キリスト教/ロシア正教会/東南アジアにおける総主教代理/シンガポール・東南アジア府主教セルギイ座下が叙任後初の礼拝をおこなう(2019年2月)

 2019年2月10日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会/東南アジアにおける総主教代理/シンガポール・東南アジア府主教セルギイ座下(His Eminence Metropolitan Sergiy of Singapore and South-East Asia, Patriarchal Exarch in South-East Asia)が叙任後初の礼拝をシンガポールにておこなったようです。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Head of the Patriarchal Exarchate in South-East Asia celebrates Divine Liturgy at Dormition church in Singapore | The Russian Orthodox Church
 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Head of the Patriarchal Exarchate in South-East Asia celebrates Divine Liturgy at Dormition church in Singapore / News / Patriarchate.ru
 (英語)Interfax-Religion: Russian Orthodox Church’s Asian exarch assumes office created in response to Constantinople’s actions

 

 東南アジアにおける総主教代理区は、シンガポール、ベトナム、インドネシア、カンボジア、北朝鮮【朝鮮民主主義人民共和国】、韓国【大韓民国】、ラオス、マレーシア、フィリピン、タイ王国を管轄。
 セルギイ座下はモスクワ総主教庁事務局長ですが、一時的にこの職務は停止ということになっているようです。

 また、ロシア正教会はコンスタンティノープルとのシスマ(教会分裂)を受け、昨年末に「西欧における総主教代理区(Patriarchal Exarchate in Western Europe)」を設置しており、ボゴロツク主教イオアン座下がコールスニ・西欧府主教(Metropolitan of Korsun and Western Europe)として西欧における総主教代理(Patriarchal Exarch in Western Europe)となっています(1990年に廃止されていましたが再設置。廃止当時の総主教代理は、後にモスクワ総主教庁下でウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教となる故ボロジミル座下です。一連の事態がすべてつながっていることを感じさせます)。

 どちらもあわただしい叙任で、特に後者は主教から大主教を経ずに府主教に昇叙がなされたとのことで、教会分裂を受けて動きが活発化していることをうかがわせます(さらに少し前に別の地位で赴任予定だったアメリカ合衆国で入国を拒否されるという事態があったとか……)。

 なお、どちらも気が付いたら正教会表記(「西欧正教会」「東南アジア正教会」)がされているかもしれません(ベラルーシの例に倣って)。

 

 「西欧における総主教代理区」については、コンスタンティノープル管轄権下に属し昨年後半に総主教代理区(西欧ロシア伝統正教小教区総主教代理区)としての地位を一方的に剥奪された「西欧ロシア正教会大主教区」との区別がややこしいところもあります。
 どちらも現在の首座は(ロシア語では) Иоанн ですし。

 また、その総主教代理区としての地位を剥奪された西欧ロシア正教会大主教区は今月に臨時総会を開き、今後の活動方針を決定する模様です。
関連:
 キリスト教/コンスタンティノープル管轄下で一方的に総主教代理区としては廃止された西欧ロシア正教会大主教区の臨時総会が開催、集団としての解体を認めないと決定(2019年2月)

 

シスマ2018:インタビュー記事(BBCロシア語):キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁/テルメッソス大主教ヨブ座下(ウクライナ系の人物)(2018年11月)ロシアの正教会系サイトは座下の発言について「全地総主教庁は独立を認めるのみならず、独立を剥奪することもできる」

 BBCロシア語が、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープル全地総主教庁のテルメッソス大主教ヨブ座下(Archbishop Job of Telmessos)へのインタビューの記事を掲載しています。

 

 (ロシア語)"Надеемся, Москва обратится к разуму". Константинопольский епископ об украинской автокефалии – BBC News Русская служба

 

 ざーっと見てみましたが、とにかく長いうえに、大半がこちらには判定できない内容なので、詳細は読まないとは思います。

 この記事について、ロシアの正教会系サイト「OrthoChristian.Com」は、

 (英語)Not only can we give, but we can also take away autocephaly—Abp. Job (Getcha) / OrthoChristian.Com
 (英語)“The Moscow Patriarchate no longer exists in Ukraine today”—Abp. Job (Getcha) / OrthoChristian.Com

