東方正教会大分裂:キリスト教/ロシア正教会が、アレクサンドリア総主教庁の駐モスクワ・メトヒオン【ポドヴォリエ】(正教会の大使館的聖堂)の権能を停止する予定との報道(2019年11月)

 ロシアの Interfax によりますと、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会は、キリスト教/東方正教会/アレクサンドリア総主教庁の、駐モスクワ・メトヒオン【ポドヴォリエ】(正教会の大使館的聖堂)の権能を停止する予定のようです。

 

 (英語)Interfax-Religion: Patriarch Kirill suspends operation of Alexandria Patriarchate’s Moscow mission
 (英語)Representation church of Patriarchate of Alexandria in Moscow temporarily suspended / OrthoChristian.Com

 

 これは、キリスト教/東方正教会/アレクサンドリア・全アフリカ総主教セオドロス2世聖下(His Beatitude Theodoros II, Pope and Patriarch of Alexandria and All Africa)が、ロシア正教会というかモスクワ総主教庁の管轄権下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufry of Kiev and All Ukraine)を裏切り(ユダとまでする抗議活動もあったようですが)コンスタンティノープル系ウクライナ正教会を承認したことによるものです。

 一方ですが、アレクサンドリア総主教庁とのフル・コミュニオン解除も見込まれていた先週のロシア正教会聖シノドでは、キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)がヨルダンでの東方正教会の首座の会合を招集したことにより、アレクサンドリアへの対応は延期されています。
 これは矛盾するようではありますが、現時点でなんらかの処置をする意思を示さないわけにもいかないとも思えます。

 また、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会首座/アテネ・全ギリシャ大主教イエロニモス2世座下(His Beatitude Hieronymos II, Archbishop of Athens and All Greece and Primate of the Autocephalous Orthodox Church of Greece)は、エルサレム総主教の招集に対し、「そのような権限はコンスタンティノープルの全地総主教にのみある」と発言し、参加を事実上拒否しました。
 さらにこの、アテネ大主教による他の首座とのなんの相談もなしのままのエルサレム総主教庁の権威を否定する発言に対し、東方正教会から離脱した保守的な勢力から「ついに古代五大総主教座(Pentarchy)の権威までもが否定された」と驚きの声までも上がっています。

 加えて、エルサレムとアテネが割れる事態に、キリスト教/東方正教会/アルバニア正教会の首座/ティラナ・ドゥラス大主教アナスタシオス座下(His Beatitude Archbishop Anastasios of Tirana and Durres, Primate of Albania)が強い危機感を表明しています。

 エルサレム総主教庁の行動の目的が、ロシアとの政治的対立を避けざるを得ないためか、あるいはこの事態を利用して自らが東方正教会の首位に立とうとするものなのか、まったくわかりませんが(本当にわかりません)、東方正教会の崩壊が現実味を帯びてきた感はあります。

 

キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教セオフィロス3世聖下が、ベラルーシ正教会のパーヴェル府主教座下と会見(2019年9月)

 2019年9月4日、キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)は、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁からある程度自治的な権限を与えられているベラルーシ正教会【全ベラルーシにおける総主教代理区】の首座/ミンスク・ザスラーヴリ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan PaulPavel】of Minsk and Zaslavl, the Patriarchal Exarch of All Belarus)と会見しました。

 会談中、セオフィロス総主教は、ウクライナにおいては、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufry of Kiev and All Ukraine)を支持する立場を重ねて表明したようです。

 

 (ロシア語:ベラルーシ正教会公式サイト)Состоялась встреча Предстоятеля Иерусалимской Православной Церкви и Патриаршего Экзарха всея Беларуси | Митрополит | Белорусская Православная Церковь | Новости | Официальный портал Белорусской Православной Церкви
 (写真:ロシア語:ベラルーシ正教会公式サイト)Состоялась встреча Предстоятеля Иерусалимской Православной Церкви и Патриаршего Экзарха всея Беларуси | Фоторепортажи | Новости | Официальный портал Белорусской Православной Церкви

