シスマ2018:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁系のエストニア使徒正教会が声明内に、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会について「いわゆる“教会法上合法な”教会」と合法性を否定した一文(2018年10月)

 新約聖書/マタイによる福音書/10章/34節 より:

わたしが地上に平和をもたらすために来たと考えるな。平和ではなく剣をもたらすために来たのだ。

【シスマ2018】東方正教会大分裂: ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧

 

 (エストニア語:エストニア使徒正教会公式サイト)Mõtisklusi Ukrainast – Eesti Apostlik-Õigeusu Kirik

nö “kanooniline” kirik

いわゆる「教会法上合法な」教会

 今回の騒動前まで、コンスタンティノープルの全地総主教庁はモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会を教会法上合法な教会として認めていたことは否定できないはずですが、ウクライナの管轄権を放棄したことがないなどの発言が続き、完全にモスクワ総主教庁系のウクライナ正教会の地位を否定しているようです(もちろん管轄権を放棄したことがないなら、モスクワ総主教庁が設置した教会は教会法を無視して勝手に設立されたものなので、合法ではないことになりますが)。

 いずれにせよ、エストニア国内のコンスタンティノープル系とロシア系の東方正教会の対立も再燃するでしょう。
 最近ではロシア正教会との融和を狙ってきたエストニア大統領カリユライド閣下には迷惑なことですが、バルト三国の一員であることはそれ以上に迷惑なことが押し寄せてくることであることなので、さほど動じていないかもしれません。

 

キリスト教/キプロス大主教クリソストモス2世座下が、ロシアのセルゲイ・ ステパーシン(元)首相と会見(2018年10月)

 2018年10月7日、キリスト教/東方正教会/キプロス正教会の首座/ノヴァ・ユスティニアナと全キプロスの大主教クリソストモス2世座下(His Beatitude Archbishop Chrysostomos II of Nova Justiniana and all Cyprus)は、キプロス共和国を訪問中の元ロシア連邦首相セルゲイ・ヴァディモヴィチ・ステパーシン中将(Colonel General Sergei Vadimovich Stepashin)と会見しました。
 ステパーシン(元)首相は一時はエリツィン(当時)大統領の後継候補でしたが、結局そうはならず(プーチン(現)大統領が就任)、現在では Imperial Orthodox Palestine Society (帝立正教パレスチナ協会?)という、ロシア国内及び東方正教会関連の地域を除くとあまり知名度が高くないらしい団体の会長を務めています。

 会談では、経済を含む両国の関係強化や、ロシア正教会信徒のエルサレム巡礼の通過地・正教会関連の遺跡などがあるキプロスの重要性(平たくいえばロシアからの観光)などが語られたようです。

 キプロス共和国では、近年でも、メディアが国営企業民営化の妥当性についてクリソストモス2世座下に質問するなど、大主教の政治・経済との関わりが他国と違うようにも思えます。

 キプロス正教会のタマソス・オレイニ府主教イサイアス座下(His Eminence Metropolitan Isaias of Tamassos and Oreini)が同席。

 

 (ギリシャ語:キプロス正教会公式サイト)Συνάντηση Αρχιεπισκόπου Κύπρου με τον Πρωθυπουργό της Ρωσίας Sergei Stepashin – Εκκλησία της Κύπρου

 (ロシア語)Сергей Степашин посетил на Кипре ставропигиальный мужской монастырь Махерас и Церковь св. Лазаря Четырехдневного
 (ロシア語)Сергей Степашин встретился с Предстоятелем Кипрской Православной Церкви Блаженнейшим Архиепископом Новой Юстинианы и всего Кипра Хризостомом II

 

Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της… – Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της Εκκλησίας της Κύπρου | Facebook

 

Императорское Православное Палестинское… – Императорское Православное Палестинское Общество | Facebook

 

追記:
 クリソストモス2世座下も、ウクライナの問題について、汎・東方正教会会合を求めている、というロシア・メディアの報道です(ステパーシン元首相の発言から)。

 (ロシア語)Интерфакс-Религия: Архиепископ Кипра выступает против вмешательства политиков в дела Православной церкви на Украине – Степашин
 (英語)Archbishop of Cyprus opposes political interference in Ukrainian Church affairs / OrthoChristian.Com

 なお、会見を報じたギリシャの正教会系メディア「Romfea.gr(ΡΟΜΦΑΙΑ)」はウクライナに関する事項は報じていないようです。
 (ギリシャ語)Στον Αρχιεπίσκοπο Κύπρου ο πρώην Πρωθυπουργός της Ρωσίας Σεργκέι Στεπάσιν

 この、教会の首座らと会見した人物が「首座はこういっていた!」とメディアなど外部に発言する内容は信用できないというのが現在進行中の東方正教会大分裂【シスマ2018】の特徴です。

 キプロス正教会公式サイトにもウクライナに関する話題はなかったので、正否は不明ではあるものの、シスマに積極的に関わりたくない教会のひとつとみておいていいでしょう。
 しかし、ならば、「問題に関わりたくないが、ロシアの金は欲しい」といっているようなものではないかとも思えます。

 

 独立正教会の首座を含む聖職者らが、大きな問題になっているのに普段のきれいごとの説教のような言葉遣いをしたために、ウクライナ系メディアがそれを自分たちの好きなように解釈して報道し、それに対立するためにロシア系メディアが自分たちに都合の良いほうに少し動かして報道する、ということが繰り返され、もはやこの問題について(ウクライナ、ロシア関わらず)メディアの報道は信用できない状況です。

