キリスト教/ポルヴォー・コミュニオンを構成する教会の指導者らが、ロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下に戦争を終結させるよう努力を要請する書簡(2022年10月)

 キリスト教のポルヴォー・コミュニオン(The Porvoo Communion)は、2022年10月11日から10月13日まで、フィンランド共和国のタンペレで会合を開催しました。

 ポルヴォー・コミュニオンというのは、欧州のアングリカン・コミュニオンと(北欧などの)ルター派の教会で構成されている、同じ教えを完全に共有しているわけではないものの、ある程度の共通性を認識し、相互に礼拝などを有効として信徒の参加を認めたりしているコミュニオンです(正確ではないかもしれません)。

 

 (英語:ポルヴォー・コミュニオン公式サイト)Meeting of Primates and Presiding Bishops of the Porvoo Communion of Churches – The Porvoo Communion

 

 今回の会合は、 COVID-19 の影響によって遅延していたものが開催されたということになりますが。
 一方、直近でおこっている戦争に関して、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の首座/モスクワ・ロシア全土【ルーシ全土】総主教キリル聖下(キリール総主教キリイル総主教 : His Holiness Kirill, Patriarch of Moscow and all Russia【Rus’】)に戦争を終結するための努力を共におこなうよう要請する書簡が出されています。

※同様の書簡は各方面から出ていますが、ポルヴォー・コミュニオンから出るのは予想していなかったので、記事にしています。

 

 (英語:ポルヴォー・コミュニオン公式サイト)Letter to Kirill – The Porvoo Communion

 

 これには下記14名の方々が名を連ねていますが、

Most Revd Dr Tapio Luoma, Evangelical Lutheran Church of Finland
Most Revd and Right Honourable Stephen Cottrell, Church of England
Rt Right Revd Dr Olav Fykse Tveit, Church of Norway
Rt Revd Rinalds Grants, Evangelical Lutheran Church of Latvia
Most Revd Dr Antje Jackelén, Church of Sweden
Most Revd Dr Michael Jackson, Church of Ireland
Rt Revd Tor Berger Jørgensen, Lutheran Church in Great Britain
Rt Revd Carlos López Lozano, Reformed Episcopal Church of Spain
Rt Revd Jorge Pina Cabral, Lusitanian Church (Portugal)
Rt Revd Agnes M. Sigurðardóttir, Church of Iceland
Rt Revd Peter Skov-Jakobsen, Evangelical Lutheran Church in Denmark
Most Revd Mark Strange, Scottish Episcopal Church
Most Revd Urmas Viilma, Estonian Evangelical Lutheran Church
Most Revd Lauma Zusevics, Evangelical Lutheran Church of Latvia Worldwide

※やや表記を変えますが、

  • フィンランド福音ルター派教会【ELCF】首座監督/トウルク・フィンランド大監督タピオ・ルオマ座下(The Most Reverend Archbishop Tapio Luoma of Turku and Finland)
  • 英国国教会(のナンバー2)/イングランド首座/ヨーク大主教スティーヴン・コットレル座下(The Most Reverend and Right Honourable Stephen Cottrell SCP, Archbishop of York and Primate of England)※ちなみにイングランド首座はカンタベリー大主教です。
  • ノルウェー国教会首座オーラヴ・フィクセ・トゥヴェイト座下(The Most Reverend Olav Fykse Tveit, Primate of the Church of Norway)
  • ラトビア福音ルター派教会リナルズ・グランツ牧師(The Right Reverend PastorRinalds Grants
  • スウェーデン国教会首座/ウプサラ大監督アンチェ・ヤケレン座下(The Most Reverend Antje Jackelén, Archbishop of Uppsala, Primate of Sweden)
  • アイルランド国教会/ダブリン大主教/アイルランド首座マイケル・ジャクソン座下(His Grace Micheal Jackson, Church of Ireland Archbishop of Dublin, Primate of Ireland)
  • グレートブリテン・ルター派教会監督トール・B・ヨルゲンセン座下(The Right Reverend Tor Berger Jørgensen, Bishop of the Lutheran Church in Great Britain)
  • スペイン改革監督教会主教カルロス・ロペス・ロサノ座下(The Right Reverend Carlos López Lozano, Bishop of the Spanish Reformed Episcopal Church)
  • (ポルトガル)ルシタニア教会主教ジョルジ・ピナ・カブラル座下(Jorge Pina Cabral, Bishop of the Lusitanian Church)
  • アイスランド国教会首座/アイスランド監督アグネス・シグルザルドッティル座下(The Right Reverend Agnes M. Sigurðardóttir, Bishop of Iceland)
  • デンマーク国教会/デンマーク首座/コペンハーゲン監督ピーター・スコウ=ヤコブセン座下(The Right Reverend Peter Skov-Jakobsen, Bishop of Copenhagen, Primate of Denmark)
  • スコットランド聖公会首座/マリ・ロス・ケイスネス主教マーク・ストレンジ座下(The Most Reverend Mark Strange, Bishop of Moray, Ross and Caithness, Primus of the Scottish Episcopal Church)
  • エストニア福音ルター派教会(Estonian Evangelical Lutheran Church : EELC : EELK)首座/タリン大監督ウルマス・ヴィールマ座下(The Most Reverend Urmas Viilma, Archbishop of Tallinn, Primate of the Estonian Evangelical Lutheran Church)
  • 全世界ラトビア福音ルター派教会(Latvian Evangelical Lutheran Church Worldwide : LELCW : LELBP)大監督ラウマ・ズシェヴィクス座下(The Most Reverend Archbishop Lauma Zuševics

