キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教セオフィロス3世聖下がカタールを訪問とのこと(2019年2月)

 公式サイトのアナウンスメントによりますと、キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)は、2月21日~2月24日にカタール国を訪問、聖堂の成聖などをおこなうということです。

 

 (英語:東方正教会エルサレム総主教庁公式サイト)ANNOUNCEMENT OF THE PATRIARCHATE OF JERUSALEM (21/02/2019)

 

 東方正教会では、カタール国はアンティオキア総主教庁の管轄権下にあるというのが多数の教会の見方ですが、エルサレム大主教庁はアンティオキア総主教庁ことわりなくカタール大主教区を設置。
 アンティオキア総主教庁はこの件を理由に、エルサレム総主教庁とのフル・コミュニオンを解除して数年が経過しています。

 

映像(アラビア語・英語字幕):キリスト教/コプト正教会の修道士がイスラエル警察に“暴力”を受けた件でアレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下がそもそもの問題を説明する動画(2018年10月)イスラエル政府とエチオピア正教会を批判

 エルサレムのスルタン修道院問題で、イスラエル警察の対応に抗議していたコプト正教会の修道士が手錠をかけられ地べたに押しつけられひきずられた件で、キリスト教/オリエント正教会/コプト正教会の首座/アレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下(His Holiness Pope Tawadros II of Alexandria)による状況を説明する動画がアップロードされています。

 

アラビア語・英語字幕(なお、ざっと聞いただけですが、字幕の字句は多少単語が削られている気がします)/
Christian Youth Channel:
H H Pope Tawadros II Word regarding the Incident of attacking the Coptic Monks in Al Sultan Monaste – YouTube

 

 タワドロス2世教皇聖下によりますと、そもそもの問題は、1970年にエチオピア正教会側がスルタン修道院を“占拠”したことにあるとのこと。

 その後、イスラエル最高裁判所が、コプト正教会の所有であると判決を出したものの、イスラエル政府がそれを実行せず、という状況が延々と続いてきた模様。

 そして、(なぜかはよくわかりませんが)キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)が話し合いをお膳立てして、すべてはまるくおさまったと思っていた(教皇・談)が、2016年にコプト正教会側が修道院の修復作業をおこなおうとしたところ、イスラエル当局が拒否。
(注意:2016年において、どちらが修道院を占有していたのかいまいちわからないところですが……)

 そして、その後、キリスト教/オリエント正教会/エチオピア正教会の首座/エチオピア総主教・カトリコス“アブネ”・マティアス1世聖下(His Holiness Abune Mathias I, Patriarch and Catholicos of Ethiopia)との対話もおこなわれたようです。

 が、今年【2018年】10月に修道院の修復作業はイスラエル政府がおこなうとの通知が来て、23日にイスラエル警察が修道院に入るようになり、そして修道士は(平和的に抗議活動をしていたにもかかわらず)警察に過剰な制圧を受けた……というのがコプト正教会側の主張のようです。

 

制圧の様子:
CopticMediaUKさんのツイート: "Video footage emerging online/on twitter re excessive violence by Israeli police against #Coptic monks in #Jerusalem latest tweet @BishopAngaelos for related news @SkyNews @CNN @Reuters @BBCNews @FrankRGardner @Telegraph @camanpour @ChristianToday @theipaper @PremierNewsDesk… https://t.co/IMuX1xxI39"

 

Christian Youth Channel:
CYC Breaking News 26 Oct 2018 – YouTube

 

 このスルタン修道院の経緯については、いまいちはっきりしないこともあるのですが、上記に加えていくつかのことは指摘できると思います。

 エチオピア正教会はその活動については、きわめて古くからのものとされますが、いっぽうで管轄権としては、コプト正教会の一部であり、1959年にいたるまで独立した教会ではありません。
 このスルタン修道院は、エチオピア系聖職者が関わってきたという情報もありますが、正直このことについては正否はこちらではわかりません。
 しかし、上記のアレクサンドリア教皇によるスルタン修道院がコプト正教会のものだとする根拠として、「イスラエル最高裁判所の判断」などを挙げているのみで、「そもそもエチオピア人は関係ないじゃないか」などとは発言していないところから、少なくともかなりの程度エチオピア人が関わってきたのではないか、と思えます。

 また、イスラエル政府が裁判所の判断を無視してまでなぜエチオピア正教会に肩入れするかですが、一つの可能性として、コプト正教会はエジプトでは少数派にすぎず、彼らのためにエジプト政府が本気でイスラエルと争う可能性はあまりないのに対して、エチオピアではエチオピア正教会は多数派であり(オリエント正教会で最大の信徒数の教会)、エチオピア政府はそのためにイスラエルと争う可能性は十分にあるからではないか、ということが考えられます。

