映像(アラビア語・英語字幕):キリスト教/コプト正教会の修道士がイスラエル警察に“暴力”を受けた件でアレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下がそもそもの問題を説明する動画(2018年10月)イスラエル政府とエチオピア正教会を批判

 エルサレムのスルタン修道院問題で、イスラエル警察の対応に抗議していたコプト正教会の修道士が手錠をかけられ地べたに押しつけられひきずられた件で、キリスト教/オリエント正教会/コプト正教会の首座/アレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下(His Holiness Pope Tawadros II of Alexandria)による状況を説明する動画がアップロードされています。

 

アラビア語・英語字幕(なお、ざっと聞いただけですが、字幕の字句は多少単語が削られている気がします)/
Christian Youth Channel:
H H Pope Tawadros II Word regarding the Incident of attacking the Coptic Monks in Al Sultan Monaste – YouTube

 

 タワドロス2世教皇聖下によりますと、そもそもの問題は、1970年にエチオピア正教会側がスルタン修道院を“占拠”したことにあるとのこと。

 その後、イスラエル最高裁判所が、コプト正教会の所有であると判決を出したものの、イスラエル政府がそれを実行せず、という状況が延々と続いてきた模様。

 そして、(なぜかはよくわかりませんが)キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)が話し合いをお膳立てして、すべてはまるくおさまったと思っていた(教皇・談)が、2016年にコプト正教会側が修道院の修復作業をおこなおうとしたところ、イスラエル当局が拒否。
(注意:2016年において、どちらが修道院を占有していたのかいまいちわからないところですが……)

 そして、その後、キリスト教/オリエント正教会/エチオピア正教会の首座/エチオピア総主教・カトリコス“アブネ”・マティアス1世聖下(His Holiness Abune Mathias I, Patriarch and Catholicos of Ethiopia)との対話もおこなわれたようです。

 が、今年【2018年】10月に修道院の修復作業はイスラエル政府がおこなうとの通知が来て、23日にイスラエル警察が修道院に入るようになり、そして修道士は(平和的に抗議活動をしていたにもかかわらず)警察に過剰な制圧を受けた……というのがコプト正教会側の主張のようです。

 

制圧の様子:
CopticMediaUKさんのツイート: "Video footage emerging online/on twitter re excessive violence by Israeli police against #Coptic monks in #Jerusalem latest tweet @BishopAngaelos for related news @SkyNews @CNN @Reuters @BBCNews @FrankRGardner @Telegraph @camanpour @ChristianToday @theipaper @PremierNewsDesk… https://t.co/IMuX1xxI39"

 

Christian Youth Channel:
CYC Breaking News 26 Oct 2018 – YouTube

 

 このスルタン修道院の経緯については、いまいちはっきりしないこともあるのですが、上記に加えていくつかのことは指摘できると思います。

 エチオピア正教会はその活動については、きわめて古くからのものとされますが、いっぽうで管轄権としては、コプト正教会の一部であり、1959年にいたるまで独立した教会ではありません。
 このスルタン修道院は、エチオピア系聖職者が関わってきたという情報もありますが、正直このことについては正否はこちらではわかりません。
 しかし、上記のアレクサンドリア教皇によるスルタン修道院がコプト正教会のものだとする根拠として、「イスラエル最高裁判所の判断」などを挙げているのみで、「そもそもエチオピア人は関係ないじゃないか」などとは発言していないところから、少なくともかなりの程度エチオピア人が関わってきたのではないか、と思えます。

 また、イスラエル政府が裁判所の判断を無視してまでなぜエチオピア正教会に肩入れするかですが、一つの可能性として、コプト正教会はエジプトでは少数派にすぎず、彼らのためにエジプト政府が本気でイスラエルと争う可能性はあまりないのに対して、エチオピアではエチオピア正教会は多数派であり(オリエント正教会で最大の信徒数の教会)、エチオピア政府はそのためにイスラエルと争う可能性は十分にあるからではないか、ということが考えられます。

 

 なお、コプト正教会の英国での代表者であるキリスト教/オリエント正教会/コプト正教会/ロンドン大主教【ロンドン大司教】アンゲロス座下(His Eminence Archbishop Angaelos of London)も声明を出しています。

 (英語)The Coptic Orthodox Church UK | Statement from His Eminence Archbishop Angaelos, Coptic Orthodox Archbishop of London on alarming images and videos emerging from Jerusalem of the treatment of Coptic clergy
 (英語)Statement from Archbishop Angaelos on alarming images and videos emerging from Jerusalem of the treatment of Coptic clergy | Bishop Angaelos.org

 

関連:
 キリスト教/コプト正教会の修道士がイスラエル警察に手錠をかけられるなどした件について、エチオピア正教会の聖シノドはコプト正教会を全面的に批判する声明を発表した模様(2018年10月)

 

