キリスト教/ラトビア正教会の代表団が、モスクワ総主教庁より聖油を受け取る(2023年10月)

 2023年10月5日~10月7日、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を行使するラトビア正教会(ただし国内の政治の要求により独立正教会であることを宣言)の代表団が、ロシア連邦のモスクワを訪問したようです。

 一行は、ロシア正教会の高位の聖職者のうち、
 クルチツィ・コロムナ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan Pavel of Krutitsa and Kolomna)、
 ヴォスクレセンスク府主教ディオニシー座下(His Eminence Metropolitan DionysiusDionisiy】 of Voskresensk)、
 モスクワ総主教庁渉外局長ヴォロコラムスク府主教アントニー座下(His Eminence Metropolitan Anthony of Volokolamsk, Chairman of the Department for External Church Relations of the Moscow Patriarchate)、
 らと会談したようです。

 

 (ロシア語:ラトビア正教会 公式ウェブサイト)Встреча в Отделе внешних церковных связей. | Официальный сайт Латвийской Православной Церкви

 

 また、モスクワ総主教庁より聖油を受け取っていることが、最後のパラグラフにさりげなく書かれています。

 この辺りの理屈がまったくわからないと、訪問して何か受け取って帰った、というだけのことになりますが。

 

 (英語)Latvian Church receives Chrism from Moscow just months after consecrating bishop without Moscow’s blessing / OrthoChristian.Com

 

 上記の記事にあるように、この聖油を受け取るという行為は、自らが渡す相手の教会の一部であることを示す、というのがロシア正教会の見解です。
 一方、これもまた上記の記事にあるように、コンスタンティノープルは他の独立正教会にも渡しています(コンスタンティノープルにとって他の独立正教会というのがどういうものなのかもうわからなくなっていますが、それはともかく)。

 ラトビア正教会は、ロシア正教会から許可を得ずに主教の叙聖をおこないました。

関連:
 キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

 この件に関する審議がおこなわれますが……。

 仮に主教叙聖が後付けで承認されるとなると、聖油を受け取っていることを含め、ロシア正教会側から見てラトビア正教会は変わらずロシア正教会の一部であり、問題はあったが後から(ある程度は)修復されているし、残りも後からどうにでもなるということになるのではないでしょうか。

 ラトビア正教会側がどう考えているかはわかりませんが、ラトビアの政治家の目を欺いて教会独立偽装をおこなっておりロシア正教会から独立するつもりはさらさらないか、あるいは情勢がどうなってもいいようにできるだけ綱渡りをしているのか。

キリスト教/コプト正教会首座/アレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下が、ロシア正教会ブダペスト・ハンガリー府主教イラリオン座下を訪問(2023年8月)

 2023年8月19日、キリスト教/オリエント正教会/コプト正教会の首座/アレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下(His Holiness Pope Tawadros II of Alexandria)は、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会/ブダペスト・ハンガリー府主教イラリオン座下(His Eminence Metropolitan Hilarion of Budapest and Hungary)を訪問しました。

 

 (英語:ロシア正教会 モスクワ総主教庁 渉外局 公式サイト)Metropolitan Hilarion of Budapest meets with Primate of the Coptic Church / News / Patriarchate.ru

 (マジャール語【ハンガリー語】:ロシア正教会 モスクワ総主教庁 ハンガリー教区 公式サイト)Hilarion budapesti metropolita találkozott a kopt egyház elöljárójával | Magyar Ortodox Egyházmegye

キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下が、ロシア正教会ブダペスト・ハンガリー府主教イラリオン座下と会談(2023年4月)

 2023年4月29日、キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下(His Holiness Pope Francis)は、司牧訪問中のハンガリーにあるローマ教皇大使館で、キリスト教/東方正教会/ロシア正教会/ブダペスト・ハンガリー府主教イラリオン座下(His Eminence Metropolitan Hilarion of Budapest and Hungary)と会談しました。