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Состоялась встреча Предстоятеля Иерусалимской Православной Церкви и Патриаршего экзарха всея Беларуси / Новости / Патриархия.ru
 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Primate of Orthodox Church of Jerusalem meets with Patriarchal Exarch of All Belarus / News / Patriarchate.ru
 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Состоялась встреча Предстоятеля Иерусалимской Православной Церкви и Патриаршего экзарха всея Беларуси | Русская Православная Церковь
 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Primate of Orthodox Church of Jerusalem meets with Patriarchal Exarch of All Belarus | The Russian Orthodox Church
 (ウクライナ語:ウクライナ正教会公式サイト)Єрусалимський Патріарх Феофіл ІІІ: Визнаю тільки Православну Церкву в Україні, яку очолює Митрополит Онуфрій – Українська Православна Церква
 (英語:ウクライナ正教会公式サイト)Patriarch Theophilos III of Jerusalem: The only Orthodox Church in Ukraine that I recognise is the one headed by His Beatitude Metropolitan Onufriy – Українська Православна Церква

 (英語)“I recognize only one Church in Ukraine, headed by Met. Onuphry,” Pat. of Jerusalem tells Met. of Belarus / OrthoChristian.Com
 (英語)Patriarch Theophilos: I recognize only the Church of Met Onuphry in Ukraine – UOJ – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Interfax-Religion: Jerusalem Patriarch takes the side of Russian Church in the “Ukrainian question”

 

Його Блаженство відзначив, що одним з… – Українська Православна Церква | Facebook

 

ウクライナ国会開会式で、キリスト教/東方正教会系の教会三派首座らそれぞれを接触させないように他の宗派・教派の人物が配置(2019年8月)

 2019年8月29日、ウクライナ国会で、選挙で新しく当選した議員らによる宣誓などがおこなわれたようです。
 キリスト教/東方正教会系の教会三派首座らそれぞれを接触させないように他の宗派・教派の人物が配置されているのを見て、吹き出してしまいました。

※写真を下記の記事か、フェースブックのほうでご覧ください。

 

 (ウクライナ語:ウクライナ正教会モスクワ総主教庁系公式サイト)Предстоятель взяв участь в урочистому засіданні Верховної Ради – Українська Православна Церква
 (英語)Primate of UOC takes part in the ceremonial meeting of Verkhovna Rada – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】フェースブック:
Сьогодні народні депутати IX скликання… – Православна Церква України | Facebook

 

 写真向かって右から、

 キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会の、
 ボリスポリ・ブロヴァリー府主教【ボリスピリ・ブロヴァリー府主教】アントニー座下(His Eminence Metropolitan Antoniy of Boryspil and Brovary)、
 首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufry of Kiev and All Ukraine)、

 間に三人挟んで、
 コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】の首座“エピファニー府主教”、
 元ウクライナ独立正教会【UAOC】首座で、現在は OCU の“リヴィウ府主教”である“マカリー府主教”、

 間に一人挟んで、

 “ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”の“フィラレート総主教”(キーウ・全ルーシ=ウクライナ総主教フィラレート聖下 : His Holiness Patriarch Filaret of Kyiv and All Rus’-Ukraine)、

 となっています。

 ぶっちゃけシスマ前から出てくるお三方(オヌフリー府主教、マカリー府主教、フィラレート総主教)はやっぱり全員来ているわけで、大山鳴動して鼠一匹というか、なんにも変わってないじゃないかと。

 ただ、今回のこの並びで、元 UAOC 首座のマカリー府主教が、 OCU において重要な位置を占めていることは確認できたかと思います。 UOC-KP がフィラレート総主教によって分裂した以上、むしろ UAOC からの基盤のほうが安定している可能性もあります。もちろん、それが OCU の安定につながるのかどうかはよくわかりませんが……。

 

(速報気味の情報ですが)キリスト教/ギリシャ正教会の常任聖シノドはコンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】を独立正教会として承認するかどうかを10月の全主教団聖シノド会合で決定することにしたという情報(2019年8月)

 ギリシャの正教会系メディア Romfea によりますと、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会の常任聖シノドは、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】を独立正教会として承認するかどうかを10月の全主教団聖シノド会合で審議すると決めたようです。

 

 (英語)The Hierarchy of the Church of Greece to decide on the issue of Ukrainian autocephaly (upd) – Romfea News

 

 唖然とさせられるのは Romfea の報道です。
 彼らは、10月の全主教団聖シノド会合ではこの問題は議題にあがっていないと報じていました。
 そして、今回の常任聖シノドで決定されると報じながら、一転してやっぱり10月の全主教団聖シノド会合で決定されるようだと報じています。
 あなたがたの情報元はどのくらい正しいんですか……?
 もちろん、今回のものは、コンスタンティノープル寄りの Romfea による希望的観測記事が外れただけのことかもしれませんが……。

