東方正教会シスマ2020:キリスト教/ロシア正教会系のベラルーシ正教会の首座が交代(2020年8月)教会方面から見た場合、プーチン政権のルカシェンコ大統領支援は必然

 ベラルーシ共和国の混乱が最終的にどうなるのかわかりませんが、ここではキリスト教/東方正教会の現況からすると、プーチン政権がルカシェンコ大統領(大統領としておきます)を支援するのは必然ということになるということを記しておこうと思います。

 

 2018年~2019年に、キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁が、元来はロシア正教会の管轄権下にあるとされてきたウクライナにおいて、教会法上合法でない勢力(合法でない神品=聖職者の集団)を独立正教会として一方的に認めるということがありました(当サイトでは東方正教会大分裂やシスマ2018という単語を使っています)。ロシア正教会はこの結果、コンスタンティノープルとのフル・コミュニオンを解除。ウクライナ国内では、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会が当局やナショナリストから弾圧を受けるということが続き、ゼレンスキー大統領に代わっても、いまだ攻撃は続いています(率直にいって以前よりだいぶゆるくなっているようには思えますが……)。
 公平のために言えば、これはロシアとの政治的緊張があることが原因ではありますが、だからといって「古代からの正しい教え」がどうたらといっていた人たちが教会法とか聖職者とかテキトーでいいですなどと言いだせば状況がムチャクチャになるのは当たり前のことです。

 この(教会大分裂の)件は、いまだになんの解決も見ていないどころか傷口を広げていますが(トルコがコンスタンティノープルの聖堂をぽんぽん接収してモスクに変えている件もコンスタンティノープルとモスクワの絶縁状態のため「協力して対抗してくることはあるまい」とエルドアン大統領になめられているといううがった見方もあります)、今回のベラルーシの混乱において、この方面からの指摘があまりなされていないというのが不思議である、というのが正直な感想です。

 

 そもそもウクライナへの独立正教会設置は、当時のポロシェンコ大統領が求めたものであり、この政治主導のアイデアはモンテネグロや北マケドニアに波及し、さらに東方正教会の混乱を深めています。
 一方、ロシア連邦とベラルーシ共和国の統合国家【Union State】のさらなる推進には極めて消極的だったルカシェンコ大統領は、宗教面においてはロシア正教会系のベラルーシ正教会【ベラルーシ全土における総主教代理区】を尊重していました。今も尊重しています。

 この状況で、反ルカシェンコ勢力が立ち上がるわけですが、彼ら・彼女らが反ロシア・反プーチンを叫んでいなかったからといって、彼ら・彼女らがルカシェンコ大統領よりもプーチン政権に好意的である可能性はなく、ベラルーシ正教会にいたってはどうでもいいとしか思っていないことは明らかでしょう。
 ベラルーシ正教会の勢力が弱まれば、ウクライナにおいてコンスタンティノープル系ウクライナ正教会【OCU】と争っているウクライナ正教会(モスクワ総主教庁)系【UOC or UOC-MP】にもダメージとなります。弾圧強化が起こる可能性もあります。
 平たく言えば、反ルカシェンコ勢力の成功は、ロシア正教会とプーチン政権にとってはベラルーシのみならずウクライナへの影響力を大きく削がれるものであり、(当初彼ら・彼女らや一部専門家が見ていた)ロシアの介入はないだろうなどというのは能天気にもほどがある観測だったということです。

 現に、コンスタンティノープル系ウクライナ正教会の首座“エピファニー府主教”は、ベラルーシ正教会の聖職者のうちで反ルカシェンコ政権の抗議行動に身を投じた聖職者らなどにコンスタンティノープルに独立正教会として認めてもらうよう勧める発言をしました。ベラルーシには主に国外で活動する(教会法上合法でない)ベラルーシ独立正教会という反体制系教会もあり、この教会は OCU を構成した教会法上合法でない教会とも関係を持っていました。
 仮にこの動きが成功していれば、彼らコンスタンティノープル系のグループは、ウクライナ国内でさらに有利に戦えることになったでしょう(まだ失敗したと確定したわけではないですが)。

 

 以上の状況からプーチン政権はルカシェンコ大統領をバックアップする体制を整えざるをえない(えないというか……)ので整えていくわけですが、ロシア正教会モスクワ総主教庁にも動きがありました。
 ベラルーシ人である、ボリソフ・マリーナゴルカ主教ヴェニャミン座下(His Grace Bishop BenjaminVeniamin】 Borisov and Marinogorsk)を新たにベラルーシ全土における総主教代理/ベラルーシ正教会の首座に選出しました(2020年8月。これまで首座であったミンスク・ザスラーヴリ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan PaulPavel】of Minsk and Zaslavl, the Patriarchal Exarch of All Belarus)の辞意を受けてのものとされる)。また翌月には座下は府主教に昇叙されています。
 これは要するにベラルーシ人を首座に選出してガス抜きをしたということで、これにどれほどの効果があるのか正直わかりません。

 しかし、ロシアの政界・聖界ともに引くつもりはまったくないだろうということは明らかで(今回のシスマ全般にいえますが、どの勢力も引くとマイナスが大きすぎるので引けない)、たとえ第三次世界大戦になろうともロシアが引くことはないのではないかと思います。