シスマ2018:ウクライナのNGOがポロシェンコ政権がウクライナ憲法の政教分離を無視して宗教に介入しているとしてキエフの地区裁判所(?)に提訴した模様(2018年10月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 ウクライナのNGO「法の支配」が、ペトロ・ポロシェンコ政権の政治家たちなどがコンスタンティノープルの全地総主教庁にウクライナへの独立正教会設置を求めたのは、ウクライナ憲法の政教分離を無視しての宗教への介入にあたるとしてキエフの地区裁判所(?)に提訴した模様です(9月末)。
 2018年10月1日、裁判所はこれを受理し、11月13日に審査かなにかがおこなわれるようです。

※いろいろ間にあわないのでは……?

 

 (ウクライナ語:キエフ地区裁判所?公式サイト)До суду звернулись щодо компетенції органів влади втручатися у діяльність церкви шляхом підписання та направлення звернення до Вселенського Патріарха Варфоломія про надання Томосу | Окружний адміністративний суд міста Києва

 (ロシア語)За что против Порошенко подали иск в суд и на каких основаниях | ВЕСТИ

 (ウクライナ語:ウクライナ正教会公式サイト)Київський суд розгляне позов про втручання Президента у церковні справи (оновлено) – Українська Православна Церква
 (ロシア語:ウクライナ正教会公式サイト)Киевский суд рассмотрит иск о вмешательстве Президента в церковные дела – Українська Православна Церква

 

 このNGOの立ち位置がわかりませんが、ポロシェンコ政権の政治家らからは「ロシアの手先」といわれるのは間違いないでしょう。スパイ疑惑で逮捕されるかもしれません。

 

シスマ2018:キリスト教/ジョージア正教会【グルジア正教会】が声明を発表(2018年9月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 2018年9月30日付で、キリスト教/東方正教会/ジョージア正教会【グルジア正教会】総主教庁が、コンスタンティノープルの全地総主教庁がウクライナに一方的に独立正教会を設置しようとしていることについて声明を発表しています。

 

 (ジョージア語【グルジア語】:ジョージア正教会【グルジア正教会】総主教庁公式サイト)საქართველოს საპატრიარქოს განცხადება (30.09.2018)

 

 内容ですが、東方正教会全体と多数の信徒が関わる問題なので、コンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁でよく話しあってくれ、というようなものです。

話し合いにいってダメだったからこうなったのでは……」と思ってしまいますが……。

 なお、ジョージア正教会の聖職者は以前に「ジョージア正教会はこの問題にかかわらない」というような発言を出していましたが、今回の声明は軌道修正を試みたものなのか、「引き続きかかわらないのでそちらでよろしく」という意味なのか。発信の意図がいまいち見出せません。

 

 国家としてのジョージアのうち事実上分離している地域がありますが、そのうちアブハジアにはアブハジア正教会がジョージア正教会からの分離を宣言しています。
 最大級のシスマが起こりつつあることで、各地のシスマもまた注目されつつあります。「教会法上合法な教会」という概念は生き延びることができるでしょうか。

 

シスマ2018:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教バルソロメオス聖下が、セルビア総主教イリネイ聖下と会談(2018年9月)共同礼拝も予定の模様

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 2018年9月29日、キリスト教/東方正教会首席/コンスタンティノープル=新ローマ大主教・全地総主教バルソロメオス聖下(バーソロミュー1世世界総主教バルトロマイ1世ヴァルソロメオス1世 : His All-Holiness Bartholomew, Archbishop of Constantinople-New Rome and Ecumenical Patriarch)は、キリスト教/東方正教会/セルビア正教会の首座/セルビア総主教イリネイ聖下(ペーチ大主教 : ベオグラード・カルロヴツィ府主教 : His Holiness Irinej, Serbian Patriarch, Archbishop of Peć, Metropolitan of Belgrade and Karlovci)と会談したようです。

 

 (英語:コンスタンティノープル全地総主教庁 世界教会協議会代表部 公式サイト)Meeting of the Ecumenical Patriarch with the Patriarch of Serbia – Ecumenical Patriarchate Permanent Delegation to the World Council of Churches

