キリスト教/西欧ロシア正教会大主教区のジャン大主教座下とコンスタンティノープルのフランス府主教エマニュエル座下が共同声明(2020年12月)「お互いに気を使いましょうね」くらいの文章ですが……

 2020年12月4日付で、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を持つ西欧ロシア正教会大主教区の首座大主教/ドゥブナ府主教ジャン座下(His Eminence Metropolitan JeanJohn】【Ioan】【Ioann】 of Dubna, Archbishop of the Russian Orthodox Churches in Western Europe)と、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルのフランス府主教エマニュエル座下(His Eminence Metropolitan Emmanuel of France)による共同声明が発表されています。

 

 (フランス語:西欧ロシア正教会大主教区 公式サイト)Archevêché des églises orthodoxe de tradition russe en Europe occidentale – Communiqué du Bureau de l’Archevêque du 4 décembre 2020

 (英語)ROC structures and Phanar in Europe agree on fraternal coexistence – UOJ – the Union of Orthodox Journalists

ROC structures and Phanar in Europe… – Union of Orthodox Journalists – UOJ | Facebook

 

※現時点で西欧ロシア正教会大主教区側の発表と、フランスの正教会系メディア、ロシアの正教会系メディアの記事がありますが、コンスタンティノープル側からの発表はなく、ギリシャの正教会系メディアも言及していません。

 

 内容は「お互いに気を配りましょうね」くらいのもので、特に意味はありません
 コンスタンティノープルが(コンスタンティノープルの管轄権下にあった)西欧ロシア正教会大主教区をつぶそうとしたときに、モスクワ総主教庁の管轄権下に移ったジャン大主教座下らとコンスタンティノープルの管轄権下の小教区に移った人々がおり、この両者の間でケンカをなるべくしないようにしましょうねということです。
 モスクワ総主教庁がコンスタンティノープルとのコミュニオンを解除している以上、西欧ロシア正教会大主教区もまたコンスタンティノープル系の神品(聖職者)らと礼拝はおこなえず、せいぜいケンカしないくらいが限界ですが……。

 今回の合意文書がなぜ出されたかについては、判断できかねるところがあります。
 そもそも決裂して出ていったわけで、ケンカをする必要はないものの、もう距離をおいてしまえばいいはずです。そうしていないとすると、距離が取れていないし、取れない理由があるのでしょう。聖堂などの施設を今も共同で使用していたりするケースがあったり、片方がそれを自分たちだけのものにしようとしていたりという、そういう争いごとがあるのかもしれません。

 また、あるいはモスクワ総主教庁自体が大主教区になんらかの圧力をかけてきている可能性があります。
関連:
 キリスト教/ロシア正教会/西欧における総主教代理アントニー府主教座下と、西欧ロシア正教会大主教区首座/ジャン府主教座下が会見(2020年10月)
 ↑ の記事において、両者の関係に関する問題点が話し合われたことが伝えられたように、大主教区とモスクワ総主教庁の西欧における総主教代理区になにか問題があることは秘密でも何でもない様子。
 ジャン大主教が、コンスタンティノープルとの融和姿勢を見せて、モスクワ総主教庁を牽制している可能性もあります。

 

追記:
 ロシアの正教会系メディア ORTHODOX CHRISTIANITY も今回の件を伝えています。

 (英語)Moscow-Constantinople agreement in France signals end of Met. Emmanuel’s legal threats / OrthoChristian.Com

 この見解は、コンスタンティノープルのエマニュエル府主教が自身の主張を諦め、ジャン大主教の立場を認めたというようなものです。
 これはコンスタンティノープルに善意(?)があるとすれば一つの見方でしょう。
 しかしコンスタンティノープル側にメリットがなく(ないというか見えてこないというか)、そもそも東方正教会全体での絶対的な首位権を主張しているコンスタンティノープルが何かを諦める必要など毛頭ないというのが現在の前提である以上、あまり説得力はないのかなと思います(書いた人も信じているのかどうか)。

 

キリスト教/ロシア正教会/西欧における総主教代理アントニー府主教座下と、西欧ロシア正教会大主教区首座/ジャン府主教座下が会見(2020年10月)

 2020年10月22日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会/西欧における総主教代理/コールスニ・西欧府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Anthony【Antoniy】 of Korsun and Western Europe, Patriarchal Exarch of Western Europe)とキリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を持つ西欧ロシア正教会大主教区の首座大主教/ドゥブナ府主教ジャン座下(イオアン大主教 : His Eminence Metropolitan JeanJohn】【Ioan】【Ioann】 of Dubna, Archbishop of the Russian Orthodox Churches in Western Europe)が会見しました。

※ややこしいですが、前者は2018年からのコンスタンティノープルとのシスマに伴い復活・設置された総主教代理区で、後者はロシア革命とその後の混乱でコンスタンティノープルの管轄権下にあったものの同じくシスマに伴いロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下に移動したものです。