 

 なお、コプト正教会の英国での代表者であるキリスト教/オリエント正教会/コプト正教会/ロンドン大主教【ロンドン大司教】アンゲロス座下(His Eminence Archbishop Angaelos of London)も声明を出しています。

 (英語)The Coptic Orthodox Church UK | Statement from His Eminence Archbishop Angaelos, Coptic Orthodox Archbishop of London on alarming images and videos emerging from Jerusalem of the treatment of Coptic clergy
 (英語)Statement from Archbishop Angaelos on alarming images and videos emerging from Jerusalem of the treatment of Coptic clergy | Bishop Angaelos.org

 

関連:
 キリスト教/コプト正教会の修道士がイスラエル警察に手錠をかけられるなどした件について、エチオピア正教会の聖シノドはコプト正教会を全面的に批判する声明を発表した模様(2018年10月)

 

 以下、余談です。

 東方正教会のエルサレム総主教が調停をおこなったということですが、なぜそれをおこなったおのか、なぜそれを受けたのか、というところがよくわからないところです。もちろんエルサレムのキリスト教関係者で有力、ということはありますが。
 エルサレム総主教自体が、ルーマニア正教会とフル・コミュニオンを解除し(修復済み)、アンティオキア総主教庁からフル・コミュニオンを解除されています(現在も継続)。そして現在のシスマに突入。よその世話をしている暇などなかったのでは……。
 また、東方正教会のシスマに関連していえば、この件もそれと近い構図があるように思えます。伝統的立場は強いものの信徒数では負けており国家の支援も少ないコプト正教会やコンスタンティノープルの全地総主教庁に対し、信徒数と国家の強力な支援を受けているエチオピア正教会やロシア正教会。ただ、東方正教会の因習(ギリシャ系人種が偉い)はまだかなり強いのに対し、コプト正教会の信者については何人と呼べばよいのかもよくわかりません

 

シスマ2018:キリスト教/現在のロシア正教会にとって重要なのはエルサレム総主教庁との関係、すなわち「エルサレムの聖火」を受け取ることが可能かどうかか(2018年10月)

【シスマ2018】東方正教会大分裂: ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など

 

 キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教庁の声明待ちですが、ロシア正教会側からは、「エルサレムの聖火」を受け取れるかどうかが重要問題となっているようです。
 エルサレム総主教庁がロシア正教会とのコミュニオンを継続する(少なくとも解除しない)意思を表明すれば、「エルサレムの聖火」を受け取ることができますが、一方でエルサレム総主教庁がコンスタンティノープルの全地総主教庁に従う判断を示した場合、モスクワ総主教庁側からコミュニオンを解除する可能性もあります。
 「エルサレムの聖火」は、東方正教会のエルサレム総主教が「復活教会【聖墳墓教会】」で使用したものを持ち帰るのですが、ロシア正教会側はコミュニオンが解除された場合(エルサレム側が「持ってってもいいよ」といっても)持っていかないつもりのようです。

 いずれにせよ、エルサレム総主教庁の発表待ちですが……。

 

キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教セオフィロス3世聖下が、ロシア正教会のアスタナ・カザフスタン府主教アレクサンドル座下を訪問(2018年10月)

 2018年10月11日、第6回世界・伝統的宗教指導者会議(6th Congress of Leaders of World and Traditional Religions)にカザフスタン共和国大統領ヌルスルタン・ナザルバエフ閣下(His Excellency Mr Nursultan Nazarbayev)から招待され同国に滞在中のキリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)は、アスタナ生神女就寝大聖堂を訪問、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会のアスタナ・カザフスタン府主教アレクサンドル座下(His Eminence Metropolitan Alexander of Astana and Kazakhstan)と会談しました。
 ロシア正教会より、カスケレン主教ゲンナジー座下(His Grace Bishop GennadiyGennady】 of Kaskelen)が同席。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)His Beatitude Patriarch Theophilos of Jerusalem visits Cathedral of the Dormition in Astana | The Russian Orthodox Church

 (ロシア語:ロシア正教会カザフスタン府主教庁公式サイト)Успенский собор Астаны посетил Блаженнейший Патриарх Иерусалимский и всей Палестины Феофил

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Блаженнейший Патриарх Иерусалимский Феофил посетил Успенский собор Астаны / Новости / Патриархия.ru

 