 以下、余談です。

 東方正教会のエルサレム総主教が調停をおこなったということですが、なぜそれをおこなったおのか、なぜそれを受けたのか、というところがよくわからないところです。もちろんエルサレムのキリスト教関係者で有力、ということはありますが。
 エルサレム総主教自体が、ルーマニア正教会とフル・コミュニオンを解除し(修復済み)、アンティオキア総主教庁からフル・コミュニオンを解除されています(現在も継続)。そして現在のシスマに突入。よその世話をしている暇などなかったのでは……。
 また、東方正教会のシスマに関連していえば、この件もそれと近い構図があるように思えます。伝統的立場は強いものの信徒数では負けており国家の支援も少ないコプト正教会やコンスタンティノープルの全地総主教庁に対し、信徒数と国家の強力な支援を受けているエチオピア正教会やロシア正教会。ただ、東方正教会の因習(ギリシャ系人種が偉い)はまだかなり強いのに対し、コプト正教会の信者については何人と呼べばよいのかもよくわかりません

 

シスマ2018:キリスト教/ロシア正教会モスクワ総主教キリル聖下のモルドバ訪問日程が4日→2日に短縮(2018年10月)ルーマニア正教会がコンスタンティノープルの全地総主教庁に同調しモルドバの管轄権を両者で分割するとも

 【シスマ2018】2018年<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など

 

 ロシアの正教会系情報サイト「OrthoChristian.Com」によりますと、2018年10月25日~28日に予定されていたキリスト教/東方正教会/ロシア正教会の首座/モスクワ・全ロシア【全ルーシ】総主教キリル聖下(キリール総主教 : His Holiness Kirill, Patriarch of Moscow and all Russia【Rus’】)によるモルドバ共和国訪問が、10月27日~10月28日に短縮されたとのことです。
追記:
 10月30日現在で続報を見かけないので訪問がおこなわれたのかどうかわかりません。

 

 (英語)Provocations reportedly planned against Pat. Kirill during upcoming visit to Moldova / OrthoChristian.Com

 

 同サイトによりますと(微妙にまわりくどいのでまとめますと)、反ロシア的な不穏な政治情勢を考慮して訪問中止が検討されていたところを、モルドバ共和国大統領イーゴル・ドドン閣下(His Excellency Mr Igor Dodon)が「二日間だけでいいので来てください!」とお願いしたところ、そうなった、ということです。

 

 また、モルドバ共和国の管轄は、ロシア正教会系のモルドバ正教会と、ルーマニア正教会系のベッサラビア府主教庁が対立していますが、これに関して教会分裂的な進展があるという情報が出ています。
 キリスト教/東方正教会首席/コンスタンティノープル=新ローマ大主教・全地総主教バルソロメオス聖下(バーソロミュー1世世界総主教バルトロマイ1世ヴァルソロメオス1世 : His All-Holiness Bartholomew, Archbishop of Constantinople-New Rome and Ecumenical Patriarch)のルーマニア訪問が2018年11月に予定されており、その訪問中の2018年11月25日に、キリスト教/東方正教会/ルーマニア正教会の首座/ルーマニア正教会総主教ダニエル聖下(ブカレスト大主教 : ムンテニア・ドブロジャ府主教 : カエサレア・カッパドキアエ座代行 : His Beatitude Daniel, Archbishop of Bucharest, Metropolitan of Muntenia and Dobrudgea, Locum tenens of the throne of Caesarea Cappadociae, Patriarch of the Romanian Orthodox Church)とともに、モルドバ共和国の管轄権に関する宣言をおこなうのではないかということです。
 モルドバ共和国にはガガウズ自治区というトルコ系東方正教会信徒が多数派の地域があり、ここをコンスタンティノープルが取り、残りをルーマニア正教会のものだと宣言するということでしょう。
※モルドバには、事実上独立している(というかロシア領になっているというか)沿ドニエストル共和国がありますが、ここは対ロシア戦争で勝ち取らない限りどうにもなりません

 ともあれ、この情報が本当だとすると、東方正教会の中で第二の信徒数があるルーマニア正教会が全地総主教庁に完全に同調することになり、教会間の調停は不可能だという見方がまた深くなるでしょう。

 

シスマ2018 (Spillover):キリスト教/ギリシャの東方正教会メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、モスクワのムフティー(イスラム教スンナ派指導者)の発言を伝える「ムスリム(イスラム教徒)はウクライナの情勢を憂慮している」「宗教は融和のためのもの」「教会分裂は良くない」(2018年10月)

 ギリシャの東方正教会系メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、モスクワのムフティー(イスラム教スンナ派指導者)の発言を伝えています。

 

 (ギリシャ語)Μουφτής Ρωσίας: ''Ανησυχούμε για την εκκλησιαστική κατάσταση στην Ουκρανία''

 

 記事によれば、モスクワのムフティー アリビール・クルガーノフ師(Albir Kurganov)が「ムスリム(イスラム教徒)はウクライナの情勢を憂慮している」「宗教は融和のためのもの」「教会分裂は良くない」という主旨の発言をしたということです。

 