 カトリック教会側から、ハンガリー駐箚ローマ教皇大使マイケル・ウォレス・バナック大司教座下(メンフィス名義大司教 : Michael Wallace Banach, Apostolic Nuncio to Hungary, Titular Archbishop of Memphis)が同席。

 

 (英語:ロシア正教会 モスクワ総主教庁 渉外局 公式サイト)Metropolitan Hilarion of Budapest and Hungary held a meeting with Pope Francis of Rome

 (マジャール語【ハンガリー語】:ロシア正教会 モスクワ総主教庁 ハンガリー教区 公式サイト)Ferenc római pápa magyarországi látogatása alkalmával találkozott Hilarion budapesti és magyarországi metropolitával | Magyar Ortodox Egyházmegye

 

追記:
 ハンガリーからの帰りの飛行機での記者会見で、フランシスコ教皇はイラリオン府主教との会談やロシア正教会との関係について質問され、回答していたようです。

 記事下部のパラグラフ/
 (ローマ教皇庁 キリスト教一致推進協議会 公式サイト)2023 05 04 Pope Francis meets with Metropolitan Anthony of Volokolamsk

関連:
 キリスト教/ローマ教皇フランシスコ聖下が、ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教アントニー座下と会見(2023年5月)

キリスト教/ラトビア正教会“独立”問題:ラトビア政府議会による“独立”強制について、ラトビア正教会は(ロシア正教会から分離しての)教会分裂には陥っていないとのロシア正教会側の文書(2022年9月~10月)

 2022年9月5日、ラトビア共和国大統領エギルス・レヴィッツ閣下(His Excellency Egils Levits)は、ラトビア正教会の“独立”のための法改正を議会に求めました。
 この問題は、キリスト教の東方正教会の中で、ラトビア正教会は、ロシア正教会モスクワ総主教庁の管轄権下で自治的な権限を持っている教会であることが問題視されていることによります。
 つまり(政治的な文脈で言えば)大統領は、教会経由でのロシアの影響があるとの判断で、その影響を排除したい、ということです。

 

05.09.2022. Valsts prezidents paraksta grozījumus Latvijas Pareizticīgās Baznīcas likumā – YouTube

 

 (英語:ラトビア大統領府 公式サイト)Announcement by President of Latvia Egils Levits on Amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church | Valsts prezidenta kanceleja

These amendments provide for the full recognition of the self-contained and independent (autocephalous) status of the Latvian Orthodox Church.

This is the status that was historically de facto established for our orthodox church by the 6(19) July 1921 Tomos issued by Patriarch of Moscow and all Russia Tikhon to Archbishop Jānis Pommers and the Cabinet of Ministers Regulation of 8 October 1926 on the Status of the Orthodox Church.

I can confirm that the Latvian Orthodox Church and Metropolitan Alexander can count on full support from the state of Latvia as an autocephalous church henceforth also recognised in law.

 

 大統領府 公式サイトによりますと、同大統領は、ラトビア正教会に、独立= independent (独立正教会= autocephalous )を求めています。
 またその根拠の一つを、1921年にロシア正教会の(聖)ティーホン総主教からヤーニス大主教に渡されたトモス(何かを許可する文書だと思ってください)に由来するとしています。

 

 ここで疑問が浮かびます。
 東方正教会の独立正教会= autocephalous についてです。
 これは現在、コンスタンティノープルおよびギリシャ系の諸教会は承認についてはコンスタンティノープルに全権があるかのように主張している状況です。
 一方で他の教会の多くはそれぞれの独立正教会が承認するものである、とみていると大雑把に言えばそうなります。
 いずれにせよ、ロシア正教会の一部にすぎないラトビア正教会について、国が認めたら独立正教会になるというのはムチャですが、現在のロシア・ウクライナの状況でその判断がムチャクチャといえるかは結果次第でしょう。
 この結果次第というのは、前述のコンスタンティノープルとポロシェンコ元大統領が2018年にウクライナで強引なことをやらかした結果、ウクライナの正教会は混乱の極みにあるからです。
 ラトビア政府がコンスタンティノープルとこの後からむかどうかはわかりませんが、上記リンクのアナウンスからは特に読み取れません。
 コンスタンティノープルと関わると混乱が増すだけのような気もしますが、今のままでは正統性がないことはラトビア側もわかっているでしょう。大統領府の文章でも de facto の単語を使用していることからもわかるように、1921年のトモスは決して独立を認めたものではないということです(そもそも1921年のトモス自体になにが書かれていたかはっきりわかりませんが……)。

