キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

 2023年8月13日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を行使する、
 ラトビア正教会の首座/リガ・全ラトビア府主教アレクサンドル座下(His Eminence Metropolitan Alexander【Aleksandr】 of Riga and All Latvia)、
 ダウガフピルス・レゼクネ主教アレクサンドル座下(His Grace Bishop Alexander【Aleksandr】 of Daugavpils and Rezekne)、
 イェルガヴァ主教イオアン座下(His Grace Bishop JohnIoann】 of Jelgava, vicar of the Riga diocese)、
 らは、あらたに同教会の主教として、ヴァルミエラ主教イオアン座下(His Grace Bishop JohnIoann】 of Valmiera, vicar of the Riga diocese)を叙聖したようです。

 ラトビア正教会は、ロシア正教会から独立したことになっています

関連:
 キリスト教/ラトビア正教会“独立”問題:ラトビア政府議会による“独立”強制について、ラトビア正教会は(ロシア正教会から分離しての)教会分裂には陥っていないとのロシア正教会側の文書(2022年9月~10月)

 ロシア正教会の聖シノドはこれに反発していますが、いずれにせよ、処分は(あるとしても)世界情勢が落ち着かない限りないでしょう。

 

 (ロシア語:ラトビア正教会 公式サイト)Торжество Латвийской Православной Церкви | Официальный сайт Латвийской Православной Церкви
 (ロシア語:ラトビア正教会 公式サイト)Слово Высокопреосвященнейшего Митрополита Александра при вручении архиерейского жезла Преосвященнейшему Иоанну, Епископу Валмиерскому | Официальный сайт Латвийской Православной Церкви

 (英語)Latvian Church celebrates episcopal consecration in Riga for first time in 80 years / OrthoChristian.Com
 (英語)Russian Synod condemns actions of Metropolitan of Latvia / OrthoChristian.Com

キリスト教/ラトビア正教会“独立”問題:ラトビア政府議会による“独立”強制について、ラトビア正教会は(ロシア正教会から分離しての)教会分裂には陥っていないとのロシア正教会側の文書(2022年9月~10月)

 2022年9月5日、ラトビア共和国大統領エギルス・レヴィッツ閣下(His Excellency Egils Levits)は、ラトビア正教会の“独立”のための法改正を議会に求めました。
 この問題は、キリスト教の東方正教会の中で、ラトビア正教会は、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を持っている教会であることが問題視されていることによります。
 つまり(政治的な文脈で言えば)大統領は、教会経由でのロシアの影響があるとの判断で、その影響を排除したい、ということです。

 

05.09.2022. Valsts prezidents paraksta grozījumus Latvijas Pareizticīgās Baznīcas likumā – YouTube

 

 (英語:ラトビア大統領府 公式サイト)Announcement by President of Latvia Egils Levits on Amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church | Valsts prezidenta kanceleja

These amendments provide for the full recognition of the self-contained and independent (autocephalous) status of the Latvian Orthodox Church.

This is the status that was historically de facto established for our orthodox church by the 6(19) July 1921 Tomos issued by Patriarch of Moscow and all Russia Tikhon to Archbishop Jānis Pommers and the Cabinet of Ministers Regulation of 8 October 1926 on the Status of the Orthodox Church.

I can confirm that the Latvian Orthodox Church and Metropolitan Alexander can count on full support from the state of Latvia as an autocephalous church henceforth also recognised in law.