 いずれも各教会の首座や上位の人物です。

※なお、ラトビア福音ルター派教会はオブザーバです(全世界ラトビア福音ルター派教会は参加教会です)。

 名を連ねている人々を見ると、ウェールズ聖公会からの人物がおりません。ただ、会合参加者に同教会からの参加者がいますので、首座名で名を連ねることができなかっただけかもしれません。
 一方、リトアニア福音ルター派教会は、会合参加者にすら名前がなく、また、このポルヴォー・コミュニオンの公式サイトを検索してみたところ、同教会の名称が最後に出てくるのは2015年です。合意には参加したものの、熱心にかかわっていない、ということなのかはわかりませんが。

 

 余談ですが、 FAQ ページが興味深いのですが、それはそれとして下部二つの設問。

 (英語:ポルヴォー・コミュニオン公式サイト)Frequently Asked Questions – The Porvoo Communion

「私は司祭/牧師だが、他の教会で働くことが出来るか?」という質問に対し、

First you need to see if there is job available.

「まずあなたは求人があるかどうかを確認する必要があります」

 というシンプルな説明から具体的な話が掲載されていて現実的だなあと感心します。
 とはいえ、各国で(日本でも)、特に上位の指導者ではない聖職者・教職者は教派から教派へ移動したりもしますので、ましてコミュニオン状態にあればこのような FAQ の準備も当然でしょうか。

キリスト教/ロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下が、イスラム協力機構【OIC】事務総長【事務局長】ヒセイン・ブラヒム・タハ閣下と会見(2022年10月)

 2022年10月25日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の首座/モスクワ・ロシア全土【ルーシ全土】総主教キリル聖下(キリール総主教キリイル総主教 : His Holiness Kirill, Patriarch of Moscow and all Russia【Rus’】)は、ロシア連邦を訪問中のイスラム協力機構【OIC】事務総長【事務局長】ヒセイン・ブラヒム・タハ閣下(His Excellency Hissein Brahim Taha)と会見しました。

※ OIC のツイッターが、キリル総主教を、カザン・タタールスタン府主教のキリル座下と混同しているかのような表記(Patriarch Kirill / Metropolitan of Kazan and Tatarstan(Patriarchy of the Russian Orthodox Church))をしているので、メモ的な意味でも記事にしておきます。名前が一緒だと混同することは、東方正教会内ですらありますが、総主教を別人と混同するのは珍しい。 OIC の事務局にとって、イスラム教徒の多いタタールスタンは重要ではあるでしょうが。

 

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁 公式サイト)Святіший Патріарх Кирил зустрівся з генеральним секретарем Організації ісламського співробітництва / Новини / Патріархія.ru

russianchurch(ロシア正教会モスクワ総主教庁 公式チャンネル):
Святейший Патриарх Кирилл встретился с генеральным секретарем Организации исламского сотрудничества – YouTube

 