 会談では、フランスおよび西欧における両機関の関係に関する問題点など、西欧ロシア大主教区がモスクワ総主教庁の一部となって1周年が近いことなどが話題となったようです。
 後者に関して、パリでの新型コロナウイルス感染症【COVID-19】対策の規制の状況が許せば、11月8日にアントニー府主教とジャン府主教が聖アレクサンドル・ネフスキー大聖堂で礼拝をおこなう予定としています。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁 公式サイト)Patriarchal Exarch for Western Europe meets with head of Archdiocese of Western European Parishes of Russian Tradition / News / Patriarchate.ru

 (ロシア語:コールスニ教区 公式サイト)Cостоялась встреча Патриаршего экзарха Западной Европы митрополита Антония и главы Архиепископии западноевропейских приходов русской традиции митрополита Иоанна

 

キリスト教/ギリシャ正教会首座アテネ大主教イエロニモス2世座下が、ロシア正教会の西欧における総主教代理アントニー府主教座下と会見(2019年9月)

 2019年9月6日、キリスト教/東方正教会/ギリシャ正教会首座/アテネ・全ギリシャ大主教イエロニモス2世座下(His Beatitude Hieronymos II, Archbishop of Athens and All Greece and Primate of the Autocephalous Orthodox Church of Greece)は、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の西欧における総主教代理/コールスニ・西欧府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Anthony【Antoniy】 of Korsun and Western Europe, Patriarchal Exarch of Western Europe)と会見しました。
 アントニー総主教代理座下側から、ロシア正教会の海外の教区らの活動についてイエロニモス2世座下側へ説明があり、また、東方正教会内の問題についても話し合われたようです。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Metropolitan Anthony of Chersonesus and Western Europe meets with Primate of Greek Orthodox Church | The Russian Orthodox Church
 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Metropolitan Anthony of Chersonesus and Western Europe meets with Primate of Greek Orthodox Church / News / Patriarchate.ru
 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Митрополит Корсунский и Западноевропейский Антоний встретился с Предстоятелем Элладской Православной Церкви | Русская Православная Церковь
 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Митрополит Корсунский и Западноевропейский Антоний встретился с Предстоятелем Элладской Православной Церкви / Новости / Патриархия.ru

 

 (英語)Metropolitan of Chersonese met with the Archbishop of Athens – Romfea News

Romfea.newsさんはTwitterを使っています: 「The Archbishop and Metropolitan Anthony raised a number of issues on Orthodoxy . #romfeanews https://t.co/hthqUxkW1L」 / Twitter

Romfea.news – The Archbishop and Metropolitan Anthony… | Facebook

 

キリスト教/ロシア正教会の「西欧における総主教代理」が交代(2019年5月)昨年末【2018年12月】に再設置

 2019年5月30日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会の聖シノドは、同教会のウィーン・ブダペスト大主教アントニー座下(His Eminence Archbishop Anthony【Antoniy】 of Vienna and Budapest)を新たな「西欧における総主教代理」に、昨年末【2018年12月】の再設置より「西欧における総主教代理」を務めていたイオアン府主教座下をウィーン・ブダペスト府主教にするという、交代人事を決定しました。
 翌5月31日に、アントニー座下は府主教に昇叙されています。

 

 (英語)New Exarch of Western Europe of the Patriarchate of Moscow – Romfea News

Romfea.newsさんのツイート: "New Exarch of Western Europe of the @mospat_ru #romfeanews https://t.co/gTHgG3Ve8e"

 

 昨年末にロシア正教会は、対コンスタンティノープルの意思表示として、「西欧における総主教代理区」と「東南アジアにおける総主教代理区」を設置しました。
 このうち、「西欧における総主教代理」に叙任されたイオアン座下は、主教から(大主教を経ずして)府主教に昇叙されるという、例外的な事態となっていました。

 今回、ギリシャの正教会系メディア Romfea 英語版は、この短期間での交代を「予想されていなかったもの」としています。
 しかし、上記のように、イオアン座下を総主教代理とした昨年の人事が例外的なものだったことを考えると、いずれイオアン座下は“本来の昇格路線”に戻し、別の人物が総主教代理となる予定だったとみるべきでしょう。

 アントニー座下のほうは、今回の総主教代理叙任とともに、府主教に昇叙されました。
 また、アントニー座下は、以前より(モスクワ総主教庁のロシア連邦外の教会に関する役職に就いているため)コンスタンティノープル管轄権下にある西欧ロシア正教会大主教区のロシア正教会“移籍”に関して、ロシア正教会側の窓口となっています。
 今回、アントニー座下を「西欧における総主教代理」に移したのは、大主教区の件と関係があるかどうかはわかりませんが、仮に交渉が破綻した場合、ロシア正教会側は個別に切り崩して「西欧における総主教代理区」に入れるように行動するでしょう。アントニー座下はこれから大主教区メンバーとの接触もますます増えるだろうことを考えると、切り崩しの前準備のようにも思えますが……。