 

 続いて、
 (英語:ラトビア議会【サエイマ】公式サイト)Saeima affirms independence of Latvian Orthodox Church from any ecclesiastical authority outside Latvia – Latvijas Republikas Saeima

On Thursday, 8 September, the Saeima adopted urgent amendments to the Law on the Latvian Orthodox Church affirming the full independence of the Latvian Orthodox Church with all its dioceses, parishes, and institutions from any church authority outside Latvia (autocephalous church).

According to the explanatory note to the Draft Law, the definition of the scope of legal status in the Law does not affect or interfere with the Church’s doctrine of faith and canon law.

 レヴィッツ大統領が議会に送ったラトビア正教会の“独立”のための法改正案をラトビア議会【サエイマ】は承認しました。
 上記の文章からわかる通り、彼らはこの法が、教義や信仰・教会法に影響や介入するものではないとしています。
 が、その教会が独立正教会 = autocephalous church かどうかというのは、まさに教会法に属する事柄です。
 ロシア正教会モスクワ総主教庁は、ラトビアのこの対応を中世以下と酷評しています。

 (英語)Interfax-Religion: Russian Orthodox Church on declaration of Latvian Church’s autocephaly by parliament: they surpassed Middle Ages

 ドイツの16世紀より悪い、という意です。
 もっとも16世紀のドイツを持ち出すのが良い反論とは感じませんが。

 

 さらに、
 (ロシア語:ラトビア正教会 公式サイト)Официальный сайт Латвийской Православной Церкви | О изменениях в Законе о Латвийской Православной Церкви

 上記を受けて(当初は)否定的な見解を出していたラトビア正教会は法律に従い独立正教会 = autocephalous church となる/を称することを受け入れたようです。

 もちろんのこと、東方正教会の他の独立正教会がどこも認めない限りは、独立正教会として他の教会から扱われることはありませんが……。

 

 さて、その後、具体的にどうなっていたかですが、
 (英語)ROC to Latvians: Patriarch Kirill still commemorated, state-declared autocephaly is purely legal, not canonical / OrthoChristian.Com

 上記の報道によれば、ロシア正教会のクルチツィ・コロムナ府主教パーヴェル座下(His Eminence Metropolitan Pavel of Krutitsa and Kolomna)が、ラトビア正教会は、ロシア正教会の首座/モスクワ総主教キリル聖下を自分たちの教会の首座として名を挙げて礼拝をおこなっており、教会分裂の状態にはないとの文書をラトビアの信徒らに対して出した、ということです。
 これはつまり、ラトビア政府議会がいう独立正教会という単語は、教会法上の独立正教会とはなんの関係もないので気にせずに活動がおこなわれている、といっていいのかもしれません。
 もちろん、議会自体が「教会法には影響しない」といっているので、同じ単語を使っていても教会法には関係ないということになるともいえます。
 しかしこれでは、ラトビア政府議会のおこなったことは、何の意味もなかったということになります。
 大統領がキリル総主教にあらためて独立正教会の承認を求めているという話もありますが、たしかにこれでは他に手はないといえるかもしれません。

追記:
 10月31日までにラトビア正教会の憲章の改定が要求されており、その内容次第になるとは思われます。

 