OICさんはTwitterを使っています: 「The OIC Secretary-General also met with Rushan Abbyasov, Vice President of the Council of Muftis of #Russia and the Patriarch Kirill / Metropolitan of Kazan and Tatarstan(Patriarchy of the Russian Orthodox Church). https://t.co/UC5lydBURz」 / Twitter

 

OICさんはTwitterを使っています: 「During the meetings, the two sides emphasized the significance of inter-religious and intercultural dialogues and understanding. https://t.co/Ab2tBxPO2f」 / Twitter

キリスト教/ラトビア正教会“独立”問題:ラトビア政府議会による“独立”強制について、ラトビア正教会は(ロシア正教会から分離しての)教会分裂には陥っていないとのロシア正教会側の文書(2022年9月~10月)

 2022年9月5日、ラトビア共和国大統領エギルス・レヴィッツ閣下(His Excellency Egils Levits)は、ラトビア正教会の“独立”のための法改正を議会に求めました。
 この問題は、キリスト教の東方正教会の中で、ラトビア正教会は、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を持っている教会であることが問題視されていることによります。
 つまり(政治的な文脈で言えば)大統領は、教会経由でのロシアの影響があるとの判断で、その影響を排除したい、ということです。

 

05.09.2022. Valsts prezidents paraksta grozījumus Latvijas Pareizticīgās Baznīcas likumā – YouTube

 

 (英語:ラトビア大統領府 公式サイト)Announcement by President of Latvia Egils Levits on Amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church | Valsts prezidenta kanceleja

These amendments provide for the full recognition of the self-contained and independent (autocephalous) status of the Latvian Orthodox Church.

This is the status that was historically de facto established for our orthodox church by the 6(19) July 1921 Tomos issued by Patriarch of Moscow and all Russia Tikhon to Archbishop Jānis Pommers and the Cabinet of Ministers Regulation of 8 October 1926 on the Status of the Orthodox Church.

I can confirm that the Latvian Orthodox Church and Metropolitan Alexander can count on full support from the state of Latvia as an autocephalous church henceforth also recognised in law.

 

 大統領府 公式サイトによりますと、同大統領は、ラトビア正教会に、独立= independent (独立正教会= autocephalous )を求めています。
 またその根拠の一つを、1921年にロシア正教会の(聖)ティーホン総主教からヤーニス大主教に渡されたトモス(何かを許可する文書だと思ってください)に由来するとしています。

 

 ここで疑問が浮かびます。
 東方正教会の独立正教会= autocephalous についてです。
 これは現在、コンスタンティノープルおよびギリシャ系の諸教会は承認についてはコンスタンティノープルに全権があるかのように主張している状況です。
 一方で他の教会の多くはそれぞれの独立正教会が承認するものである、とみていると大雑把に言えばそうなります。
 いずれにせよ、ロシア正教会の一部にすぎないラトビア正教会について、国が認めたら独立正教会になるというのはムチャですが、現在のロシア・ウクライナの状況でその判断がムチャクチャといえるかは結果次第でしょう。
 この結果次第というのは、前述のコンスタンティノープルとポロシェンコ元大統領が2018年にウクライナで強引なことをやらかした結果、ウクライナの正教会は混乱の極みにあるからです。
 ラトビア政府がコンスタンティノープルとこの後からむかどうかはわかりませんが、上記リンクのアナウンスからは特に読み取れません。
 コンスタンティノープルと関わると混乱が増すだけのような気もしますが、今のままでは正統性がないことはラトビア側もわかっているでしょう。大統領府の文章でも de facto の単語を使用していることからもわかるように、1921年のトモスは決して独立を認めたものではないということです(そもそも1921年のトモス自体になにが書かれていたかはっきりわかりませんが……)。

 

 続いて、
 (英語:ラトビア議会【サエイマ】公式サイト)Saeima affirms independence of Latvian Orthodox Church from any ecclesiastical authority outside Latvia – Latvijas Republikas Saeima

On Thursday, 8 September, the Saeima adopted urgent amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church affirming the full independence of the Latvian Orthodox Church with all its dioceses, parishes, and institutions from any church authority outside Latvia (autocephalous church).

According to the explanatory note to the Draft Law, the definition of the scope of legal status in the Law does not affect or interfere with the Church’s doctrine of faith and canon law.