 

インタビュー記事(ロシア語):キリスト教/コンスタンティノープル管轄権下からの事実上の離脱を決めた西欧ロシア正教会大主教区のジャン【イオアン】大主教座下「理想的な教会は無い。ローマ・カトリック教会の現状を見るがいい」(2019年2月)

 2019年2月23日に臨時総会【EGA】がおこなわれ、事実上、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルからの離脱を決定した西欧ロシア正教会大主教区。

 この大主教区は、もともとロシア帝国崩壊後のソ連での弾圧から逃れた人々らにより結成され、その後ロシア正教会モスクワ総主教庁を完全に離れてコンスタンティノープルの管轄権下に入っていたものです(ものすごく簡単にいいましたが)。
 1999年には、コンスタンティノープルより総主教代理区として認めるトモスを与えられましたが、2018年11月27日にコンスタンティノープルより突如として一方的に廃止を宣告されました。また、これは大主教区自体の廃止を要求するものでした。
 一方、大主教区側は、これに対し、総主教代理区として認めるかどうかはコンスタンティノープルが決めるものだが、大主教区の将来を決めるのは大主教区自体の総会【GA : General Assembly】であるとし、2019年2月23日、臨時総会【EGA : Extraordinary General Assembly】を開催、コンスタンティノープルからの要求を拒否することを投票で決定しています。
関連:
 キリスト教/コンスタンティノープル管轄下で一方的に総主教代理区としては廃止された西欧ロシア正教会大主教区の臨時総会が開催、集団としての解体を認めないと決定(2019年2月)

 また、これから大主教区が、コンスタンティノープルではないどこの教会法上合法な教会に属するかですが、ロシア正教会モスクワ総主教庁、(ロシア正教会の管轄権下で自治的な権限を保有する)在外ロシア正教会、ルーマニア正教会、アメリカ正教会【OCA】の名前が挙がっていました。

  Orthodoxie.com によりますと、投票でコンスタンティノープルの要求の拒否が決まった後、同大主教区のジャン大主教座下(イオアン大主教 : ハリオポリス大主教)は、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会のウィーン・ブダペスト大主教アントニー座下(His Eminence Archbishop Anthony【Antoniy】 of Vienna and Budapest)からの書簡を読み上げ、すでにロシア正教会モスクワ総主教庁との間の対話が進んでいることをあきらかにしています。
関連:
 キリスト教/コンスタンティノープル管轄下で一方的に総主教代理区としては廃止され、事実上の離脱を決定した西欧ロシア正教会大主教区は、すでにロシア正教会モスクワ総主教庁との話を進めている模様(2019年2月)

 今回、さらに別のメディアがジャン座下へのインタビューをおこなっています。

 (ロシア語)Парижский архиепископ о перспективе перехода к РПЦ: «Идеальных церквей нет» – РОССИЯ – RFI

 今までの状況の確認ですが、興味深いものになっています。

 新しく属する教会として連絡を取った先として(ロシア正教会以外)、在外ロシア正教会とルーマニア正教会へも連絡を取ったことがあきらかにされていますが、在外ロシア正教会では大主教区側の要求が通りにくそうなこと、ルーマニア正教会ははっきりしないようです。アメリカ正教会【OCA】については言及がありません。
※なお、ルーマニア正教会が前向きに検討しているとする報道もありますが……。

 また、現在の政治情勢のもとで、ロシア正教会の管轄権下に入ることについては、「政治とは距離を置くこと」という状況によっては厳しいもののよくある聖職者的なコメントに加え、ロシアの聖堂や修道院が復興していることに心動かされている様子がうかがわれます。
 加えて、離脱者が出る可能性についても認めています。西欧は自由な国々なので立ち去るのも自由ということですが……これは東方正教会の聖職者として果たして良いのかとも思われます。
 しかし、次のようなコメントも面白いところです。
「スキャンダルなどの問題はすべて教会にある。ローマ・カトリック教会の現状を見よ(このインタビューより時間としては後ですが、本日、オーストラリアの枢機卿が複数の児童への性的虐待で有罪宣告)」
「私はいつも楽園はここにはないと言っている。修道院も楽園ではない。地上には天国はない」
「もし我々がもっとも理想的な教会を求めてもそんなものはない。無人島で一人で過ごすしかない」

 インタビューの中で質問されていながらはっきりと答えられていないように思うのは、大主教区が教会法上合法な教会の中にあるべきなのか(つまり「完全に独立した宗教組織になってはいけないの?」)ということと、現在の状況で東方正教会の教会法上合法な教会とはなにか(モスクワがコンスタンティノープルとのフル・コミュニオンを解除している現状で、コンスタンティノープルがモスクワとのフル・コミュニオンを解除する可能性はあるわけですが、そうなってもモスクワは教会法上合法な教会なのか)というあたりでしょうか。