キリスト教/ギリシャ正教会の聖シノドの定例会合が11月5日~11月7日の日程で開催予定。議題の中心はツィプラス政権による国家と教会の分離を進める憲法の改定案について(2018年11月)ウクライナの問題はスルーかもしれません

 キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会の聖シノドの定例会合が2018年11月5日~11月7日の日程で開催予定です。
 議題の中心はツィプラス政権による国家と教会の分離を進める憲法の改定案についてとみられており、重要性の低いほかの問題が取り扱われるかどうかはわかりません。

 

 (ギリシャ語:ギリシャ正教会公式サイト)H ΕΚΚΛΗΣΙΑ ΤΗΣ ΕΛΛΑΔΟΣ : Ιερά Σύνοδος Εκκλησίας Ελλάδος – Δελτία Τύπου της Ιεράς Συνόδου

 (ギリシャ語)Τη Δευτέρα συνεδριάζει η Ιερά Σύνοδος – ΒΗΜΑ ΟΡΘΟΔΟΞΙΑΣ
 (ギリシャ語)Ιερά Σύνοδος: ''Θα τοποθετηθούμε αρμοδίως τον Νοέμβριο''

 

シスマ2018:インタビュー記事(BBCロシア語):キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁/テルメッソス大主教ヨブ座下(ウクライナ系の人物)(2018年11月)ロシアの正教会系サイトは座下の発言について「全地総主教庁は独立を認めるのみならず、独立を剥奪することもできる」

 BBCロシア語が、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープル全地総主教庁のテルメッソス大主教ヨブ座下(Archbishop Job of Telmessos)へのインタビューの記事を掲載しています。

 

 (ロシア語)"Надеемся, Москва обратится к разуму". Константинопольский епископ об украинской автокефалии – BBC News Русская служба

 

 ざーっと見てみましたが、とにかく長いうえに、大半がこちらには判定できない内容なので、詳細は読まないとは思います。

 この記事について、ロシアの正教会系サイト「OrthoChristian.Com」は、

 (英語)Not only can we give, but we can also take away autocephaly—Abp. Job (Getcha) / OrthoChristian.Com
 (英語)“The Moscow Patriarchate no longer exists in Ukraine today”—Abp. Job (Getcha) / OrthoChristian.Com

 「我々は独立を与えるだけでなく、剥奪することをもできる」と見出しにつけて紹介しています。
 当方はざーっと読んだだけなので、BBCロシア語の記事において、直接この部分にあたる箇所を見つけていません。
 とはいえ、全地総主教庁がそう考えているのはほぼ間違いないでしょう。
 近代において、彼らは、ギリシャ正教会の独立を認めた後に剥奪しています。
 そうなると、独立正教会というのは、「そもそも独立しているのか」というのが疑問になってきます。Autocephaly な 教会を「独立正教会」または「独立教会」としたのは、誤訳の類で、実際は「いつでも権限を剥奪される可能性のある自治的な教会」のことでしょう(全地総主教庁の見解が正しいとすれば)。もちろんこれでは Autonomous な教会との差がわかりませんが、「いつでも権限を剥奪される可能性のある第一級自治正教会」と「いつでも権限を剥奪される可能性のある第二級自治正教会」とでもすればよろしい。
 それにしても独立正教会が実は「独立していない正教会」のことだったとは……。

 また、座下は、1054年の東西教会分裂(教会大シスマ)のときと今では状況が違うことを述べています(1054年についてはめんどくさい話にもなりますので、とりあえず象徴的な年だとして先へ話を進めましょう)。
 要するに、東西教会分裂は神学上の違いなどがあったのに対し、今回はそんなものはない、シスマなどといっている連中は人々を脅しているのだ、ということです(当方のサイトもシスマといっているので、大主教からお叱りを受けてしまったことになるのでしょう!)。
 しかし、座下の発言全体をざっくり要約すれば、「我々が正しい。ロシアは従わないなら教会法違反。異論は認めない」といっているだけ
 ウクライナ系の人物が話し合いをする気がない意思をロシアに対して示しているのは、なるほどシスマではなく、ただの世俗的ケンカにすぎないともいえるでしょう。
 ですが、2016年の聖大シノド(The Great and Holy Synod)の件をみても明らかなように、教えに関しても分裂の兆しははっきりとあります。
 あるいは教会法についてまともな統一的見解も出てきていない状況を見れば、「一つの教えを奉じている」などというのが大嘘か大間違いで、「一つの教えを奉じている詐欺」か、「一つの教えを奉じているつもりだったがそんなことはなかったぜ!」というオチすら見えてきています(これについては本気で疑っており、検証すべきことだと考えています)。
 いずれにせよ、座下の定義するシスマにあてはまるかそうでないかはともかく、東方正教会は分裂するので(話し合うつもりがないんですから)、これからもシスマと書きます。

