キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教セオフィロス3世聖下が、ロシア正教会のアスタナ・カザフスタン府主教アレクサンドル座下を訪問(2018年10月)

 2018年10月11日、第6回世界・伝統的宗教指導者会議(6th Congress of Leaders of World and Traditional Religions)にカザフスタン共和国大統領ヌルスルタン・ナザルバエフ閣下(His Excellency Mr Nursultan Nazarbayev)から招待され同国に滞在中のキリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)は、アスタナ生神女就寝大聖堂を訪問、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会のアスタナ・カザフスタン府主教アレクサンドル座下(His Eminence Metropolitan Alexander of Astana and Kazakhstan)と会談しました。
 ロシア正教会より、カスケレン主教ゲンナジー座下(His Grace Bishop GennadiyGennady】 of Kaskelen)が同席。

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)His Beatitude Patriarch Theophilos of Jerusalem visits Cathedral of the Dormition in Astana | The Russian Orthodox Church

 (ロシア語:ロシア正教会カザフスタン府主教庁公式サイト)Успенский собор Астаны посетил Блаженнейший Патриарх Иерусалимский и всей Палестины Феофил

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Блаженнейший Патриарх Иерусалимский Феофил посетил Успенский собор Астаны / Новости / Патриархия.ru

 

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Успенский собор Астаны посетил Блаженнейший Патриарх Иерусалимский и всей Палестины Феофил 💒 11 октября 2018 года. Астана. Главный храм Казахстана – Успенский кафедральный собор посетил Блаженнейший Патриарх Иерусалимский и всей Палестины Феофил III. ⤵ Его Блаженство прибыл в казахстанскую столицу по приглашению Президента страны Н.А. Назарбаева для участия в VI Съезде лидеров мировых и традиционных религий. ⤵ Иерусалимский Первосвятитель совершил краткий молебен и поклонился святыням храма, в числе которых – ковчег с мощами апостола Андрея Первозванного, списки с явленных чудотворных икон «Феодоровской» и «Почаевской», ковчег с частицами мощей Киево-Печерских преподобных отцов. ⤵ Его Блаженство обратился к Главе Митрополичьего округа духовенству и прихожанам со словами приветствия. «Мне очень приятно находиться здесь – в этой красивой и благожелательной стране и видеть всех вас. Чувствую себя так, как будто не уезжал из дома. Я чувствую себя здесь как в Иерусалиме», – сказал Патриарх. ⤵ Иерусалимский Предстоятель отметил, что испытал искреннюю радость от изменений, которые произошли в Успенском храме со времени его прошлого визита в 2012 году – создание величественной колокольни и благоукрашение собора росписями, новыми иконами и утварью. ⤵ В благословение храму Патриарх Феофил подарил Иерусалимскую икону Божией Матери. 📸 Подробный отчет встречи доступен по ссылке в профиле👆 ↔ #вера #духовность #душа #религия #церковь #храм #православие #молитва#собор #боже #бог #иисус #спасение #mitropolia #kazakhstan #almaty#митрополия #казахстан #алматы #астана #событиявправославии

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シスマ2018:ウクライナのメディアが、キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁で木曜日まで非公開のシノドが始まったと報道。議題は発表されず(2018年10月)

【シスマ2018】東方正教会大分裂: ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧

 

 ウクライナからの報道によりますと、2018年10月9日、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの全地総主教庁で木曜日まで非公開のシノドが始まったようです。

※ギリシャ系のメディアの報道が見当たらないので、万が一のフェイクニュースの可能性もありますが……。

 ともあれ、議題は発表されていませんが、ウクライナへの独立正教会設置の認定とみられています。

 

 (ウクライナ語)Розпочався Синод, який може вирішити долю української автокефалії – BBC News Україна

 

 早ければ10月11日にウクライナ正教会に独立正教会が設置されると発表されます。

 さて、ロシア正教会側は不思議なほど打てる手がありません。
 ユーカリスト・コミュニオンは解除するでしょうが、それにどれだけ意味があるかは不明で、そもそも今よりも厳しい状況ではない時期に解除がおこなわれたこともあり、これに留まるだけであるのなら敗北でしょう。
 かといって、 excommunication や anathema のような破門は他教会の理解は(ここまできてもなお)得られないでしょう。もちろんそれを覚悟で宣言する可能性はあります。

