キリスト教/コンスタンティノープル管轄権下で一方的に総主教代理区の地位を廃止(2018年11月)された西欧ロシア正教会大主教区の大主教が、コンスタンティノープルの聖シノドによって権限を奪われた模様(2019年8月)

 キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの管轄権下にあったものの2018年11月にコンスタンティノープルから一方的に総主教代理区としては廃止され、大主教区という集団としても終わってしまいそうな西欧ロシア正教会大主教区。
 同大主教区の首座ジャン大主教(イオアン大主教)座下は、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下に皆で移りたいものの、反対するものもそれなりに、という状況。
 今月、ジャン大主教座下と、コンスタンティノープルのバルソロメオス総主教の会談がおこなわれ、簡単にいえば引き留めがおこなわれましたが、事実上決裂。
 コンスタンティノープルの聖シノドは、ジャン大主教の権限をすべて剥奪し、エマニュエル府主教に権限が移動したようです。
 自分たちのところから勝手に出ていこうとしたものへの当然の処分ですが、コンスタンティノープルの今回の決定は大主教区の解体を正式に決定したようなもので、ジャン大主教座下は9月7日に予定されている大主教区の臨時総会においておそらくロシア正教会の管轄権下に移ることを諮るでしょう。

 

 (英語)The decisions of the Holy Synod of Ecumenical Patriarchate – Romfea News

※コンスタンティノープルの公式サイトに載っているギリシャ語の文章はなにがなにやらよくわからないので、 Romfea の英語記事にリンクしておきます。

 

 (フランス語:西欧ロシア正教会大主教区公式サイト)Archevêché des églises russes en Europe occidentale – Communique du Bureau de l’Archevêque du 31 août 2019

※こちらは2019年8月31日に声明を出して、臨時総会への準備を進めています。

 

 今回の処置で、大主教区の分裂は最終段階になりました。
 後はどれだけがモスクワの管轄権下に移るか、ということになりそうです。
 ここまでの状態になって、モスクワに移るということは、モスクワとコンスタンティノープルの縁が完全に切れてもモスクワに付く覚悟を決めねばならないことでもあり、正直どうなるかは予断を許さない状況です。
 英国のグレートブリテン・アイルランド司祭長区など、モスクワへ移ることを拒否しそうな傘下の集団は多々あり、では彼らがおとなしくコンスタンティノープルに従うかというとそれもわからないため、第三の選択肢=教会法上合法な教会からの離脱を選ぶ集団もあるかもしれません。
 シスマは新たなシスマを生む、と去年から何度も言われていますが、今のところシスマ2018以降に教会法上合法な教会から離脱した集団はいない(と思います)が、今回がファーストケースになる可能性がある程度あります。

 

追記:

 (ロシア語)Интерфакс-Религия: Константинополь исключил из своих рядов главу "русского экзархата" в Европе

 ロシアの Interfax は、このような権限を奪う行為は、教会法上合法な教会から別の教会法上合法な教会に移るために必要な決定であるとしています。
 つまり、ジャン大主教はすでにコンスタンティノープルではやる仕事がないのでモスクワ総主教庁に問題なく移籍できるようになった、ととれるそうです。
 どう判断すれば良いか、なかなか難しいところですが、コンスタンティノープルとしては、(少なくともまだ)モスクワと完全決裂するつもりはなさそうなため、ジャン大主教がモスクワ総主教庁に移りたければ問題なく移れるようにしたのかもしれません。
 一方、大主教区全体を手放すつもりはなさそうに思えますが……。

 

追記2:

 事態が整理(?)されてきています。
 コンスタンティノープルのフランス府主教庁公式サイトによると、要するに「モスクワの下につきたいなら一人でいけ(いきたいらしいので申請通りクビにしてあげます)」ということになるようです。

 (フランス語:フランス府主教庁公式サイト)Congé canonique pour l’Archevêque Jean de Charioupolis | Metropole Grecque Orthodoxe de France – Ιερά Μητρόπολις Γαλλίας

 一方、大主教区側公式サイトは、ジャン大主教はそんなこと(クビにしてくれ)を申請した覚えはないとしています。

 (フランス語:西欧ロシア正教会大主教区公式サイト)Archevêché des églises russes en Europe occidentale – Communiqué de l’Administration Diocésaine du 3 septembre 2019