 ともあれ、今回の報道が事実ならば、問題はやはり先送りされたということでしょう。
 詳細は理解していないのですが、ギリシャ正教会の常任聖シノドの議席配合はコンスタンティノープル側に管轄権がある主教(アテネ大主教庁に管轄権が預けられているという建前が主張されることもありますが)らと、アテネ大主教庁に管轄権がある主教らにわかれており、両者が同調する必要があるらしく、したがってアテネ大主教庁側がコンスタンティノープルに同調するのをまたも拒否したとみていいのではないでしょうか。
 このあたりの詳細は、ロシアの正教会系メディアが解説してくれると思いますが……。

 

追記:

 (英語)Archbishop Ieronymos: I cannot take responsibility on my own – Romfea News

 Romfea の続報によりますと、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会首座/アテネ・全ギリシャ大主教イエロニモス2世座下(His Beatitude Hieronymos II, Archbishop of Athens and All Greece and Primate of the Autocephalous Orthodox Church of Greece)は、 OCU を独立正教会として承認するかどうかについて、「責任を負えない」と述べたそうです。
 これは主教団聖シノド会合で投票にかけた結果なら自分の責任ではないということなんでしょうか。
 独立正教会の首座とはいったい……。
 いやもちろん、すべての主教は平等(?)だというのが東方の教会の原則らしいですが。

 

キリスト教/ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁)のザポロージエ・メリトポリ府主教ルカ座下が、聖地アトス山の修道士らに、アルホントニス氏(コンスタンティノープルのバルソロメオス総主教のこと)を拒否するよう要請する公開のテレグラム(2019年8月)

 (ウクライナ語)Telegram: Contact @Lekarzp

 (英語)Metropolitan Luke publishes an open letter to the monastics of Athos – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 

 ロシア語で書いても向こうは読めない人が多いんじゃないかと思いますが……。

 キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会のザポロージエ・メリトポリ府主教ルカ座下(His Eminence Metropolitan Luke of Zaporizhia and Melitopol)が、ギリシャ共和国のアトス山の修道士たちに向けたテレグラムを公開しています。

※この方も徐々にこの世界で真に言論の自由を謳歌する人々の仲間入りをしてきています。

 それによりますと、“総主教と呼ばれている”バルソロメオスなる「神を裏切った人物」のおかげでウクライナ正教会は血と涙を流している、この人物が2019年10月19日にアトス山訪問を予定しているので(要は)「帰れ!」といってくれというようなそんな内容です。

 文章の後半には、

господин Архондонис

アルホントニス氏

 と、姓表記で言及している例もあり、すでにウクライナ正教会はトルコの総主教として言及したこともありますが、そろそろアルホントニス氏が定着していくのではないかという気がします。

 また、ルカ座下は、“アルホントニス氏”に関して、教会を攻撃してくるナショナリストでさえ教会の一員だが、彼や彼と同じような先達は人類の敵としています。
 その先達には、ネストリウス派を形成したネストリウス(Nestorius)や、単意論のセルギオス1世Sergius I【Sergios I】)、ローマ・カトリック教会との合同を目指して廃位されたイオアニス9世・ベッコスJohn XI Bekkos)、そして近代のメレティオス4世アシナゴラスといった、歴代のコンスタンティノープル大主教や総主教が挙げられています(ネストリウスを除けば99.999%以上の日本人は聞いたこともないでしょう)。

 

 さて、上記の話とは別ですが。
 もはや世俗化を超えて世俗の政治団体となっているコンスタンティノープル(彼らの神学? コンスタンティノープルの命令を聞け! 要はそれだけです)、しかしアトス山の修道士は逆らえないのではないか、という指摘がロシア側の人々から出ています。
 なんでも追い出されたら食っていけないからだとか。

 ……いったい、聖地の修道士とはなんなのか。

 かつてオウム真理教の信者を批判して、「世間で人と面倒な付き合いをしつつ労働していくことを嫌い、劣悪な環境下での修行へ逃げた」といったような言葉が出たことがありますが……。

 昨年から続くシスマは、東方正教会、キリスト教、伝統宗教にはもはやなんの価値もないのではないかという不安を呼び起こすもので(いや個人的には不安もなにもないですけど)、これがどう着地するのかは非常に興味深いところです。