 そのほか、(ロシアのみならずオランダ系の機関による)世論調査で全地総主教庁の見解(ウクライナの人々が望んでいる)とは明らかに反する結果が出たのを意識したのか、「議会の多数の賛成があれば多数の人々が望んでいるということなのだ」という理屈をおっしゃっています。
 ジャン=ジャック・ルソー以降、思想家は、民意(民意に相当する言葉)をベースに、民主主義と現在いわれているよくわからない考えの集積について頭をひねってきましたが、結局のところ、民意というものがとらえどころがない=なんとでもいえるという現実を克服することはできず、「でも豊かで平和だしこれからも世の中はよくなるだろう」というにまどろんで仕事をサボっているうちに、アメリカや西欧は(他の地域も)とんでもない状況を迎えています。
 そんな時期に、「議会の多数の賛成があれば多数の人々が望んでいるということなのだ」。……こんなものは今どき意見のうちにも入りません
 世俗化(=聖職者はバカなので宗教に金や時間をつぎこむのはムダ)が進むわけだと納得してしまいました。いやまあ……もとから知ってました……けど。

 

 ともあれ今回のインタビュー、読みこむ気がまるでしませんが、キリスト教、東方正教会のダメっぷりをあらわす記念碑的なものになっているのではないか、と強引に歴史的評価をして感想を終わりたいと思います。

 新約聖書/マタイによる福音書/10章/34節 より:

わたしが地上に平和をもたらすために来たと考えるな。平和ではなく剣をもたらすために来たのだ。

 

 【シスマ2018 – The Schism of 2018】<東方正教会大分裂>: ウクライナへの独立正教会設置から始まったコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など<東方正教会内戦、大分裂、そして崩壊?>

 

シスマ2018 (Spillover):キリスト教/ギリシャの東方正教会メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、ロシア人巡礼観光客のキャンセルが増加しているとの記事を掲載(2018年10月)

 ギリシャの東方正教会系メディアΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)が、宗教的な場所を目的としたロシア人巡礼観光客のキャンセルが通常より増加しているという記事を出しています。

 

 (ギリシャ語)''Βουτιά'' στον θρησκευτικό τουρισμό μετά τη διαμάχη Φαναρίου – Μόσχας

 

 本当だとすれば、到着したとたんに相互破門になったりしたら塩をまかれるかもしれないという後ろ向きの考えでキャンセルする人が出ているのでしょう(もっとも今が最後のチャンスになるという前向き?な考えもありえますが)。

 記事によれば、キャンセルされている予定地として、アトス山(コンスタンティノープルの全地総主教庁の管轄権下)だけではなく、メテオラ修道院群なども含まれるようです。
 メテオラ修道院群は、全地総主教庁の管轄権下ではなく、ギリシャ正教会アテネ大主教庁の管轄権下だと思います(もしかしたら違うかもしれません)。もっとも一般のロシア人は、ギリシャ正教会がコンスタンティノープルの全地総主教庁から独立した存在だということを知らないかもしれませんが(そして独立しているとは到底いえない状況になってきていますが)。

 いずれにせよ、観光客の長期的な減少は経済にマイナスとなり、責任問題に発展する可能性もあります。
 もちろん、喉元過ぎれば熱さを忘れるということもありえます。しかし関係改善が見込めないどころか、相互破門 → 「彼らは教会から自発的に出ていった」論、というまだ二段階の悪化が残っている状況です。

 

 この記事ではありませんが、アトス山については、ロシア正教会の見解(ロシア正教会の信徒はアトス山では領聖を受けられない)に対する反論も出たのですが、内容が「アトス山が全地総主教庁の管轄権下にあるというのは儀礼的なものだ」という最近どこかで無視されたような理屈だったのでロシア側からはスルーされた模様です。

 

 ところで。
 実は数日前(10月19日付)に、ΡΟΜΦΑΙΑには観光に関する別の記事が出ています。

 (ギリシャ語)Ομιλία Μητροπολίτη Δωδώνης για τον Τουρισμό Ελλάδας-Ρωσίας στη Βουλή

 見出しからは、ギリシャ正教会のドドニ府主教クリソストモス座下(His Eminence Metropolitan Chryssostomos of Dodoni)が、「議会でロシア人のギリシャ観光についてスピーチ」と取れるので、これはもしやコミュニオン解除が原因でおおげさなことになっているのではと思ったら、実際は上院の建物でロシアとギリシャの観光関係に携わる政治家らが集まって(ざっくりいうと)「ここ数年のロシア人観光客増加はめでたいので、さらなる発展に向けてがんばりましょう」というようなことを話し合ったという内容で、コミュニオン解除にはまったく触れていません(ずっこけました)。
 予定があったから集まったのでしょうが、こう、なんというか、現場の空気が非常に気になる会合ではあります。