続報:
 キリスト教/ロシア正教会から、分離して独立正教会であることを宣言したラトビア正教会が独自に主教を叙聖(2023年8月)ロシア正教会の聖シノドは反発

キリスト教/“ウクライナ正教会”の現状と、NHKが“ウクライナ正教会大主教”と呼ぶ人物が実はほとんどの教会に認められていないことについて(2022年9月)

注記2:
 キリスト教/東方正教会コンスタンティノープルの司祭が「バルソロメオス総主教のウクライナにおける行動は誤り」(2023年10月)

 

注記:
 ある Twitter(ツイッター) ユーザがこのページにリンクして、「コンスタンティノープルが認めたから正統性がある」と発言したり、プロフィールで「ウクライナ正教会信徒」を自称(詐称したり、「モスクワの信者は怖いね」とか言ったりしているそうです。
 信徒を詐称するのは宗教へのヘイト行為ですし、コンスタンティノープルは NHK などがいう“ウクライナ正教会”(OCU)にウクライナ国外での活動を認めていませんので、日本国内で「ウクライナ正教会信徒」などというのはコンスタンティノープルが認めていることに反しているか、あるいは別集団です。なんで「コンスタンティノープルが認めたから正統性がある」とかいってるのか、よくわからないですね。コンスタンティノープルが何を認めたか何一つ知らないでしょうが、あなたの行為をコンスタンティノープルは認めていません
 なにひとつ調べずに、不特定多数が見ることが可能な場所で、特定の宗教の信徒を詐称する時点で………(伏字)のような気がしますので、こちらこそ怖いのですが、「ネットの闇」のような人物に支持されて、コンスタンティノープルと OCU も大変ですね(ひどい結末になるでしょう)。

 

Q:
 コンスタンティノープルが認めたら正統性がありますか?
A:
 伝統的なキリスト教の教会では、神学と教会法により、何が可能かは決まっています。
 コンスタンティノープルを旧統一教会の教祖のようなものと勘違いしているのか、コンスタンティノープルが自由にすべてを決められると思っている人がいますが、そんなことはありません。
 カトリックでも、ローマ教皇が何もかも自由に決められるわけではありませんし(だから中国当局と妥協します)、コンスタンティノープルにはローマのような権限はありません(ないというのがこれまでの話でしたが、急にあると言い出しました。ですが、ローマと同じ権限があるとしても、なんでも自由にできるわけではありません)。
 コンスタンティノープルはこれを雑に無視して行動したので、東方正教会の多数派からその行動は支持されていない状況です。

Q:
  NHK の報道に出てきた“エフストラティ大主教”は聖職者ですか?
A:
 コンスタンティノープルは神品(聖職者)として認めていませんでした。
 現在、聖職者であるとする理屈を苦心してひねりだそうとしていますが、数年たっているのに、まったくうまくいっていません
 主教である条件の根本に使徒継承(apostolic succession)というのものがあり、それを満たしていないので、どうにもなりません。
 過去や事実を捏造しまくれば説明できますが、どれほど広範囲に捏造する必要があるか見当もつきません。

Q:
 “エフストラティ大主教”による洗礼は有効ですか?
A:
 無効ですし、それがおこなわれた時にコンスタンティノープルに聞けば無効だと答えたでしょう。
 今も、コンスタンティノープルは有効だとしていませんし、前提となる“エフストラティ大主教”を聖職者だとする理屈も組み立てることができていません
 この状況では、無効としかいいようがない
 これで有効なら、教会は必要ない
 キリスト教はこの世に必要ないと思っている人が「コンスタンティノープルが認めたから正統性がある」とか恥知らずにもコメントし、信徒を自称(詐称)しているので、あきれています。