 

 大統領府 公式サイトによりますと、同大統領は、ラトビア正教会に、独立= independent (独立正教会= autocephalous )を求めています。
 またその根拠の一つを、1921年にロシア正教会の(聖)ティーホン総主教からヤーニス大主教に渡されたトモス(何かを許可する文書だと思ってください)に由来するとしています。

 

 ここで疑問が浮かびます。
 東方正教会の独立正教会= autocephalous についてです。
 これは現在、コンスタンティノープルおよびギリシャ系の諸教会は承認についてはコンスタンティノープルに全権があるかのように主張している状況です。
 一方で他の教会の多くはそれぞれの独立正教会が承認するものである、とみていると大雑把に言えばそうなります。
 いずれにせよ、ロシア正教会の一部にすぎないラトビア正教会について、国が認めたら独立正教会になるというのはムチャですが、現在のロシア・ウクライナの状況でその判断がムチャクチャといえるかは結果次第でしょう。
 この結果次第というのは、前述のコンスタンティノープルとポロシェンコ元大統領が2018年にウクライナで強引なことをやらかした結果、ウクライナの正教会は混乱の極みにあるからです。
 ラトビア政府がコンスタンティノープルとこの後からむかどうかはわかりませんが、上記リンクのアナウンスからは特に読み取れません。
 コンスタンティノープルと関わると混乱が増すだけのような気もしますが、今のままでは正統性がないことはラトビア側もわかっているでしょう。大統領府の文章でも de facto の単語を使用していることからもわかるように、1921年のトモスは決して独立を認めたものではないということです(そもそも1921年のトモス自体になにが書かれていたかはっきりわかりませんが……)。

 

 続いて、
 (英語:ラトビア議会【サエイマ】公式サイト)Saeima affirms independence of Latvian Orthodox Church from any ecclesiastical authority outside Latvia – Latvijas Republikas Saeima

On Thursday, 8 September, the Saeima adopted urgent amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church affirming the full independence of the Latvian Orthodox Church with all its dioceses, parishes, and institutions from any church authority outside Latvia (autocephalous church).

According to the explanatory note to the Draft Law, the definition of the scope of legal status in the Law does not affect or interfere with the Church’s doctrine of faith and canon law.

 レヴィッツ大統領が議会に送ったラトビア正教会の“独立”のための法改正案をラトビア議会【サエイマ】は承認しました。
 上記の文章からわかる通り、彼らはこの法が、教義や信仰・教会法に影響や介入するものではないとしています。
 が、その教会が独立正教会 = autocephalous church かどうかというのは、まさに教会法に属する事柄です。
 ロシア正教会モスクワ総主教庁は、ラトビアのこの対応を中世以下と酷評しています。

 (英語)Interfax-Religion: Russian Orthodox Church on declaration of Latvian Church’s autocephaly by parliament: they surpassed Middle Ages

 ドイツの16世紀より悪い、という意です。
 もっとも16世紀のドイツを持ち出すのが良い反論とは感じませんが。

 

 さらに、
 (ロシア語:ラトビア正教会 公式サイト)Официальный сайт Латвийской Православной Церкви | О изменениях в Законе о Латвийской Православной Церкви

 上記を受けて(当初は)否定的な見解を出していたラトビア正教会は法律に従い独立正教会 = autocephalous church となる/を称することを受け入れたようです。

 もちろんのこと、東方正教会の他の独立正教会がどこも認めない限りは、独立正教会として他の教会から扱われることはありませんが……。

 

 さて、その後、具体的にどうなっていたかですが、
 (英語)ROC to Latvians: Patriarch Kirill still commemorated, state-declared autocephaly is purely legal, not canonical / OrthoChristian.Com

 上記の報道によれば、ロシア正教会のクルチツィ・コロムナ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan Pavel of Krutitsa and Kolomna)が、ラトビア正教会は、ロシア正教会の首座/モスクワ総主教キリル聖下を自分たちの教会の首座として名を挙げて礼拝をおこなっており、教会分裂の状態にはないとの文書をラトビアの信徒らに対して出した、ということです。
 これはつまり、ラトビア政府議会がいう独立正教会という単語は、教会法上の独立正教会とはなんの関係もないので気にせずに活動がおこなわれている、といっていいのかもしれません。
 もちろん、議会自体が「教会法には影響しない」といっているので、同じ単語を使っていても教会法には関係ないということになるともいえます。
 しかしこれでは、ラトビア政府議会のおこなったことは、何の意味もなかったということになります。
 大統領がキリル総主教にあらためて独立正教会の承認を求めているという話もありますが、たしかにこれでは他に手はないといえるかもしれません。