追記:
 なお、このクリソストモス座下ですが、今回のシスマでは完全に全地総主教庁支持者で、会合にこの人を呼んでいる時点で、なんだかひどい茶番臭がします。

 

関連:
 2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧

 

シスマ2018:キリスト教/ギリシャ正教会のキティラ府主教セラフィム座下がウクライナ問題について同教会聖シノドの臨時会合を求めていた模様(2018年10月)今のところ続報なし

2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧

 

 2018年10月15日のロシア正教会の聖シノド会合より前の時間のようですが、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会のキティラ府主教セラフィム座下(His Eminence Metropolitan SeraphimSerapheim】 of Kythira【Kythera】)がウクライナ問題について同教会聖シノドの臨時会合を求めていた模様です。
 セラフィム座下は現在(2018年~2019年)、同教会の聖シノドのメンバー。

 

 (英語)Greek metropolitan calls for extraordinary session of Holy Synod to address Ukrainian crisis / OrthoChristian.Com

 (ギリシャ語)Σύγκληση Ιεραρχίας για το Ουκρανικό ζητά ο Κυθήρων Σεραφείμ

Praktoreio Ekklisiastikon… – Praktoreio Ekklisiastikon Eidiseon | Facebook

 

 すでに時間が経過しているのに続報がないようなので、廃案とあいなったのかもしれません。

 

キリスト教/東方正教会/教会法上合法でない“マケドニア正教会-オフリド大主教庁【MOC-OA】”が、国名も教会名も「マケドニア」を維持すべきと主張(2018年10月)

 ギリシャ系正教会メディア「ΡΟΜΦΑΙΑ(Romfea.gr)」が MIA (マケドニアのニュース)の報道を引いて記事にしているところによりますと、キリスト教/東方正教会の教会法上合法でない“マケドニア正教会-オフリド大主教庁【MOC-OA】”(以下、MOC-OA)が、国名も教会名も「マケドニア」を維持すべきと主張しているようです。

※MIAのニュースサイトを見てみましたが、英語版・マケドニア語版とも該当記事は見つかりません。

 

 (ギリシャ語)Σχισματική εκκλησία Σκοπίων: «Το όνομα της εκκλησίας και της χώρας να παραμείνει Μακεδονία»

 

 マケドニア共和国(マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 : FYROM)は、ユーゴスラビア崩壊後、隣国ギリシャによって国名への「マケドニア」使用が反対され、欧州連合【EU】や北大西洋条約機構【NATO】への加盟も事実上拒否されてきましたが、現在の両国政権により、「国名を北マケドニア共和国に変える」ことで合意がなされました(どちらも厳しい反対意見があります)。

 そんな中で先月末、マケドニア共和国で国民投票がおこなわれましたが、投票率は事前に決めていた目標を下回りました。また、そもそも投票結果は行政府を束縛するものではありません。議会での賛成が必要でした。
 マケドニアの政権はまったくあきらめておらず、NATOやその拡大を目指すアメリカも支持していますが、一方、ロシアは反対している、という、いつもの状況です。

 それはともかくとして、教会の話ですが、MOC-OAは、仲の良いブルガリア正教会と教会法上合法化に向けた取り組みを開始しています(2017年11月報道よりたびたび話が出ます)。
 マケドニア共和国の領域は、セルビア正教会の管轄で、同教会が正教オフリド大主教庁を設置していますが、MOC-OAと同国政府はこれを弾圧してきました。
 MOC-OAの教会法上合法化はセルビア正教会には容認できるものではなく、またロシア正教会もセルビア正教会に同調しています(とはいえ両教会がすべてのことにおいて共同するわけではないことには注意が必要です)。
 そして、コンスタンティノープルの全地総主教庁も、「マケドニアやその派生語を含む名称」は一切認めないとしており、仮に名称を「北マケドニア正教会」としても、全地総主教庁の承認は得られない状況にあります。これはギリシャ国内のマケドニア地方が全地総主教庁の管轄下にあることが理由なのでしょう(ギリシャ国内の管轄権はギリシャ正教会に預けられているともいわれますが、これまでの状況をみるとギリシャ正教会は無視されているように思えます)。

 唯一の道は、教会名に「マケドニアやその派生語を含む名称」を一切入れないことで全地総主教庁の合意を得ることでしょうが、これもまた今回の声明が本気であれば、選択肢に入っていないようです(とはいえ、これまでもいろいろと報道が出ているので、フェイクニュースかもしれません)。

 MOC-OAのスタンスは興味深いですが、もし彼らが現在の立場を維持するならば、コンスタンティノープルの全地総主教庁とフル・コミュニオンに入ることはありえず、一方でロシア正教会モスクワ総主教庁とフル・コミュニオンに入ることもありえなさそうです。