Q:
 “エフストラティ大主教”による“洗礼”を無効だとすると、“洗礼”を受けた人たちが怒るのではないですか?
A:
 誰かが怒っているからその宗教的な主張は絶対に正しい・正しくするべきだ、というのはムチャクチャなお話です。だいたい宗教分裂が起こるときは双方に怒っている人はいるわけで、こんな雑な理屈を展開する人物だから、信徒を詐称するヘイト行為をおこなうんだろうなと思うしか。
 その“洗礼”を有効としたいならば、一番厳密に言えば、それがおこなわれた時点で“エフストラティ大主教”が教会法上合法な主教でなければなりません。そのための方法は、歴史的な事実を捻じ曲げることです。それで納得できるならどうぞ、としか。
 もう一つはコンスタンティノープルが皆(東方正教会の)が納得する新たな神学理論を展開することですが、(予想通りですが)数年たってお粗末なものしか出てこず、どうにもならないでしょう。

Q:
 コンスタンティノープルの行動を認めないのは「モスクワの信者」ではないのでしょうか?
A:
 上記のようにコンスタンティノープルはルールを完全に無視しています。よって東方正教会の多数派からは認められていません。
 自分たちの行動について説明をまるでせず、批判されれば「ロシア人も雑なことをやった」で済まそうとするのは、ロシア人が悪いと主張すれば何もかも正統化できると思っているかのように見えます。その行動を支持する人の主張もまた、同じような方向を向いているのは興味深いところですが。
 「ロシア人が悪ければ神学や教会法や歴史的事実をいくらでも捻じ曲げてもいい」というのは、なんというか、キリスト教ではないような気がしますけどね。
 そもそも東方正教会は一つの教えを奉じている(ことになっている)わけであって、モスクワの信者=東方正教会の信者=コンスタンティノープルの信者になります。「モスクワの信者」というのが批判か何かだというなら、コンスタンティノープルにモスクワと縁を切るように要求してみたらいい。モスクワ側からはすでに縁を切っています。コンスタンティノープル側からは縁を切れないのです。コンスタンティノープルの主張する信徒数が一気に半分になっちゃいますからね。逆にいうとプーチン大統領はコンスタンティノープルが正統性を認めた、コンスタンティノープルの信者(信徒)のままです(コンスタンティノープル側からは)。

 


以下、過去の記事。
※いくつかの雑多な記事からひっぱてきているので、長いし読むには適しません。
 ↑で言いたいことは全部書いているので、読む必要はありません。


 

 カトリックでは、神学と教会法により、ローマ教皇にも不可能なことがあります。後付けでなんとかなる、というのは歴史の修正主義みたいなものです。
 東方正教会では、コンスタンティノープルとか一般的にいわれているトルコ共和国の少数派宗教団体(ギリシャ系トルコ人だけしかトップになれない閉鎖的な集団)にはそもそもローマ教皇に及ぶような権限がもともとありませんが、今回、彼らは自分たちは何をやってもよいとか唐突に言い出しました。神学と教会法を無視したため、これはギリシャ系トルコ人は絶対に偉い・何をしてもいいんだと言っている新興宗教のようなもの。しかも、トルコ国内の団体のため、実は彼らはエルドアン大統領が強引にやればなんでも従うしかない程度の存在です。なんだ、コンスタンティノープルというのはエルドアン大統領真理教なのか、と思ってもらってもいいくらい。

 ギリシャ共和国は憲法によってファナル(コンスタンティノープルのこと)とコミュニオンにある教会を国教のような扱いとしている為、その政治家は隣国トルコの宗教団体の影響から逃れられません。隣国の新興宗教によって政治家がどうこう、というのは最近聞いたような気がしますね。そう、旧統一教会です。「(神学と教会法を無視しても)コンスタンティノープルが認めたから正統性がある」というのは、「旧統一教会のまことのお母さまが認めたから正統性がある」というのと変わりません(旧統一教会は興味ないので良く知りませんけど)。 Mother Church という言葉を見るたびに、「まことのお母さまの教会」と訳したくなります。これは旧統一教会のせいではなく、ルールを無視したファナルが旧統一教会と同レベルに見えるせいですが。
 話がずれましたが、ファナルの行動に問題があると思わない人が多いから旧統一教会の規制が難しいというのははっきりと感じます。これは日本だけでなく世界中でそうですが。というかまあ無理なんだろうなと思います。信教の自由というのは、旧統一教会の自由であり、ファナルがいきなり適当な発言や行動をしだす自由だということなんでしょう。