 シスマ2018の最大の問題は、各教会の発信する情報が明確でないために事態がややこしくなっていること。
 そしてそれをまったく反省せずに各教会が曖昧な情報発信を続けていること。
 それらが原因で正確でない情報が拡散し、さらに事態を悪化させていること、となるでしょう。
 部外者の視点ではただただあきれるだけですが……聖職者や信徒らはどう考えているのでしょう。

 

関連:
 【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

シスマ2018:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁クリストポリス主教マカリオス座下が、現在“キエフ総主教”を称するフィラレート聖下が1990年にロシア正教会の首座になれなかったのは「ウクライナ人だったから」と発言していた模様(2018年9月)ロシア正教会系メディアは選出されたアレクシー2世聖下はドイツ人とスウェーデン人の血を引くエストニア人であると(微妙な)反論

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 先月、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの全地総主教庁のクリストポリス主教マカリオス座下(His Grace Bishop Makarios of Christoupolis)が、1990年のロシア正教会の首座選出において、現在“キエフ総主教”を称しているフィラレート聖下が選出されなかったのは「ウクライナ人だから」と発言していたようです。

 ロシア正教会系メディアは、選出されたモスクワ総主教アレクシー2世聖下もまたドイツ人とスウェーデン人の血を引くエストニア人であり、ロシア人ではないとしています(もっともこれは、ウクライナ人だから排除されたという主張への反論にするには微妙でもありますが)。

 

 (英語)Constantinople hierarch fuels nationalistic enmity, claims Philaret was not chosen as Russian patriarch because of Ukrainian origin / OrthoChristian.Com

 

 いずれにせよ、全地総主教庁はソ連崩壊後にロシア正教会の社会的地位を大幅に躍進させた故アレクシー2世の選出まで否定的に扱い始めました。
 なんといいますか……そろそろ分裂するのも仕方ないねという状況が完全に整いつつあるような気がします。

 

追記:
 なお、マカリオス座下は後に(ウクライナのメディアのサイトに掲載された)この発言記事は自分の承認を経たものでもないとしています(1週間もたってからギリシャ系正教会メディアで情報が出る有様ですが)。

 (ギリシャ語)Ο Χριστουπόλεως Μακάριος απαντά στον Βολοκολάμσκ Ιλαρίωνα

 

シスマ2018:ウクライナのNGOがポロシェンコ政権がウクライナ憲法の政教分離を無視して宗教に介入しているとしてキエフの地区裁判所(?)に提訴した模様(2018年10月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 ウクライナのNGO「法の支配」が、ペトロ・ポロシェンコ政権の政治家たちなどがコンスタンティノープルの全地総主教庁にウクライナへの独立正教会設置を求めたのは、ウクライナ憲法の政教分離を無視しての宗教への介入にあたるとしてキエフの地区裁判所(?)に提訴した模様です(9月末)。
 2018年10月1日、裁判所はこれを受理し、11月13日に審査かなにかがおこなわれるようです。

※いろいろ間にあわないのでは……?

 

 (ウクライナ語:キエフ地区裁判所?公式サイト)До суду звернулись щодо компетенції органів влади втручатися у діяльність церкви шляхом підписання та направлення звернення до Вселенського Патріарха Варфоломія про надання Томосу | Окружний адміністративний суд міста Києва

 (ロシア語)За что против Порошенко подали иск в суд и на каких основаниях | ВЕСТИ

 (ウクライナ語:ウクライナ正教会公式サイト)Київський суд розгляне позов про втручання Президента у церковні справи (оновлено) – Українська Православна Церква
 (ロシア語:ウクライナ正教会公式サイト)Киевский суд рассмотрит иск о вмешательстве Президента в церковные дела – Українська Православна Церква

 

 このNGOの立ち位置がわかりませんが、ポロシェンコ政権の政治家らからは「ロシアの手先」といわれるのは間違いないでしょう。スパイ疑惑で逮捕されるかもしれません。

 

シスマ2018:キリスト教/ジョージア正教会【グルジア正教会】が声明を発表(2018年9月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 2018年9月30日付で、キリスト教/東方正教会/ジョージア正教会【グルジア正教会】総主教庁が、コンスタンティノープルの全地総主教庁がウクライナに一方的に独立正教会を設置しようとしていることについて声明を発表しています。

 

 (ジョージア語【グルジア語】:ジョージア正教会【グルジア正教会】総主教庁公式サイト)საქართველოს საპატრიარქოს განცხადება (30.09.2018)

 

 内容ですが、東方正教会全体と多数の信徒が関わる問題なので、コンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁でよく話しあってくれ、というようなものです。

話し合いにいってダメだったからこうなったのでは……」と思ってしまいますが……。

 なお、ジョージア正教会の聖職者は以前に「ジョージア正教会はこの問題にかかわらない」というような発言を出していましたが、今回の声明は軌道修正を試みたものなのか、「引き続きかかわらないのでそちらでよろしく」という意味なのか。発信の意図がいまいち見出せません。

 

 国家としてのジョージアのうち事実上分離している地域がありますが、そのうちアブハジアにはアブハジア正教会がジョージア正教会からの分離を宣言しています。
 最大級のシスマが起こりつつあることで、各地のシスマもまた注目されつつあります。「教会法上合法な教会」という概念は生き延びることができるでしょうか。