 レヴィッツ大統領が議会に送ったラトビア正教会の“独立”のための法改正案をラトビア議会【サエイマ】は承認しました。
 上記の文章からわかる通り、彼らはこの法が、教義や信仰・教会法に影響や介入するものではないとしています。
 が、その教会が独立正教会 = autocephalous church かどうかというのは、まさに教会法に属する事柄です。
 ロシア正教会モスクワ総主教庁は、ラトビアのこの対応を中世以下と酷評しています。

 (英語)Interfax-Religion: Russian Orthodox Church on declaration of Latvian Church’s autocephaly by parliament: they surpassed Middle Ages

 ドイツの16世紀より悪い、という意です。
 もっとも16世紀のドイツを持ち出すのが良い反論とは感じませんが。

 

 さらに、
 (ロシア語:ラトビア正教会 公式サイト)Официальный сайт Латвийской Православной Церкви | О изменениях в Законе о Латвийской Православной Церкви

 上記を受けて(当初は)否定的な見解を出していたラトビア正教会は法律に従い独立正教会 = autocephalous church となる/を称することを受け入れたようです。

 もちろんのこと、東方正教会の他の独立正教会がどこも認めない限りは、独立正教会として他の教会から扱われることはありませんが……。

 

 さて、その後、具体的にどうなっていたかですが、
 (英語)ROC to Latvians: Patriarch Kirill still commemorated, state-declared autocephaly is purely legal, not canonical / OrthoChristian.Com

 上記の報道によれば、ロシア正教会のクルチツィ・コロムナ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan Pavel of Krutitsa and Kolomna)が、ラトビア正教会は、ロシア正教会の首座/モスクワ総主教キリル聖下を自分たちの教会の首座として名を挙げて礼拝をおこなっており、教会分裂の状態にはないとの文書をラトビアの信徒らに対して出した、ということです。
 これはつまり、ラトビア政府議会がいう独立正教会という単語は、教会法上の独立正教会とはなんの関係もないので気にせずに活動がおこなわれている、といっていいのかもしれません。
 もちろん、議会自体が「教会法には影響しない」といっているので、同じ単語を使っていても教会法には関係ないということになるともいえます。
 しかしこれでは、ラトビア政府議会のおこなったことは、何の意味もなかったということになります。
 大統領がキリル総主教にあらためて独立正教会の承認を求めているという話もありますが、たしかにこれでは他に手はないといえるかもしれません。

追記:
 10月31日までにラトビア正教会の憲章の改定が要求されており、その内容次第になるとは思われます。

 

続報:
 キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下が、ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教アントニー座下と会見(2022年8月)

 2022年8月5日、キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下(His Holiness Pope Francis)は、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Anthony of Volokolamsk, Chairman of the Department for External Church Relations of the Moscow Patriarchate)と会見しました。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局 公式サイト)Metropolitan Anthony of Volokolamsk meets with Pope Francis of Rome

 

Synodal Times:
Ahead of trip to Kazakhstan, Pope Francis meets with Russian Orthodox Metropolitan Anthony | Synodal – YouTube

キリスト教/ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下が、永眠したマランカラ正教シリア教会【インド正教会】首座/東方カトリコスのバセリオス・マルトマ・パウロス2世聖下への弔意を表明(2021年7月)

 キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下(ヒラリオン府主教 : His Eminence Metropolitan Hilarion of Volokolamsk, chairman of the Moscow Patriarchate’s Department for External Church Relations (DECR))は、2021年7月12日に永眠したキリスト教/オリエント正教会/マランカラ正教シリア教会【インド正教会】首座/東方カトリコス・マランカラ府主教“モラン”・“マル”・バセリオス・マルトマ・パウロス2世聖下(シロ・マランカル典礼カトリコスモラン・バゼリオス・マルトマ・パウロス2世 : His Holiness Moran Mar Baselios Marthoma【Mar Thoma】 Paulose II, the Catholicos of the East and Malankara Metropolitan, the Supreme Head of the Malankara Orthodox Syrian Church of India)への弔意を表明しました。

 

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁 公式サイト)Председатель ОВЦС выразил соболезнования в связи с кончиной Предстоятеля Маланкарской Церкви: новость ОВЦС