 9月7日の臨時総会を前にしての情報戦でしょう。
 とにかくなるべく多くの人数をまとめてモスクワ総主教庁へ移りたいジャン大主教側と、なるべく多くを切り崩しておきたいコンスタンティノープル側のせめぎ合い。

 臨時総会に与える影響ですが、そもそもこの大主教区の総会自体がコンスタンティノープルや教会法とはなんの関係もない(そもそもコンスタンティノープルが教会法を守る気があるのかどうかはともかく)であることは最初から明らかで(それどころか総主教代理区としては廃止された後の大主教区の存在自体が……)、ここまで来たらなるべくしこりを残さずにそれぞれが好きなようにするのが良いと思いますが……無様なことになるかもしれません。

 

追記3:

 (英語)Constantinople releases Abp. John, leaving Russian Archdiocese in Western Europe with one option for discussion: joining the Moscow Patriarchate / OrthoChristian.Com

 

追記4:
 (英語)Interfax-Religion: “Russian exarchate” in Europe refused to subordinate to Constantinople

 

インタビュー記事(セルビア語):キリスト教/セルビア正教会のバチュカ主教イリネイ座下へのインタビュー(2019年8月)

 キリスト教/東方正教会/セルビア正教会のバチュカ主教イリネイ座下(His Grace Bishop Irinej of Bačka)へのインタビュー記事の、同教会総主教庁公式サイトへの転載のようです。

 

 (セルビア語:セルビア正教会総主教庁公式サイト)Епископ бачки др Иринеј: Интервју за дневни лист „Данас“ | Српскa Православнa Црквa [Званични сајт]

 

 内容ですが、ウクライナ問題に関して、コンスタンティノープルより、フランス府主教エマニュエル座下(His Eminence Metropolitan Emmanuel of France)とペルガモン府主教イオアニス座下(His Eminence Metropolitan John【Ioannis】【Joannis】 of Pergamon【Pergamum】 : ジョン・ジジウラス John Zizioulas)が訪問し、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】に承認に関する要求や教会法上非合法な“マケドニア正教会”に関わる話をするのではないかというのが一つ。イリネイ座下側は(訪問があるかどうかを含めて)何も決まっていないと回答。

※なお、このペルガモン府主教イオアニス座下ですが、東方正教会以外でもジョン・ジジウラス(John Zizioulas)という名などで高名な神学者として認知されていますが、彼に限らずコンスタンティノープル系の神学者は、コンスタンティノープル支持ではない東方正教会の方面では評判がガタ落ちです。御用学者と化しましたので……。

 また、セルビア正教会内部でコンスタンティノープル原理主義的発言をしたマクシム主教やベオグラード大学の神学の助教授らが一部停職(?)処分を受けたとする件の話題。

 コソボ問題や、それを含むた政治に関する言及などもあります。

 が、いろいろと長い上に、これまでの立場を堅持しているというだけのようです。

 

キリスト教/コンスタンティノープルが、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】に約34億円の“トモス税”を要求との報道(2019年7月) OCU 側が払うかどうかは不明

 キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルが、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】に、日本円にして総計約34億円の“トモス税”の支払いを要求しているようです。

 

 (英語)Metropolitan Anthony (Pakanich): Constantinople obliged OCU that each parish should pay from 4 to 20 thousand euro – UOJ – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)His Beatitude Onuphry: OCU has the Tomos of slavery rather than autocephaly – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 (ウクライナ語:ウクライナ正教会モスクワ総主教庁系公式サイト)Кожна парафія «ПЦУ» повинна платити Фанару від 4000 €, — митрополит Антоній (відео) – Українська Православна Церква

 

NEWSONE:
Томос раздора и православный буллинг в школах – “Радар” 09.07.19 – YouTube

 

 キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁管轄権下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会のボリスポリ・ブロヴァリー府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Antoniy of Boryspil and Brovary)が述べているところによると、ポロシェンコ(前)大統領がコンスタンティノープルに約束したウクライナ国内の教会資産のコンスタンティノープルへの受け渡しがゼレンスキー大統領によって拒否されたため、コンスタンティノープルのフランス府主教エマニュエル座下は OCU の首座“エピファニー府主教”に各小教区から“トモス税”を支払うように要求したとのこと。
 その総計は約34億円とのことです。
 OCU が払うのか払わないのか知りませんが……。
 払わなくてコンスタンティノープルがトモスを撤回したらまたもコント
 払おうとして信徒が離脱したらそれもまたコント
 コントは続くよどこまでも。