 ほかに打てる手としては、アンティオキア総主教庁になにか動いてもらうことですが、同庁自体がエルサレム総主教庁との問題が解決できておらず、シスマを加速するだけになるかもしれません(いっそ加速させようということでモスクワと合意するかもしれませんが……)。

 アレクサンドリア総主教庁の行動が極めて重要になってきています。
 もし同庁が最期までロシア正教会の味方をしてくれるならば、モスクワ総主教庁はアレクサンドリア総主教庁を新しい“first among equals”に推すだけです。
 アレクサンドリア総主教の“Pope”称号も、これまで「教皇」とするのは例外的でしたが、転換点となるかもしれません。
 エルサレム総主教庁がコンスタンティノープルの全地総主教庁と縁を切ることは極めて考えにくいため、エルサレムと対立してきたアンティオキア総主教庁の合意も得られる可能性はあり、ある程度綺麗な分裂に向かっていくかもしれません。
 とはいえ、アレクサンドリアがそこまで踏み切れるかというと、難しいかとも思われます。
「ここは耐えよう」と説得されるかもしれません。

 とはいえ、なにもしないことはモスクワの敗北を意味します。「モスクワは第三のローマ」ではなく「モスクワはモスクワ」ということになれば、ロシア連邦という国家の権威も落ちる可能性もあります。

 古代四総主教庁が現在位置する国家は、
 コンスタンティノープル = トルコ、
 アンティオキア = シリア
 エルサレム = イスラエル(実効支配)、パレスチナ
 アレクサンドリア = エジプト
 です。
 シリアはロシアとの関係は緊密で、エジプトもロシアとは友好的、トルコ・イスラエルとは政治的な駆け引きがおこなわれる可能性がある程度あります。
 舞台は政治に移るのか。

 

 いずれにせよ、全地総主教庁がウクライナに独立正教会を設置した場合、東方正教会に関連する地域への渡航や、(日本にも存在しますが)東方正教会系統の聖堂・修道院・遺跡などには近づかないほうが良いかもしれません。
 特にウクライナ。個人的には、外務省は「レベル3 渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」を全域に出すべきだと思います。

 

キリスト教/キプロス大主教クリソストモス2世座下が、ロシアのセルゲイ・ ステパーシン(元)首相と会見(2018年10月)

 2018年10月7日、キリスト教/東方正教会/キプロス正教会の首座/ノヴァ・ユスティニアナと全キプロスの大主教クリソストモス2世座下(His Beatitude Archbishop Chrysostomos II of Nova Justiniana and all Cyprus)は、キプロス共和国を訪問中の元ロシア連邦首相セルゲイ・ヴァディモヴィチ・ステパーシン中将(Colonel General Sergei Vadimovich Stepashin)と会見しました。
 ステパーシン(元)首相は一時はエリツィン(当時)大統領の後継候補でしたが、結局そうはならず(プーチン(現)大統領が就任)、現在では Imperial Orthodox Palestine Society (帝立正教パレスチナ協会?)という、ロシア国内及び東方正教会関連の地域を除くとあまり知名度が高くないらしい団体の会長を務めています。

 会談では、経済を含む両国の関係強化や、ロシア正教会信徒のエルサレム巡礼の通過地・正教会関連の遺跡などがあるキプロスの重要性(平たくいえばロシアからの観光)などが語られたようです。

 キプロス共和国では、近年でも、メディアが国営企業民営化の妥当性についてクリソストモス2世座下に質問するなど、大主教の政治・経済との関わりが他国と違うようにも思えます。

 キプロス正教会のタマソス・オレイニ府主教イサイアス座下(His Eminence Metropolitan Isaias of Tamassos and Oreini)が同席。

 

 (ギリシャ語:キプロス正教会公式サイト)Συνάντηση Αρχιεπισκόπου Κύπρου με τον Πρωθυπουργό της Ρωσίας Sergei Stepashin – Εκκλησία της Κύπρου

 (ロシア語)Сергей Степашин посетил на Кипре ставропигиальный мужской монастырь Махерас и Церковь св. Лазаря Четырехдневного
 (ロシア語)Сергей Степашин встретился с Предстоятелем Кипрской Православной Церкви Блаженнейшим Архиепископом Новой Юстинианы и всего Кипра Хризостомом II