追記:
 10月31日までにラトビア正教会の憲章の改定が要求されており、その内容次第になるとは思われます。

 

続報:
 キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

キリスト教/ラトビア正教会の首座/リガ・全ラトビア府主教アレクサンドル座下が、ラトビア大統領エギルス・レヴィッツ閣下と会見(2019年9月)今年大統領に就任してから初めての訪問

 2019年9月5日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を行使するラトビア正教会の首座/リガ・全ラトビア府主教アレクサンドル座下(His Eminence Metropolitan Alexander【Aleksandr】 of Riga and All Latvia)らが、今年就任したラトビア共和国大統領エギルス・レヴィッツ閣下(His Excellency Egils Levits)と会見しました。
 ラトビア正教会側から、
 ダウガフピルス・レゼクネ主教アレクサンドル座下(His Grace Bishop Alexander【Aleksandr】 of Daugavpils and Rezekne)
 イェルガヴァ主教イオアン座下(His Grace Bishop Ioann of Jelgava, vicar of the Riga diocese)、
 らが同席。

 

Valsts prezidents(ラトビア大統領府公式サイト):
Valsts prezidenta Egila Levita tikšanās ar Rīgas un visas Latvijas Metropolītu Aleksandru – YouTube

 

 (ロシア語:ラトビア正教会公式サイト)Официальный сайт Латвийской Православной Церкви

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)Состоялась встреча митрополита Рижского Александра с Президентом Латвийской Республики Эгилсом Левитсом / Новости / Патриархия.ru

 

Valsts prezidentsさんはTwitterを使っています: 「📸FOTO: Valsts prezidents Egils Levits @valstsgriba tiekas ar Visaugstisvētīto Rīgas un visas Latvijas Metropolītu Aleksandru: https://t.co/JZOk5hMYSw https://t.co/3XVi8nm5Sa」 / Twitter

 

シスマ2018:キリスト教/ロシア正教会広報:「ロシア正教会の信徒はもはやアトス山では機密を受けられない」(2018年10月)コンスタンティノープルの全地総主教庁管轄下のため

2018年~ ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立関連の記事一覧

 

 2018年10月16日の、ロシア正教会聖シノドによるコンスタンティノープルの全地総主教庁とのユーカリスティック・コミュニオンの解除に伴い、全地総主教庁の管轄権下にある聖地アトス山(ギリシャ共和国内自治領域)では、ロシア正教会の信徒は機密を受けられないという主旨の記事(?)のようです。

 

 (英語)TASS: Society & Culture – Russian Orthodox Church believers not to be allowed to worship on Mount Athos

 

 一般の信徒がアトス山がコンスタンティノープルの管轄下であることを知らないだろうということで出されたのか、なんなのかはよくわかりませんが、ギリシャへの旅行はお勧めしないということなんでしょうか?

※なお、アトス山は男しか入れません(動物の雌でもダメなケースがあるはずです)。

 ともあれ、ここでロシア正教会というのは、もちろんロシア正教会モスクワ総主教庁管轄下で自治的権限を保有する教会などを含みますので、
 ウクライナ正教会、
 ベラルーシ正教会(全ベラルーシ総主教代理区)、
 モルドバ正教会、
 エストニア正教会モスクワ総主教庁系、
 ラトビア正教会、
 日本正教会【日本ハリストス正教会】、
 在外ロシア正教会、
 の信徒らも同じ扱いになるでしょう(教会がモスクワ総主教庁とのコミュニオンを離脱して全地総主教庁とのコミュニオンに入れば別ですが)。

 

追記:
 もう一つ記事が出ました。

 (英語)TASS: Society & Culture – Russian Orthodox believers not barred from venerating Christian shrines on Mount Athos