 「我々は独立を与えるだけでなく、剥奪することをもできる」と見出しにつけて紹介しています。
 当方はざーっと読んだだけなので、BBCロシア語の記事において、直接この部分にあたる箇所を見つけていません。
 とはいえ、全地総主教庁がそう考えているのはほぼ間違いないでしょう。
 近代において、彼らは、ギリシャ正教会の独立を認めた後に剥奪しています。
 そうなると、独立正教会というのは、「そもそも独立しているのか」というのが疑問になってきます。Autocephaly な 教会を「独立正教会」または「独立教会」としたのは、誤訳の類で、実際は「いつでも権限を剥奪される可能性のある自治的な教会」のことでしょう(全地総主教庁の見解が正しいとすれば)。もちろんこれでは Autonomous な教会との差がわかりませんが、「いつでも権限を剥奪される可能性のある第一級自治正教会」と「いつでも権限を剥奪される可能性のある第二級自治正教会」とでもすればよろしい。
 それにしても独立正教会が実は「独立していない正教会」のことだったとは……。

 また、座下は、1054年の東西教会分裂(教会大シスマ)のときと今では状況が違うことを述べています(1054年についてはめんどくさい話にもなりますので、とりあえず象徴的な年だとして先へ話を進めましょう)。
 要するに、東西教会分裂は神学上の違いなどがあったのに対し、今回はそんなものはない、シスマなどといっている連中は人々を脅しているのだ、ということです(当方のサイトもシスマといっているので、大主教からお叱りを受けてしまったことになるのでしょう!)。
 しかし、座下の発言全体をざっくり要約すれば、「我々が正しい。ロシアは従わないなら教会法違反。異論は認めない」といっているだけ
 ウクライナ系の人物が話し合いをする気がない意思をロシアに対して示しているのは、なるほどシスマではなく、ただの世俗的ケンカにすぎないともいえるでしょう。
 ですが、2016年の聖大シノド(The Great and Holy Synod)の件をみても明らかなように、教えに関しても分裂の兆しははっきりとあります。
 あるいは教会法についてまともな統一的見解も出てきていない状況を見れば、「一つの教えを奉じている」などというのが大嘘か大間違いで、「一つの教えを奉じている詐欺」か、「一つの教えを奉じているつもりだったがそんなことはなかったぜ!」というオチすら見えてきています(これについては本気で疑っており、検証すべきことだと考えています)。
 いずれにせよ、座下の定義するシスマにあてはまるかそうでないかはともかく、東方正教会は分裂するので(話し合うつもりがないんですから)、これからもシスマと書きます。

 そのほか、(ロシアのみならずオランダ系の機関による)世論調査で全地総主教庁の見解(ウクライナの人々が望んでいる)とは明らかに反する結果が出たのを意識したのか、「議会の多数の賛成があれば多数の人々が望んでいるということなのだ」という理屈をおっしゃっています。
 ジャン=ジャック・ルソー以降、思想家は、民意(民意に相当する言葉)をベースに、民主主義と現在いわれているよくわからない考えの集積について頭をひねってきましたが、結局のところ、民意というものがとらえどころがない=なんとでもいえるという現実を克服することはできず、「でも豊かで平和だしこれからも世の中はよくなるだろう」というにまどろんで仕事をサボっているうちに、アメリカや西欧は(他の地域も)とんでもない状況を迎えています。
 そんな時期に、「議会の多数の賛成があれば多数の人々が望んでいるということなのだ」。……こんなものは今どき意見のうちにも入りません
 世俗化(=聖職者はバカなので宗教に金や時間をつぎこむのはムダ)が進むわけだと納得してしまいました。いやまあ……もとから知ってました……けど。

 

 ともあれ今回のインタビュー、読みこむ気がまるでしませんが、キリスト教、東方正教会のダメっぷりをあらわす記念碑的なものになっているのではないか、と強引に歴史的評価をして感想を終わりたいと思います。