 

Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της… – Γραφείο Ενημερώσεως και Επικοινωνίας της Εκκλησίας της Κύπρου | Facebook

 

Императорское Православное Палестинское… – Императорское Православное Палестинское Общество | Facebook

 

追記:
 クリソストモス2世座下も、ウクライナの問題について、汎・東方正教会会合を求めている、というロシア・メディアの報道です(ステパーシン元首相の発言から)。

 (ロシア語)Интерфакс-Религия: Архиепископ Кипра выступает против вмешательства политиков в дела Православной церкви на Украине – Степашин
 (英語)Archbishop of Cyprus opposes political interference in Ukrainian Church affairs / OrthoChristian.Com

 なお、会見を報じたギリシャの正教会系メディア「Romfea.gr(ΡΟΜΦΑΙΑ)」はウクライナに関する事項は報じていないようです。
 (ギリシャ語)Στον Αρχιεπίσκοπο Κύπρου ο πρώην Πρωθυπουργός της Ρωσίας Σεργκέι Στεπάσιν

 この、教会の首座らと会見した人物が「首座はこういっていた!」とメディアなど外部に発言する内容は信用できないというのが現在進行中の東方正教会大分裂【シスマ2018】の特徴です。

 キプロス正教会公式サイトにもウクライナに関する話題はなかったので、正否は不明ではあるものの、シスマに積極的に関わりたくない教会のひとつとみておいていいでしょう。
 しかし、ならば、「問題に関わりたくないが、ロシアの金は欲しい」といっているようなものではないかとも思えます。

 

 独立正教会の首座を含む聖職者らが、大きな問題になっているのに普段のきれいごとの説教のような言葉遣いをしたために、ウクライナ系メディアがそれを自分たちの好きなように解釈して報道し、それに対立するためにロシア系メディアが自分たちに都合の良いほうに少し動かして報道する、ということが繰り返され、もはやこの問題について(ウクライナ、ロシア関わらず)メディアの報道は信用できない状況です。

 シスマ2018の最大の問題は、各教会の発信する情報が明確でないために事態がややこしくなっていること。
 そしてそれをまったく反省せずに各教会が曖昧な情報発信を続けていること。
 それらが原因で正確でない情報が拡散し、さらに事態を悪化させていること、となるでしょう。
 部外者の視点ではただただあきれるだけですが……聖職者や信徒らはどう考えているのでしょう。

 

関連:
 【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

キリスト教/東方正教会/エルサレム総主教セオフィロス3世聖下がロシア正教会のサンクトペテルブルク・ラドガ府主教ヴァルソノフィー座下と会見、勲章を授与(2018年9月)

【シスマ2018~】 ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事の記事一覧

 

 2018年9月17日、キリスト教/東方正教会/エルサレム・全パレスチナ総主教セオフィロス3世聖下(His Beatitude Theophilos III, Patriarch of Jerusalem and All Palestine)は、エルサレム巡礼中のキリスト教/東方正教会/ロシア正教会/サンクトペテルブルク・ラドガ府主教ヴァルソノフィー座下(His Eminence Metropolitan Varsonofy of St. Petersburg and Ladoga)と会見しました。
 エルサレム総主教庁から、コンスタンティナ大主教アリスタルコス座下(Geronda Secretary-General Most Reverend Archbishop Aristarchos of Constantina)らが同席。

 セオフィロス3世聖下は、ヴァルソノフィー府主教座下に聖十字勲章【聖墳墓十字勲章?】第一等を授与。
 府主教座下は、モスクワ総主教キリル聖下からの挨拶を伝え、また、セオフィロス3世聖下が、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会の首座/キエフ・全ウクライナ府主教オヌフリー座下(His Beatitude Metropolitan Onufriy of Kiev and All Ukraine)を支持していることに感謝しました。

※セオフィロス3世聖下は、まだコンスタンティノープル全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の間がここまで悪化する前に、オヌフリー座下について「神がウクライナの難局を乗り越えるために選んだ人物」という発言をしています。今では「しまった」と思っているかもしれません。

 

