完全に無視して独立正教会としたことをセルビア正教会の設立と同様に言及したことでセルビア正教会の800年の歴史の中でかかる暴言を受けたことはないという怒りの声が報道されたりしていたのですが、今月の同教会の聖シノドにおいて本人が釈明・否定をしたという内容の発表がされていました。
 ところが、5月22日付の報道で、この発表の内容がバチュカ主教イリネイ座下による捏造だというものが出たらしく、またまた教会側が報道を否定する声明を発表する騒ぎになっています。

 

 (セルビア語:セルビア正教会公式サイト)Саопштење за јавност | Српскa Православнa Црквa [Званични сајт]

 

 もしやロシア正教会より統制が取れなくなってきているのでは……。
 もうなにが崩れても驚きません。

 

キリスト教/ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下が、パレスチナのキリスト教関連委員会代表団と会見(2019年5月)エルサレム総主教庁よりフリストフォロス大主教座下が同行

 2019年5月22日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下(ヒラリオン府主教 : His Eminence Metropolitan Hilarion of Volokolamsk, chairman of the Moscow Patriarchate’s Department for External Church Relations (DECR))は、パレスチナのキリスト教関連委員会代表団と会見しました。
 キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教庁よりキリアクーポリ大主教フリストフォロス座下(His Eminence Archbishop Christophoros of Kyriakoupolis)が同行した模様。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)DECR chairman meets with delegation of Palestinian Supreme Presidential Committee for Churches’ Affairs | The Russian Orthodox Church
 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)DECR chairman meets with delegation of Palestinian Supreme Presidential Committee for Churches’ Affairs / News / Patriarchate.ru

 

 エルサレム総主教庁より同行がありましたが、ウクライナ問題を巡ってフル・コミュニオンの解除があればロシア側がエルサレムの同席を拒否することになると思われます。そうなるとその後にもパレスチナとロシア正教会の対話があるのかどうかという話にもなりますが……。

 

キリスト教/ギリシャの正教会系メディアRomfeaが、ギリシャ正教会の司祭(詳細不明)がコンスタンティノープル系のウクライナ正教会【OCU】で主教に叙聖される見込みと報道(2019年5月)ギリシャ人優遇策によりギリシャ人系教会がOCU承認へ動く可能性高まる

 見出しで書いた通りです。
「ギリシャ人優遇によりギリシャ人系教会が OCU 承認へ動く可能性高まる」というのも、本当にそういう主旨の文章が Romfea にあります。まあ、優遇とまでは書いていませんが、ワイロ的人事なのは明らかでしょう。
 ギリシャ正教会は OCU を承認していないのにその司祭が承認もしていない教会で“主教”になるとは教会法はどこへいったのか、といいたくもなりますが、しかし「ギリシャ正教はギリシャ人がしいというえ」なので、ギリシャ人が優遇されれば教会法はどうでもいいのです。
 なので、ギリシャ人系教会が OCU 承認へ動く可能性は高まったというか、たぶん承認するでしょう。
 ロシア正教会側の対抗策がどうなるのか、正直、特に手が無いように思いますが……。東方正教会はもう滅んでしまったし、何もしなくてもいいのかもしれません。

 

 (英語)One step away from the election of a Greek Bishop in Ukraine – Romfea News

However, it may can act as a catalyst both to promote closer relations with all Greek-speaking Patriarchates and Churches and to confer a ecumenical status to the newly established Church of Ukraine.

 

追記:
 ロシアの正教会系メディアには、上記の直接の“移籍”(コミュニオン状態にないギリシャ正教会からOCUへの移動というムチャクチャ)を避けるために、一度コンスタンティノープルへ移籍してから OCU に移籍するのではないかという説(?)が出ています。つまり、ギリシャとコンスタンティノープルはコミュニオン状態にあるのでその間の移籍に問題はなく、コンスタンティノープルと OCU もコミュニオン状態にあるのでその間の移籍には問題がない、メデタシメデタシということです。
 しかし、ロシア側のこのような見立て(コンスタンティノープルはルールをなるべく守ってくるに違いない)がここまでほとんどのところハズレているので、逆にギリシャ正教会に圧力をかけて直で OCU に移籍させるのではないかと思えてきますね。

追記2:
 別のロシアの正教会系メディアが、この司祭は、ギリシャ正教会アテネ大主教庁の管轄権下にあるわけでなく、コンスタンティノープルがギリシャ共和国内に保有している管轄権下の府主教庁のいずれかに属しているのではないか、としています。
 この場合、上記の“移籍”の問題は発生しませんが……。

追記3:
 ロシアの正教会系メディアが、上記の司祭はエピファニウス掌院(?)としています。ギリシャ正教会【Church of Greece】所属で、 OCU では“マリウポリ主教”になるとしていますが、教区を管轄するのか、マリウポリで補佐的な主教を務めるのかは不明とのこと。

 今のところ、この掌院をめぐる動きについて、アテネ大主教庁が把握しているのかどうかもよくわからないです。