 なお、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会(モスクワ総主教庁)の管轄下で高度な自治的権限を有するウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufriy of Kiev and All Ukraine)は、コンスタンティノープルが OCU に渡したトモスは独立正教会として認めるトモスではなくウクライナ人を奴隷化するためのトモスとコメントしているようです。

Українська Православна Церква(ウクライナ正教会公式チャンネル):
Митрополит Онуфрій: Томос для «ПЦУ» — це томос рабства, а не автокефалії – YouTube

 

キリスト教/コンスタンティノープル系のウクライナ正教会【OCU】に合流していた“ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”の“フィラレート総主教”が、独自に招集した会合で OCU 成立時の会合やコンスタンティノープルのトモスを拒否し UOC-KP の再興(?)を宣言(2019年6月)

 2019年6月20日、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルが独立正教会として認めた“ウクライナ正教会【OCU】”に合流し“名誉総主教”と(ウクライナ国内では)称されていた“ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”の“フィラレート総主教”は独自に会合を招集、 OCU 成立のために催された昨年【2018年】12月の会合及び今年【2019年】1月にコンスタンティノープルから授与された独立正教会として認めるトモスを否定し、 UOC-KP の再興(?)を宣言した模様です。

 会合に集まった主教以上の聖職者は、(今のところの報道を見る限りでは)ウクライナ国外(ロシアとモルドバの教区)の計三人のみであり、実質的な影響がどの程度あるかはわかりませんが(そもそもコンスタンティノープルは OCU に対しウクライナ国外の管轄権を認めていないので、この三人が現在どこの何に属していることになっている聖職者なのかすらさっぱりわかりません)、声明では教会の財産(預金・聖堂・修道院など)について触れられており、 UOC-KP 側がこれらを確保している、または確保していなくても取り戻せるのであれば、影響が出ないわけにもいかないでしょう。
 ただ、 OCU の支持者が、モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会の聖堂などを強制的に接収している現状では、ただの無法行為が増えるだけかもしれません。

 また、建物があっても聖職者はどうするのかという問題については、大量に叙聖すれば済む話ですので、たいしたことではないでしょう。

 

 あと、フィラレート総主教が、ポロシェンコ(前)大統領について「彼は選挙目当てだった」と批判したという情報もあります。

 

ТСН Live:
Брифінг Філарета за підсумками «собору» – YouTube

 

追記:
 会合の決定内容に関する下記記事(ロシアの正教会系メディア)によれば、新しく二人の主教を選出した模様。

 (英語)Results of Philaret’s council: unification council and tomos rejected, KP is restored, 2 new bishops elected, claims jurisdiction over monastery where Epiphany Dumenko serves / OrthoChristian.Com

 

追記2:
 同じくロシア系の正教会系メディアですが、今のところ英語でツッコミを含めて記事を出しているのがほかに見当たらないのでリンクしておきます。
 注目は、フィラレート総主教の「ウクライナには今、三つの正教会がある。モスクワ総主教庁系ウクライナ正教会、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会、そして“ウクライナ正教会キエフ総主教庁”」というコメント。

 (英語)Filaret at “Local Council of UOC KP”: We will ordain a lot of new hierarchs – UOJ – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Filaret: At the “Local Council” we revoked our renunciation of UOC KP – UOJ – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Filaret: There are now three Churches in Ukraine: UOC, OCU and UOC KP – UOJ – the Union of Orthodox Journalists
 (英語)Resolution of the "Local Council" of UOC KP published on the Net – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 

追記3:
 ギリシャの正教会系メディア Romfea.gr の記事。
 もはやギリシャ系の正教会は、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】が崩れれば権威失墜なので、運命共同体と化しています。 OCU が教会法を無視して“モンテネグロ正教会”の“司祭”をコンスタンティノープルのエマニュエル府主教とともに礼拝させたことを注意すらしない状況なのは唖然とするばかりで、どちらが主なのか……。
 この有様では、東方正教会は今年崩壊するだろうと思いますが、崩壊したらどうなるかというと、別にたいして変わらない状況があるだけ(今までよりやる気の数段階ない教会と称する集団が政治的・経済的利権を維持するだけ)になるのが見えているので、がんばって維持する必要も感じないのだろうなあと、意地悪にいえばそうなります。