Jerusalem Patriarchate(東方正教会エルサレム総主教庁公式チャンネル):
O ΜΑΚΑΡΙΩΤΑΤΟΣ ΠΑΡΑΣΗΜΟΦΟΡΕΙ ΤΟΝ ΣΕΒΑΣΜΙΩΤΑΤΟ ΜΗΤΡΟΠΟΛΙΤΗ ΑΓΙΑΣ ΠΕΤΡΟΥΠΟΛΕΩΣ Κ. ΒΑΡΣΑΝΟΥΦΙΟ – YouTube

 

 (英語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Chancellor of the Moscow Patriarchate meets with Primate of the Orthodox Church of Jerusalem | The Russian Orthodox Church

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Управляющий делами Московской Патриархии встретился с Предстоятелем Иерусалимской Православной Церкви / Новости / Патриархия.ru
 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁渉外局公式サイト)Управляющий делами Московской Патриархии встретился с Предстоятелем Иерусалимской Православной Церкви | Русская Православная Церковь

 

O ΜΑΚΑΡΙΩΤΑΤΟΣ ΠΑΡΑΣΗΜΟΦΟΡΕΙ ΤΟΝ… – Jerusalem-Patriarchate | Facebook

 

 このほか、ヴァルソノフィー座下は、エルサレム総主教庁のエレノポレオス府主教イオアキム座下(His Eminence Metropolitan Ioachim of Helenoupolis)と共同礼拝をおこないました。

 

【シスマ2018】東方正教会大分裂: ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧など

 新約聖書/マタイによる福音書/10章/34節 より:

わたしが地上に平和をもたらすために来たと考えるな。平和ではなく剣をもたらすために来たのだ。

 

※NHKなどによる雑な報道「ウクライナ正教会がロシア正教会から一方的に独立」などで、混乱している方も多いのですが、2018年10月12日時点で次のような状況です。

  • 東方正教会の教会法上合法な教会はロシア正教会モスクワ総主教庁管轄権下で高度な自治的権限を持つウクライナ正教会で、同教会はコンスタンティノープルの全地総主教庁に独立の承認を要求していませんでしたし、今もしていません
  • 独立正教会としての承認を要求していたのは、ウクライナ国内の教会法上合法でない教会(ウクライナの総主教と報道されているのはこっち)であり、コンスタンティノープルの全地総主教庁は、これらの教会に対して(今まではロシア正教会系のウクライナ正教会を認めていたのに)態度を変えて承認する方向に動いています。これに関してコンスタンティノープルの全地総主教庁は、ウクライナの管轄権を今まで手放したことはない(ので独立正教会を設置することに問題はない)、と主張しています。ロシア側は悪意のある歴史の書き換えだと主張。
  • 全地総主教庁の動きの原因にはウクライナのポロシェンコ政権や議会による訴えがありました(これについてはウクライナ憲法の政教分離原則に抵触しているという訴訟が提起されています)。またポロシェンコ大統領は「外国の宗教団体に自国の宗教団体が影響されることがあってはならない」という主旨のことを述べていますが、コンスタンティノープルの全地総主教庁はトルコ共和国の宗教団体です。いつからトルコはウクライナ領になったのですか?いやまあこれは意地悪ですので消しておきます。
  • アメリカのバイデン前副大統領などがウクライナの政権と独立正教会設置を支援しており、宗教の問題を装った西側諸国の政治的・侵略的活動の一環だとロシア政府はみています。したがってロシア政府はそのような行動に対する対応をとる可能性があります。なお、バイデン前副大統領の生きているほうの子息が、ウクライナの企業の幹部(取締役?)の席を提示されたという報道が数年前にありました。
  • 10月11日のコンスタンティノープル側の声明は、主にロシア正教会によって Anathema (簡単にいえば破門の重いほう)を受けていた教会法上合法でない人物への Amathema を撤回するということであり、独立承認に向けた継続する意思は示しているものの独立を承認したなどとは明言してはおらず「あなたたち要はなにをいってるの?」レベルの不鮮明さが含まれています。
  • 今後、ウクライナ政府は、ロシア正教会系のウクライナ正教会の教会財産の接収に動くことになります。すでに同教会へ攻撃を加えている、ナショナリスト、過激派らの行動がさらに過激さを増す可能性も極めて高い状況です。もはやウクライナはシリアより危険な場所になる可能性が出てきています
    • ウクライナへの渡航は自己責任で
    • ウクライナに関わらず、東方正教会関連の聖堂・修道院・歴史的な遺跡などに観光するのも自己責任で
  • なお、主にエストニアに不穏な状況が波及する可能性があります。エストニアでは1990年代に、今回のものより小規模ですが同様の争いがありました。2018年10月9日にロシア正教会系のエストニア正教会のトップがエストニア首相を訪問しています