 アトス山で不朽体やイコンを崇敬するのは構わないけど、機密はダメだよ、ということでしょうか。

 

シスマ2018:キリスト教/コンスタンティノープルの全地総主教庁が、ロシア正教会による“キエフ総主教フィラレート聖下”及び“ウクライナ独立正教会首座マカリー座下”への Anathema(簡単にいうと破門の重いほう)撤回を正式発表(2018年10月)モスクワ総主教庁「コンスタンティノープルはレッドラインを超えた」10月15日の聖シノドで対応を決定。コンスタンティノープルを破門する可能性も

【シスマ2018】東方正教会大分裂: ウクライナへの独立正教会設置を巡るコンスタンティノープルの全地総主教庁とロシア正教会モスクワ総主教庁の対立とそれに端を発した出来事及びその他のシスマ的な出来事の記事一覧

 

 すでに先行してギリシャの正教会系メディアが報道していましたが、正式発表です。

 2018年10月11日、キリスト教/東方正教会/コンスタンティノープルの全地総主教庁聖シノドは、ロシア正教会によっておこなわれた教会法上合法でない“キエフ総主教フィラレート聖下”及び“ウクライナ独立正教会首座マカリー座下”への Anathema(簡単にいうと破門の重いほう)を撤回することを決定。
 フランス府主教エマニュエル座下(His Eminence Metropolitan Emmanuel of France)、
 「キエフにおける総主教代理」アメリカ合衆国ウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church of the USA)のパンフィロン大主教ダニエル座下(His Eminence Archbishop Daniel, Archbishop of Pamphilon)、
 「キエフにおける総主教代理」カナダ・ウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church of Canada)のエドモントン・西部教区主教イラリオン座下(His Grace, the Right Reverend Bishop Ilarion, Bishop of Edmonton and the Western Eparchy)、
 らが発表。

 

 (英語:コンスタンティノープルの全地総主教庁公式サイト)Announcement (11/10/2018). – Announcements – The Ecumenical Patriarchate

 

Ecumenical Patriarchateさんがライブ動画を作成しました。 – Ecumenical Patriarchate

 

 ロシア正教会モスクワ総主教庁側は、2018年10月15日に、ベラルーシのミンスクで聖シノドを開催、ウクライナ正教会(モスクワ総主教庁系)関係者は、(興奮しているのかもしれませんが) キリスト教/東方正教会首席/コンスタンティノープル=新ローマ大主教・全地総主教バルソロメオス聖下(バーソロミュー1世世界総主教バルトロマイ1世ヴァルソロメオス1世 : His All-Holiness Bartholomew, Archbishop of Constantinople-New Rome and Ecumenical Patriarch)への Anathema もありうるとしているとのこと。

 

 (英語)TASS: Society & Culture – Ecumenical Patriarchate lifts anathema against leaders of two Ukrainian churches
 (英語)TASS: Society & Culture – Constantinople cancels 1686 decision on Kiev Metropolia
 (英語)TASS: Society & Culture – Moscow patriarch comments on decision to lift anathema against Ukrainian church leaders
 (英語)TASS: Society & Culture – Russian Orthodox Church’s Holy Synod to assess Constantinople moves on October 15
 (英語)TASS: Society & Culture – Patriarch Bartholomew must be anathematized — Ukrainian Orthodox Church
 (英語)TASS: Society & Culture – Russian Orthodox Church official vows ‘firm and tough’ response to Constantinople’s move

 (ロシア語:ロシア正教会モスクワ総主教庁公式サイト)В.Р. Легойда: Константинопольским Патриархатом совершено беспрецедентное антиканоническое действие / Новости / Патриархия.ru

 (セルビア語:セルビア正教会モンテネグロ・プリモルスカ府主教庁公式サイト)Цариград почео процес признавања аутокефалности УПЦ, из Московске патријаршије кажу да је то легализација раскола | Православна Митрополија црногорско-приморска (Званични сајт)