Православие в Казахстане ☦さん(@mitropolia_kz) • Instagram写真と動画

 

キリスト教/キプロス大主教クリソストモス2世座下が、ロシアのセルゲイ・ ステパーシン(元)首相と会見(2018年10月)

 2018年10月7日、キリスト教/東方正教会/キプロス正教会の首座/ノヴァ・ユスティニアナと全キプロスの大主教クリソストモス2世座下(His Beatitude Archbishop Chrysostomos II of Nova Justiniana and all Cyprus)は、キプロス共和国を訪問中の元ロシア連邦首相セルゲイ・ヴァディモヴィチ・ステパーシン中将(Colonel General Sergei Vadimovich Stepashin)と会見しました。
 ステパーシン(元)首相は一時はエリツィン(当時)大統領の後継候補でしたが、結局そうはならず(プーチン(現)大統領が就任)、現在では Imperial Orthodox Palestine Society (帝立正教パレスチナ協会?)という、ロシア国内及び東方正教会関連の地域を除くとあまり知名度が高くないらしい団体の会長を務めています。

 会談では、経済を含む両国の関係強化や、ロシア正教会信徒のエルサレム巡礼の通過地・正教会関連の遺跡などがあるキプロスの重要性(平たくいえばロシアからの観光)などが語られたようです。

 キプロス共和国では、近年でも、メディアが国営企業民営化の妥当性についてクリソストモス2世座下に質問するなど、大主教の政治・経済との関わりが他国と違うようにも思えます。

 キプロス正教会のタマソス・オレイニ府主教イサイアス座下(His Eminence Metropolitan Isaias of Tamassos and Oreini)が同席。

 

 (ギリシャ語:キプロス正教会公式サイト)Συνάντηση Αρχιεπισκόπου Κύπρου με τον Πρωθυπουργό της Ρωσίας Sergei Stepashin – Εκκλησία της Κύπρου

 (ロシア語)Сергей Степашин посетил на Кипре ставропигиальный мужской монастырь Махерас и Церковь св. Лазаря Четырехдневного
 (ロシア語)Сергей Степашин встретился с Предстоятелем Кипрской Православной Церкви Блаженнейшим Архиепископом Новой Юстинианы и всего Кипра Хризостомом II

 

Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της… – Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της Εκκλησίας της Κύπρου | Facebook

 

Императорское Православное Палестинское… – Императорское Православное Палестинское Общество | Facebook

 

追記:
 クリソストモス2世座下も、ウクライナの問題について、汎・東方正教会会合を求めている、というロシア・メディアの報道です(ステパーシン元首相の発言から)。

 (ロシア語)Интерфакс-Религия: Архиепископ Кипра выступает против вмешательства политиков в дела Православной церкви на Украине – Степашин
 (英語)Archbishop of Cyprus opposes political interference in Ukrainian Church affairs / OrthoChristian.Com

 なお、会見を報じたギリシャの正教会系メディア「Romfea.gr(ΡΟΜΦΑΙΑ)」はウクライナに関する事項は報じていないようです。
 (ギリシャ語)Στον Αρχιεπίσκοπο Κύπρου ο πρώην Πρωθυπουργός της Ρωσίας Σεργκέι Στεπάσιν

 この、教会の首座らと会見した人物が「首座はこういっていた!」とメディアなど外部に発言する内容は信用できないというのが現在進行中の東方正教会大分裂【シスマ2018】の特徴です。

 キプロス正教会公式サイトにもウクライナに関する話題はなかったので、正否は不明ではあるものの、シスマに積極的に関わりたくない教会のひとつとみておいていいでしょう。
 しかし、ならば、「問題に関わりたくないが、ロシアの金は欲しい」といっているようなものではないかとも思えます。

 

 独立正教会の首座を含む聖職者らが、大きな問題になっているのに普段のきれいごとの説教のような言葉遣いをしたために、ウクライナ系メディアがそれを自分たちの好きなように解釈して報道し、それに対立するためにロシア系メディアが自分たちに都合の良いほうに少し動かして報道する、ということが繰り返され、もはやこの問題について(ウクライナ、ロシア関わらず)メディアの報道は信用できない状況です。

 シスマ2018の最大の問題は、各教会の発信する情報が明確でないために事態がややこしくなっていること。
 そしてそれをまったく反省せずに各教会が曖昧な情報発信を続けていること。
 それらが原因で正確でない情報が拡散し、さらに事態を悪化させていること、となるでしょう。
 部外者の視点ではただただあきれるだけですが……聖職者や信徒らはどう考えているのでしょう。

 

関連:
 【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