 伝統的なキリスト教の教会は使徒継承(apostolic succession)というのを重視します。
 これは使徒からの叙階・叙聖が連綿と続いているという考えで、これが成立していなければ聖職者などなく(他の信者と違いがないので、彼らだけが可能なことがありえない)、従ってローマ教皇が偉いとか、ファナルが認めたとかは成立しません。使徒継承がないなら、他の人間が認めても一緒旧統一教会が認めても一緒。
 ファナルは、ウクライナにオーソドックス・チャーチ・オブ・ユクレイン【OCU】(“ウクライナ正教会”とか報道されていますが、すでに別組織で、2018年までファナルも認めていた集団があります)という、使徒継承が成立していない人物をトップに据えた集団を独立正教会と認めました
 使徒継承が成立していない人物を聖職者と認めるのはファナルには不可能です。したくても不可能だというのがルールです。ルールを無視していいなら、キリスト教系インチキ宗教です。もちろん、しっかり考えて変更してプロテスタントになるならインチキ宗教ではありませんが、ギリシャ系の人種がいうのは「コンスタンティノープルを失ったら、適当に寄り集まっているだけのルター派と同レベルになってしまう!」(=ファナルがどんなルール違反をしてもついていかなければならない)という、ひどすぎる思想
 ファナルが、使徒継承が成立していない人物を今から聖職者にするのは可能ですが、過去からすでに聖職者だったとできるというのは歴史の修正主義です。根拠とする事実がまったくないので。あるいは過去改変能力でもあるのでしょうか? 「(神学と教会法を無視しても)コンスタンティノープルが認めたから正統性がある」というのは、歴史修正主義を支持しているか過去改変能力があると信じているかという話で、この人たち( NHK を含む)の頭は大丈夫かと思われます。いや、単に宗教というのは教祖さまが自由になんでもできるもの、教祖さまに逆らうなバーカと思っているのでしょう。したがって教祖さまのために献金しろ、当然のことだバーカということになるわけで、なんだ、あなたたち( NHK を含む)は旧統一教会を支持してるのか結局。旧統一教会に入信したらいいじゃないか。

 


 以下、過去の記事。

 

  NHK がいう「ウクライナ正教会」、すなわちコンスタンティノープルが2019年に一方的に独立正教会として承認した OCU (Orthodox Church of UKraine)は、現時点(2022年10月31日時点)で
 コンスタンティノープル
 アレクサンドリア総主教庁
 ギリシャ正教会
 キプロス正教会
という、コンスタンティノープルに逆らえない教会(逆らえなかった教会)からしか承認を受けておらず、承認していないのは、
 ロシア正教会の他、
 アンティオキア総主教庁、
 エルサレム総主教庁、
 ジョージア正教会【グルジア正教会】、
 ルーマニア正教会、
 セルビア正教会、
 ブルガリア正教会、
 ポーランド正教会、
 チェコ・スロバキア正教会、
 アルバニア正教会、
 (マケドニア正教会-オフリド大主教庁、)
 (アメリカ正教会)
 の11(or13)の独立正教会教会(=多数派)となっています。

 ロシア正教会だけでも東方正教会の信徒数の半分くらい
 コンスタンティノープルとそれに追随する教会群の信徒数は全体の一割くらい

 また、上記の11の独立正教会は OCU を独立正教会として認めていないのみならず、教会法上合法な教会としても認めていないため、これらの11教会にとって OCU の“聖職者”( NHK がウクライナ正教会大主教とした “エフストラティ大主教”や“司祭”らを含む)は聖職者の格好をしたただの平信徒にすぎません。あるいは東方正教会の信者ですらないとの判断すらあります
 共同で礼拝をおこなわないのみならず、エルサレム総主教などは一方的に訪問してきた彼らに会うことを拒否しています。好ましからざる人物あつかいということです(そもそも一方的に訪問してくる時点で失礼ですが)。