 なお、そもそもの問題、「教会法上合法な教会」ですが、これは狭義では、「コンスタンティノープルの全地総主教庁及び、全地総主教庁に認められている13の独立正教会(それぞれの傘下の自治的権限を持つ教会を含む)」のことを指します。
 これだけ見ると、コンスタンティノープルの全地総主教庁がすべてを判断する場所のように思えますが、一方で、この地位は儀礼的なものであり、各独立正教会は同格、ともいわれます。
 問題が起きなければ別にどちらでもいいことなのですが、起きてみると、この二つは明らかに矛盾しています。

 また、「教会法上合法な教会」のみならず、それ以外の東方正教会系の「教会法上合法でない教会」を含めても、ロシア正教会の信徒が圧倒的に多いという現実があります(宗教人口の計測は難しいものですが、教会法上合法でない教会を含めても信徒数の半分以上がロシア国内のロシア正教会の信徒という結論が出せる調査もあります)。
 コンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会の間が完全に断絶した場合、コンスタンティノープルを正統とみると、信徒数が半分以下に減ります。それも、残りの全員がついている前提で、悪くすると、オリエント正教会系のエチオピア正教会単独より信徒数が少なくなる可能性もあります。
 そもそもトルコ当局はもとより「なにが『全地』だ! おまえは『イスタンブール総主教』だ!」と全地総主教の称号を認めていませんが、「全地」は無論のこと、コンスタンティノープルという名称自体を使用すること自体が敬意の表明でもあるので、今後のさらなる関係悪化にともない、ロシア正教会などが「イスタンブール総主教」「イスタンブール教会」などと呼称し始める可能性があります(トルコ当局の意見を尊重しただけですね)。

 

 ウクライナ・エストニアのほか、東方正教会内の「教会法上合法な教会」の間で以下のような管轄などに関する争いがあります。

 全地総主教庁とギリシャ正教会:
 ギリシャ国内にはコンスタンティノープルの全地総主教庁が管轄権を維持している地域が多数あり、それらはギリシャ正教会に「預けられている」ともいわれますが、実態としてコンスタンティノープルはギリシャ正教会側を尊重して動いておらず、ギリシャ正教会側の不満は高まっていることが報道からうかがわれます。

 エルサレム総主教庁とアンティオキア総主教庁:
 エルサレム側が一方的にカタールに大主教庁を設置したことにより、関係が断絶しています(当時、アンティオキアがエルサレムを“破門”と報道されました)。
 本来このような場合に調停をおこなうべき、コンスタンティノープルの全地総主教庁は、なにもできていません。
 そろそろ回復は無理だと判断され、シスマと呼ばれてもいいころ合いですが(もはや関係復帰がないと判断されるのがシスマ)、両教会ともロシア正教会との関係を重視しているためか、そうは呼ばれないことがほとんどです。とはいうものの、ロシア正教会にも調停は不可能でしょう。

 ロシア正教会とルーマニア正教会:
 モルドバ共和国に関する管轄権について、根本的には解決していないものの、当面のところ深刻な問題にはなっていません。
 今回の問題が飛び火する可能性も今のところないと思われます。

 マケドニア共和国(マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 : FYROM):
 「教会法上合法でない教会」である「マケドニア正教会-オフリド大主教庁」が存在し、セルビア正教会下にある(「教会法上合法な教会」である)「正教オフリド大主教庁」と対立しています。
 一方、ブルガリア正教会は、「マケドニア正教会-オフリド大主教庁」を「教会法上合法な教会」と位置付けようとしています。
 コンスタンティノープルの全地総主教庁は、「マケドニア」に関連する名称を一切認めないが、これを使わなければ受け入れる(=セルビア正教会との関係の断絶も辞さない)意思を示しているため、「名前を変える」「いや変えない」「今までの立場を捨ててセルビア正教会系に合流」とフェイクニュース(?)が相次いでいますが、最新の報道によれば名称を維持するつもりのようです。であれば、コンスタンティノープルの全地総主教庁の承認による「教会法上合法な教会」となることは難しいです。
 ブルガリア正教会が単独で独立正教会として承認したり、自らの管轄権下の自治正教会と認めることはできますが、その場合、コンスタンティノープルの全地総主教庁だけでなくセルビア正教会やロシア正教会を敵に回すことになり、マイナスが大きすぎるため、東方正教会の分裂が確定的にならない限り、そうはしないでしょう。