 (ギリシャ語)Το ''Πατριαρχείο'' του Κιέβου κατήργησε τον Τόμο και δεν αναγνωρίζει τον Επιφάνιο
 (英語)The “Patriarchate” of Kiev has annulled the Tomos and does not recognize Epiphanius – Romfea News

Romfea.newsさんのツイート: ""The Tomos granted by #Constantinople to the Autonomous #Church of #Ukraine does not comply with the Statute of other Autocephalous Churches and makes the Church of Ukraine dependent on the #Patriarchate of Constantinople" #romfeanews https://t.co/CEVMG4krXV"

 

追記4:
 フィラレート総主教が、エピファニー府主教は UOC-KP の主教(故人?)の“隠し子”と発言するなど、個人攻撃(というかヤケクソの八つ当たりというか、それ以下というか)を強めています(なお、フィラレート総主教にも子供と孫がいるという疑惑というか事実というかがあるみたいですが、興味ないです)。
 こういうことになると思ってましたよ。フィラレート総主教がどういう人間か知っている人たちは、ムチャクチャになると予測済みですよ。

 

関連:
 キリスト教/コンスタンティノープル系のウクライナ正教会【OCU】首座“エピファニー府主教”が、 OCU を否定した“フィラレート総主教”の OCU での役割を剥奪するも「これまでの功績があるからこれからも主教」(2019年6月)
 キリスト教/“ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”の“フィラレート総主教”が、ロシア系メディアのインタビューに答える(2019年7月)
 キリスト教/“ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”の公式サイトが復旧(?)した模様(2019年7月)

 

キリスト教/コンスタンティノープルとコンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】の府主教らが、教会法上非合法な“モンテネグロ正教会【MOC】”の聖職者と共同礼拝をしていた【2019年5月】と報道(2019年6月)

 2019年5月26日に、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルのフランス府主教エマニュエル座下(His Eminence Metropolitan Emmanuel of France)、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】の首座“エピファニー府主教”らが、教会法上非合法な“モンテネグロ正教会【MOC】”の聖職者と共同で礼拝をおこなっていたと正教会系メディアが報道しています。

 モンテネグロを管轄権下に置くセルビア正教会は(どの程度の強さかわかりませんが)事態に関して不快感を表明、コンスタンティノープル側は「(MOCの参加を)知らなかった」としているようではありますが……。

 

ギリシャ系メディア:
 (英語)Representative of the schismatic “Montenegrin Orthodox Church” in the Divine Liturgy in Kiev – Romfea News

Romfea.newsさんのツイート: "A representative of the so-called schismatic “Montenegrin Orthodox Church” concelebrated the Divine Liturgy on May 26, in Kiev #romfeanews https://t.co/QNXgbEuJpG"

 

 (ギリシャ語:英語版より現在のところ長文)Σχισματικός κληρικός του Μαυροβουνίου συλλειτούργησε στο Κίεβο

 

ロシア系メディア:
 (英語)Constantinople hierarchs concelebrate with cleric from schismatic Montenegrin church / OrthoChristian.Com
 (英語)OCU and Phanar hierarchs concelebrate in Kiev with Montenegrin schismatics – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

 

 付言しておけば、OCU のほうは、前身の一つである“ウクライナ正教会キエフ総主教庁【UOC-KP】”が MOC とコミュニオンの状態にありました。
 OCU の成立に伴い、 UOC-KP は解体されたことになっていましたが、 UOC-KP のコミュニオンがどうなったかについてはなにも言及はなく、現在の OCU もまた、MOC とコミュニオンの状態にあると OCU の聖職者ら自身が認識しているということなのかもしれません。
 ただ、エピファニー府主教と対立をはじめ反コンスタンティノープル色を鮮明にしている“フィラレート名誉総主教”が「UOC-KP は解体されていない・存続しているしし続ける」と言明している現在において、エピファニー府主教らが UOC-KP 時代のコミュニオンをコンスタンティノープルの意向に逆らって尊重するとも思えません。
 コンスタンティノープル側の意向を断言できる段階ではありませんが、 OCU の聖職者らは、コンスタンティノープルが MOC を独立正教会として認めると確信しているということなのでしょう。