 この状況はウクライナ国内にも反映されています。
 もともとロシア正教会系の教会法上合法なウクライナ正教会【UOC = Ukrainian Orthodox Church、今年、状況により仕方なくモスクワからの“独立”を宣言】という別組織があるためです。
 そもそももともとコンスタンティノープルは UOC を正統だと認めていたんですが……唐突に言うことを変えて、コンスタンティノープルの言うことは絶対(=新興宗教の教祖が好き勝手いうようなもの)だと言い出して、反感を買って、上記の如くの有様。
 この UOC の主教らは現在でもコンスタンティノープルを含むすべての独立正教会から教会法上合法な聖職者と認められており、また、コンスタンティノープルを含む少数派以外からは、ウクライナの唯一の教会法上合法な教会と認められています(ただし、どちらについても、“独立”の宣言によりモスクワ総主教庁からの扱いがどうなっているかは当方は把握していません)。
 アンティオキア総主教は今年に UOC の首座オヌフリー府主教座下へ支持するメッセージを出しており、エルサレム総主教はかつてオヌフリー府主教を「神がこの難局を乗り越えるために選んだ人物」とまでたたえています。実はアンティオキアとエルサレムの間には管轄権をめぐって争いがありますが、ウクライナにおいてはコンスタンティノープルの強引なやり方を支持しないことで一致しています。

 このようにウクライナにはもともと教会法上合法であり、今も多数の独立正教会から支持されている教会= UOC という組織があるにも関わらず、 NHK はこの現実を無視して報道して、11の独立正教会が支持していない OCU が唯一存在する広範囲な支持を受けている教会であるかのように報道しています(し続けています)。おまえなぜウソをつくんだい?

  NHK のせいか、 OCU を認めていないのはモスクワだけなどという何の根拠もない思い込みを語っている人や、認めない連中はモスクワの信者だけなどと語る人もおりますが、上記のロシア以外の10教会が本当にモスクワの信者とでも思っているのでしょうか? 仮にそうならコンスタンティノープルを追い出すなり、モスクワがトップだと宣言するなりしても差し支えないでしょうに。なんでそうしないんですか? 現実は「コンスタンティノープルがルール違反なことをしたが、さすがにコンスタンティノープルを追放することは不可能なので、その決定(= OCU )に反対したりスルーしたりしている」という状況です。
(個人的にはコンスタンティノープルの行動は完全に異端なので破門するべきと思ってますし、そうしないのならば東方正教会はもはや古代から続く使徒継承教会と見なせません。カトリック教会は彼らを「プロテスタント」か「キリスト教に含まれない宗教団体」のどちらかに分類しなおすべきです。真面目にやりたいならですが。まあ、やりたくないなら、やらなくんていいんじゃないでしょうか。ただ、伝統的な教会がこれでは、旧統一教会も、伝統的なキリスト教も大差ないとしか)

 つまり、 NHK の報道は、特定の宗教の現状に関して異論が噴出し、それが原因でウクライナ社会の分断が深まった/深まり続けているのに、その現実を無視した極めて不誠実で一方的な前提にもとづいているものであるといえます(いちおう言っておきますと、教会法や聖職者の地位以外の内容部分、ロシアの行動を取り扱った部分について批判や否定をしているわけではありません)。
  NHK には、他の立場の人々はまったく見えてない、というのはいつものことかもしれませんが。
関連:
 インタビュー記事(イタリア語):キリスト教/カトリック教会/リヴィウ大司教ミェチスワフ・クシツキ座下「ロシアの言語と教会を禁止するのは間違い」(2022年11月)
※ウクライナ国内のロシア語話者とロシア正教会系(再度言いますが今年やむなく“独立”を宣言)の UOC の置かれている立場を憂慮しているポーランド人のカトリック大司教によるインタビュー記事です。
※なお、当然のことながら、 UOC はもともとウクライナの唯一の教会法上合法な教会なので、ロシア語話者しか信徒がいないわけではありません。