 

 上記サイトによりますと、バルソロメオス聖下は、第一次世界大戦終了100周年式典のため、ギリシャ共和国を訪問しているようです。よって、同地をイリネイ聖下も同目的で訪問しているのでしょう。
 会談では、東方正教会の問題が話されたようですが、詳細は不明。
 ネアポリス・スタウロポリス府主教バルナバス座下(His Eminence Metropolitan Barnabas of Neapolis and Stavroupolis)が同席したようです。

 翌9月30日には共同礼拝も予定されている模様。

 

 現在の東方正教会の問題(シスマ)がどこまで波及するか不明ですが……。

 マケドニア共和国(マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 : FYROM)はセルビア共和国の管轄権内であり、正教オフリド大主教庁が設置されています。国家当局が支持するマケドニア正教会-オフリド大主教庁【MOC-OA】はそれと対立し、正教オフリド大主教庁へは国家による弾圧がおこなわれました。マケドニア正教会-オフリド大主教庁は、現在ブルガリア正教会の協力を得て、教会法上合法な地位を目指しています。
 一方、バルソロメオス聖下「マケドニアやその派生の名称を含む教会名は一切認めない」としています。
 9月30日には、マケドニア共和国で「マケドニア政府とギリシャ政府の合意に基づいて欧州連合【EU】・北大西洋条約機構【NATO】加盟を支持するか?」という内容の国名変更(北マケドニア共和国?)を問う国民投票が実施されます。
 この時期に、バルソロメオス聖下がマケドニア地方を訪問するというのは、教会政治的な意味合いが感じられます。
 仮に国名が変更され、欧州連合や北大西洋条約機構への加盟がかないそうな状況でも、聖下が「教会名にマケドニアを含むことは認められない」と発言すれば、ギリシャ(の政権側)、マケドニア、ブルガリアの政治家らの反発は避けられないかと思われます。西側諸国からも批判が出るでしょう。
 一方、独立正教会設置を認めれば、セルビア正教会はロシア正教会と同じ対応をとるでしょう。東方正教会の分裂が進むことは避けられません。
 しかも、ウクライナでの一連の経緯を受けて、この件は名称だけの問題となっており、仮にマケドニアで誰かがマケドニアという名称と関係がないが信徒や政治家たちが納得する名称を思いついてしまえば独立正教会設置を承認するしかないということになるでしょう。

 

 なお、今回同席したネアポリス・スタウロポリス府主教バルナバス座下ですが、同教区は全地総主教庁の管轄権にありながらギリシャ正教会に管理が預けられているいうややこしい扱いをされているもののひとつです(結構あります)。
 バルソロメオス聖下は、これらの教区の長たちを、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会首座/アテネ・全ギリシャ大主教イエロニモス2世座下(His Beatitude Hieronymos II, Archbishop of Athens and All Greece and Primate of the Autocephalous Orthodox Church of Greece)へはなんの承認も得ずに招集したりしたことで、同座下より批判を受けたことがあり、全地総主教庁とギリシャ正教会で認識に差があることが指摘されています。
 ここもまたシスマが波及する可能性がある場所です。

 

追記:
 それにしても、今回9月末にやや唐突に(と思える)バルソロメオス聖下とイリネイ聖下の会談は、8月末のモスクワ総主教キリル聖下とバルソロメオス聖下の会談後、コンスタンティノープルとロシアの関係は断絶するしかない方向へ向かったことを思い出させます。

 

関連:
 キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教バルソロメオス聖下と、セルビア総主教イリネイ聖下が共同礼拝(2018年9月)

 

シスマ2018~:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁からウクライナに送られた「キエフにおける総主教代理」二名がウクライナ大統領を訪問(2018年9月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 2018年9月17日、キリスト教/東方正教会/全地総主教庁から、「キエフにおける総主教代理」に叙任された二名、
 アメリカ合衆国ウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church of the USA)のパンフィロン大主教ダニエル座下(His Eminence Archbishop Daniel, Archbishop of Pamphilon)、
 カナダ・ウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church of Canada)のエドモントン・西部教区主教イラリオン座下(His Grace, the Right Reverend Bishop Ilarion, Bishop of Edmonton and the Western Eparchy)、
 は、
 ウクライナ大統領ペトロ・ポロシェンコ閣下(His Excellency Mr Petro Poroshenko)を訪問しました。