 (ロシア語)Презентация доклада "Свобода совести и религиозная нетерпимость в современном мире" прошла в стенах пресс-центра «Россия сегодня» – Официальный сайт Духовного управления мусульман Москвы и Центрального региона "Московский Муфтият"

 

 公式サイトっぽいものを見つけたので読んでみたところ、主題は「信仰の自由」「テロの脅威」「ウクライナ問題」「欧州の反イスラムと反ユダヤ」「社会の世俗化と非伝統的な価値観の広がり」ですが、記事ではウクライナについてはおまけにひとことくらいの扱いでした。

 

関連:
 2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧

 

ロシア国営タス通信記事(英語):キリスト教/セルビア総主教イリネイ聖下「コンスタンティノープルの行動は東方正教会に長期に渡る亀裂を生み出す」(2018年10月)

 ロシア国営タス通信の記事ですが、キリスト教/東方正教会/セルビア正教会の首座/セルビア総主教イリネイ聖下(ペーチ大主教 : ベオグラード・カルロヴツィ府主教 : His Holiness Irinej, Serbian Patriarch, Archbishop of Peć, Metropolitan of Belgrade and Karlovci)が、現在進行中の事態について「コンスタンティノープルの行動は長期に渡る亀裂を生み出す」とコメントしているようです。

 

 (英語)TASS: Society & Culture – Constantinople’s actions in Ukraine to trigger long-term rift, warns Serb patriarch

 

 もっとも、具体的な行動はというと、アンティオキア・東方全土総主教ヨウハンナ10世聖下(His Beatitude Patriarch John X of Antioch and All the East)とともに、「東方正教会の全体会合を呼びかける」声明を出すというなんの意味もないことくらいしかしていないので、これからも自分たちの教会に直接関係が出てこない限り何もしないと思われます。

 

関連:
 2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧

 

シスマ2018 (Spillover):キリスト教/ギリシャの東方正教会メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、ロシア人巡礼観光客のキャンセルが増加しているとの記事を掲載(2018年10月)

 ギリシャの東方正教会系メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、宗教的な場所を目的としたロシア人巡礼観光客のキャンセルが通常より増加しているという記事を出しています。

 

 (ギリシャ語)''Βουτιά'' στον θρησκευτικό τουρισμό μετά τη διαμάχη Φαναρίου – Μόσχας

 

 本当だとすれば、到着したとたんに相互破門になったりしたら塩をまかれるかもしれないという後ろ向きの考えでキャンセルする人が出ているのでしょう(もっとも今が最後のチャンスになるという前向き?な考えもありえますが)。

 記事によれば、キャンセルされている予定地として、アトス山(コンスタンティノープルの全地総主教庁の管轄権下)だけではなく、メテオラ修道院群なども含まれるようです。
 メテオラ修道院群は、全地総主教庁の管轄権下ではなく、ギリシャ正教会アテネ大主教庁の管轄権下だと思います(もしかしたら違うかもしれません)。もっとも一般のロシア人は、ギリシャ正教会がコンスタンティノープルの全地総主教庁から独立した存在だということを知らないかもしれませんが(そして独立しているとは到底いえない状況になってきていますが)。

 いずれにせよ、観光客の長期的な減少は経済にマイナスとなり、責任問題に発展する可能性もあります。
 もちろん、喉元過ぎれば熱さを忘れるということもありえます。しかし関係改善が見込めないどころか、相互破門 → 「彼らは教会から自発的に出ていった」論、というまだ二段階の悪化が残っている状況です。

 

 この記事ではありませんが、アトス山については、ロシア正教会の見解(ロシア正教会の信徒はアトス山では領聖を受けられない)に対する反論も出たのですが、内容が「アトス山が全地総主教庁の管轄権下にあるというのは儀礼的なものだ」という最近どこかで無視されたような理屈だったのでロシア側からはスルーされた模様です。

 

 ところで。
 実は数日前(10月19日付)に、ΡΟΜΦΑΙΑには観光に関する別の記事が出ています。

 (ギリシャ語)Ομιλία Μητροπολίτη Δωδώνης για τον Τουρισμό Ελλάδας-Ρωσίας στη Βουλή

 見出しからは、ギリシャ正教会のドドニ府主教クリソストモス座下(His Eminence Metropolitan Chryssostomos of Dodoni)が、「議会でロシア人のギリシャ観光についてスピーチ」と取れるので、これはもしやコミュニオン解除が原因でおおげさなことになっているのではと思ったら、実際は上院の建物でロシアとギリシャの観光関係に携わる政治家らが集まって(ざっくりいうと)「ここ数年のロシア人観光客増加はめでたいので、さらなる発展に向けてがんばりましょう」というようなことを話し合ったという内容で、コミュニオン解除にはまったく触れていません(ずっこけました)。
 予定があったから集まったのでしょうが、こう、なんというか、現場の空気が非常に気になる会合ではあります。

追記:
 なお、このクリソストモス座下ですが、今回のシスマでは完全に全地総主教庁支持者で、会合にこの人を呼んでいる時点で、なんだかひどい茶番臭がします。

 

関連:
 2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