 アメリカ正教会【OCA】:
 ロシア正教会が独立正教会として認め、他の数教会が追随していますが、コンスタンティノープルの全地総主教庁は独立正教会として承認していません。
 一方、同教会の聖職者に関しては「教会法上合法」であるという前提で対応しているため、細かく位置付けるのは難しいですが、全地総主教庁にとっては独立正教会ではないが独立して意思決定をおこなっている合法集団とでもいうべきものになっています(ロシア正教会は、自らの組織に所属したことがある聖職者についてはロシア正教会の一員とすることもありますが、最初からアメリカ正教会のみ所属している、あるいはほかの教会からアメリカ正教会に合流した聖職者については、ロシア正教会とは【同じ一つの教えを報じているものの】直接関係ないという立場にみえます。したがってアメリカ正教会をロシア正教会の一部としてみるのは現在では困難です)。
 コンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会の間が断絶になると、この教会の位置付けは微妙になりますが、一方、全地総主教庁系のフィンランド正教会とアメリカ正教会の交流は親密である、というよくわからない状況もあります。

 

 その他、コミュニオンの関係により、「教会法上合法な教会」になりうる団体。

 モンテネグロ正教会:
 セルビア正教会から「独立」しましたが、セルビア正教会が承認しないのみならず、現在のトップであるモンテネグロ府主教ミハイロ座下がコンスタンティノープルの全地総主教庁から破門されているため、動きはほぼないでしょう。
 とはいえ、今回コンスタンティノープルの全地総主教庁が Anathema を解除したフィラレート聖下率いる「教会法上合法でない(とはもはや完全にはいえませんが)教会」キエフ総主教庁とモンテネグロ正教会はフル・コミュニオンの状態にあります。全地総主教庁はセルビア正教会と争うことをためらうつもりはなさそうなため、一夜で手のひら返しがあるかもしれません。
 また、モンテネグロ(国家)の西側接近により、ミハイロ座下が(教皇就任前の)ローマ教皇フランシスコ聖下と一回あったことがあるだけしか根拠はありませんが(根拠というほどでもないですが)、東方正教会を完全に見限り、ローマ教皇とフル・コミュニオンの関係に入る可能性も超ほんの少しだけあるのではないかと思います。

 アブハジア正教会:
 ジョージア【グルジア】がアブハジア自治共和国の実行統治を失ったため、“アブハジア共和国”内で独自に活動している正教会です。ジョージア正教会【グルジア正教会】はもちろん認めていません。
 ロシア正教会とジョージア正教会の関係が断絶した場合、ロシア正教会下で地位を認められる可能性があります。

 

 以上、いろいろ述べましたが、コンスタンティノープルの全地総主教庁の今回のおこない自体が「教会法上合法でない」と述べる各教会関係者もおり、「教会法上合法」「教会法上合法でない」というのは、もはや実効性が伴わない限りなんの意味もない屁理屈であるのが現実です。

 


 

 コンスタンティノープルの全地総主教庁が、ウクライナの管轄権を手放したことはないと発言したことにより、ロシア正教会モスクワ総主教庁との対立は引き返せないところまで来ました。

 西暦2018年、東方正教会は首位性を持っていたコンスタンティノープルの全地総主教庁と信徒数最大のロシア正教会の関係が破壊され、教会大分裂がおこりました

 今はまだ、多くの人々はそう認識していないというだけです。
追記:
 そろそろそう思い始めている人も多いでしょう。

 いくつかの独立正教会が求めている問題解決のための汎・東方正教会の会合を、「全地総主教庁はその予定はない」と教会法上合法でない教会の主教が回答するという有様です。東方正教会とは……、「一つの教えを奉じている」とは……、教会法とは……なんだったのか
 もはや教会法上合法な教会など存在せず、派閥が存在するだけなのでしょう。

 この後、どのような経緯をたどって、「東方正教会は分裂した」という事実が認識されていくのかはわかりませんが、東西教会大分裂の経緯が参考になるでしょう。