 新約聖書/マタイによる福音書/10章/34節 より:

わたしが地上に平和をもたらすために来たと考えるな。平和ではなく剣をもたらすために来たのだ。

 

 【シスマ2018 – The Schism of 2018】<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など<東方正教会内戦、大分裂、そして崩壊?>

 

シスマ2018:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁系統の西欧ロシア伝統正教小教区総主教代理区下にあったイタリア・フィレンツェの教会が、在外ロシア正教会【ROCOR】に移ったとの報道(2018年10月)

 2018年10月28日に、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの全地総主教庁の管轄権下にある西欧ロシア伝統正教小教区総主教代理区のイイスス・ハリストス降誕・奇蹟者聖ニコライ聖堂が、信徒らの意見も踏まえて、在外ロシア正教会【ROCOR】に移った、との報道が出ています。
 これは、全地総主教庁のウクライナへの介入、ロシア正教会が全地総主教庁とのコミュニオンを解除したことによるものです。

 

 (英語)Parish in Italy moves from Constantinople to ROCOR / OrthoChristian.Com
 (ロシア語)Интерфакс-Религия: Община Константинополя во Флоренции перешла в РПЦЗ в ответ на его действия на Украине
 (フランス語)Florence : la paroisse russe Saint Nicolas décide de se placer sous l’omophore de l’EORHF

※聖堂の公式サイトのほうはいまだ情報なし
 (ロシア語)Русский Православный Храм | Рождества Христова и Св. Николая Чудотворца

 

 なお、同じく全地総主教庁下にあるアメリカ合衆国アメリカ・カルパト=ロシア正教教区から、少し前に司祭が一人離脱し、在外ロシア正教会【ROCOR】に合流したとの情報もあります。

 これらの教会は、ロシア的伝統を保持しながら、全地総主教庁の管轄権下にあったわけですが、これからも動きが続くかもしれません。

 

 【シスマ2018 – The Schism of 2018】<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など<東方正教会内戦、大分裂、そして崩壊?>

 

シスマ2018:ギリシャの正教会系メディア「ΒΗΜΑ ΟΡΘΟΔΟΞΙΑΣ」が、ロシア大統領ウラジーミル・プーチン閣下の第6回在外同胞世界会議でのコメントを「ウクライナにおけるコンスタンティノープルの全地総主教庁の行動を批判」「シスマに関する初の意見表明」と報道(2018年10月)ロシア系メディアはこの件について特に報道せず

 ロシア連邦では、第6回在外同胞世界会議(6th World Congress of Compatriots Living Abroad)というものが開催されています。海外に在住するロシア人との絆を維持していくための行事のようです。
 2018年10月31日、ロシア連邦大統領ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン閣下(His Excellency Mr Vladimir Vladimirovich Putin)が、スピーチをおこなった模様です。
 ギリシャの正教会系メディア「ΒΗΜΑ ΟΡΘΟΔΟΞΙΑΣ」は、プーチン大統領が「ウクライナにおけるコンスタンティノープルの全地総主教庁の行動を批判」「シスマに関する初の意見表明」と報道しています。

 

 (ギリシャ語)Ο Πούτιν προς Οικουμενικό Πατριαρχείο: Οποιος πολιτικοποιεί τη θρησκεία θα έχει συνέπειες – ΒΗΜΑ ΟΡΘΟΔΟΞΙΑΣ

 

 一方で、ロシア系メディアは、第6回在外同胞世界会議が始まったことと、プーチン大統領がスピーチをおこなったことは記事にしているものの、教会に関する発言を重要視していない、というか教会に関する部分の発言を報道しているものを見かけません
 スピーチ内容がクレムリンの公式サイトにあったので(とりあえず英語版を)チェックしてみましたが……

 

 (英語:ロシア大統領府【クレムリン】公式サイト)World Congress of Compatriots Living Abroad • President of Russia

I must also say a few more words about the efforts of the Russian Orthodox Church and other traditional national confessions, including Islam, Judaism and Buddhism. I can see many representatives of these religions in this hall, and I would like to welcome them. I want to thank them for their efforts to strengthen cultural and humanitarian ties between our compatriots abroad and Russia. Unfortunately, some are now trying to sever these ties, one way or another, and to force these people to stay in their respective countries. I would like to note one thing: political intrigues in this sensitive sphere have always spelled dire consequences, primarily for those who are doing this. It is our shared duty (to the people, in the first place) to do everything possible to preserve spiritual and historical unity.