 

Адміністрація Президента України(ウクライナ大統領府公式チャンネル):
Зустріч Президента з Екзархами Вселенського патріархату в Україні – YouTube

 

 (英語:ウクライナ大統領府公式サイト)We came to work on the fait accompli – meeting of the President with the Exarchs of the Ecumenical Patriarchate in Ukraine — Official website of the President of Ukraine
 (英語)We are on an “extraordinary mission” Constantinople exarchs tell Poroshenko / OrthoChristian.Com

 

 両座下は、「キエフ総主教庁」および「ウクライナ独立正教会」以外にも、ロシア正教会系のウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufriy of Kiev and All Ukraine)を含む他の団体(といってもこの三つ以外は少数団体もいいところでしょうが)にも会う用意があるとしています。
 これは、全地総主教庁はウクライナに複数の独立正教会を容認する用意はないとみてもいいのではないでしょうか(合流させた一つの教会を独立正教会と認めると)。

 さて、オヌフリー座下は、座下の許諾なしに管轄権内に入った総主教代理二名とは会わないと声明を出しています。
 しかし、歴史上何人もの高位聖職者が前言を翻し、新たな立場に身を置いてきました。
 また、オヌフリー座下が会わないとしても、同教会から裏切り者が出る可能性もあります。

 

この記事を書いている時点で、会見のライブ動画の再生数は 19万回 となっています:
Петро Порошенко – Зустріч з Екзархами Вселенського Патріархату | Facebook

 

Петро Порошенкоさんのツイート: "Початок місії Екзархів Вселенського патріархату в Україні Архієпископа Даниїла та Єпископа Іларіона є надзвичайно важливою подією для усіх православних в Україні.… https://t.co/049VVeE4VQ"

 

Петро Порошенкоさんのツイート: "Дякую за великий особистий внесок Архієпископа Памфільського і Західної Єпархії УПЦ в США Даніїла і Єпископа Едмонтону і Захiдної Єпархії УПЦ в Канаді Іларіона, щоб Єдина Помісна Православна Церква наблизилася. Ми віримо, що вона точно стане можливою.… https://t.co/s6mEL99Uyp"

 

シスマ2018~:キリスト教/ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下が「コンスタンティノープルが総主教代理を二名送ってきたのは主教叙聖には二名必要だから」(2018年9月)「教会法上合法でない教会の主教たちを“合法化”できる」

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 (英語)Constantinople exarchs in Ukraine could be planning to reconsecrate schismatic bishops—Met. Hilarion (Alfeyev) / OrthoChristian.Com

 

 キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教イラリオン座下(ヒラリオン府主教 : His Eminence Metropolitan Hilarion of Volokolamsk, chairman of the Moscow Patriarchate’s Department for External Church Relations (DECR))は、インタビューに答え、コンスタンティノープルの全地総主教庁が二名の総主教代理を送ってきたことについて、

 「通常、同じ地への総主教代理は一名」

 「主教叙聖には最低でも二名の主教が必要」

 「教会法上合法でない教会(“キエフ総主教庁”と“ウクライナ独立正教会”)の“主教”を合法な主教とするため二名来ているのだろう」

 と述べているようです。

 

 「二名」が送られてきたことから全地総主教庁側が本気であることを想定しているようです。両者のコミュニオンの完全な解除は間違いないと思ってもいいでしょう。

 とはいうものの、そうなってもまた結びなおすことはできるわけで、これはまだ割とよくある段階です。大きなものでも歴史上何回かはあるものです。

 しかし、これからの動きの中で、コンスタンティノープルの全地総主教庁の権威が完全に失墜した場合、東方正教会という枠組みはどうなるのか、これはわかりません。