 該当部分はおそらくここでしょう。
 確かに「ロシア正教会」という単語はあり、「私は一つのことを指摘したい:この慎重に扱うべき領域における政治的策謀は、それをおこなったものたちをはじめとして、常に深刻な結果を招いてきた」という部分はシスマに関するコメントに思えます。
 一方、イスラム教、ユダヤ教、仏教の名も並んでおり、コンスタンティノープルの全地総主教庁の名称を出しているわけでもないので、現今の世界情勢(反ロシア)と歴史について一般論を語っただけのように取ることもできます。

 すでにロシア大統領報道官ペスコフ氏が「クレムリンはロシア正教会の懸念を共有」と述べており、ロシア系メディアがスルーしているところをみると、今回の発言は気にするものではないのでしょう。

 

 とはいえ、東方正教会の信徒の中で最大の影響力を持つ政治家の発言なので、宗教に関して発言した場合に東方正教会系メディアが報道するのは、過敏とまでいうのかはわかりませんが。

 

President of Russiaさんのツイート: "At the World Congress of Compatriots, the President announced the approval of the 2019–2025 State Migration Policy Concept https://t.co/8Q36dHPwBg… https://t.co/jK4gfkG9AA"

 

追記:
 ΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)(の引用元記事)は、プーチン大統領が批判している対象を第一にアメリカ合衆国としています。
 また、ロシア外交筋がギリシャ政府に対して、ロシア寄りの姿勢を示すよう要求しているとしています。

 (ギリシャ語)Πούτιν για αυτοκεφαλία στην Ουκρανία: ''Θα υπάρξουν σοβαρότατες συνέπειες''

 

 【シスマ2018 – The Schism of 2018】<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など<東方正教会内戦、大分裂、そして崩壊?>

 

キリスト教/カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー座下が、コンスタンティノープルの全地総主教バルソロメオス聖下を訪問(2018年10月)

 2018年10月19日、キリスト教/アングリカン・コミュニオン/英国国教会/カンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビー座下(全イングランド首座 : The Most Reverend and Right Honourable Justin Welby : His Grace The Lord Archbishop of Canterbury : Primate of All England)は、キリスト教/東方正教会首席/コンスタンティノープル=新ローマ大主教・全地総主教バルソロメオス聖下(バーソロミュー1世世界総主教バルトロマイ1世ヴァルソロメオス1世 : His All-Holiness Bartholomew, Archbishop of Constantinople-New Rome and Ecumenical Patriarch)を訪問しました。

 

 (英語:カンタベリー大主教公式サイト)Archbishop of Canterbury visits Ecumenical Patriarch in Istanbul | The Archbishop Of Canterbury

 

Lambeth Palace نさんのツイート: "Archbishop @JustinWelby visited the Ecumenical Patriarch in Istanbul today. Find out more: https://t.co/hA2rYgMOAV… "

 

 会談中、バルソロメオス聖下は、ジャスティン・ウェルビー座下に、ウクライナ及びマケドニア共和国(マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 : FYROM)における全地総主教庁の立場を伝えた模様。
※ジャスティン・ウェルビー座下は、昨年【2017年】11月にロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下よりロシア正教会側の立場を説明されている模様。

 上記リンクのカンタベリー大主教公式サイトの記事末尾には、ジャスティン・ウェルビー座下のコメントとして「ウクライナで持ち上がっている(東方正教会の)教会法上の問題は東方正教会が対処する問題」という主旨から始まる、外部の教会の人がコメントしそうな短いコメントが末尾に掲載されています。

 

関連:
 【シスマ2018 – The Schism of 2018】<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など<大分裂、または崩壊?>