  NHK は21世紀に入っても、ロシア語講座の母国語講師にウクライナ人を起用するなどロシアとウクライナを適当に、あるいは「兄弟国」として扱い、いざ状況が変わればまた別の方向へ雑なことをおこなっているように見えます。まあこれもいつものことなんでしょう。他の分野でもこんなもんなんでしょう。そんなんだから NHK ~党(?)というところが勢力を持つのでしょう。自滅

 雑な行動の結果、コンスタンティノープルは調停者役としての資格を失いつつあります。教会の本拠地別でいえばギリシャとキプロスとトルコ(コンスタンティノープル=イスタンブール)とエジプト(=アレクサンドリアがある)しか従っていない。

 また、コンスタンティノープルが、もともとモスクワ総主教庁系の UOC を正統と認めていたことも考えてみれば、 OCU をあっさりと見捨てて処分する可能性すらあります。一般常識として、自分たちが重要としてきたルールについて適当なことを言いだした宗教団体なんてなんにも信用できないんですよ。次にどんないい加減なことを言い出すかわかったものではない。

 

追記:
 なお、ギリシャ人系の人々が、たいして確認もせずに他の人々に対してきわめて雑に行動している例は過去にもありました。

 キリスト教/キプロス大主教クリソストモス2世座下が、“北キプロス・ロシア正教会”を批判(2019年8月)在外ロシア正教会と、在外ロシア正教会から分離した(通称)“アガファンゲル・シノド”の区別がついていないのでは……

 

追記2:
 ローマ教皇聖座と中華人民共和国の司教任命に関する暫定合意がさらに2年間延長(2022年10月)
 上記からリンクしたバチカンニュース英語版の記事(Cardinal Tagle: A decision to safeguard apostolic succession for Chinese Catholics – Vatican News)で、フィリピンのタグレ枢機卿座下は、カトリック教会・教皇と、営利企業とその CEO の比較のたとえを出した後、この二つが同じようなものであるということを否定し、司教(ビショップ)ひとりひとりが使徒の継承者であることを強調、それを維持することの必要性を説いています。
 そうでなければ、機密(秘跡 : 秘蹟)は有効にならず、よって使徒継承性を満たす司教を中国に存在させ、信徒に有効な秘跡を受け続けさせるために、バチカンは中華人民共和国と(いやいやながら)合意を結んでいるわけです。
 この理由を理解していないのか、中国側はしょっちゅう合意を破って勝手な決定をしています。「後でローマ教皇が認めたら正統性があることになるから、先にマウントとっちまえばいいだろ」(=中国共産党は「後からでもコンスタンティノープルが認めたから正統性がある」とか主張する連中と同レベル)ということです。が、神学と教会法により、ローマ教皇でも後から正統化することができないことというものが当然あり、それゆえに決定にその時点でローマ教皇が関わることが重要だと言っているわけです。

 コンスタンティノープルにこのレベルの行動はまったくありません。唐突に無意味なことをしただけ。よって OCU の“聖職者”は聖職者ではないですし、彼らのおこなう秘跡は無効です(11の独立正教会=多数派にとって)。無効だとコンスタンティノープルはずっとずっと言ってきたうえに、今も有効だとできる理由を示せていない。
 中国の司教は聖職者なのでその秘跡は有効です(カトリックにとって)。
 ローマとコンスタンティノープルのこの違い!

 使徒継承は、ローマ・カトリック教会、東方正教会、オリエント正教会、アッシリア東方教会、つまり古代から続く各教会に共通する根本的なルールといってもいいほどです。
 コンスタンティノープルは OCU の承認によって、使徒継承を否定したようなものです。
 タグレ枢機卿座下のコメントを読んだ後では(あるいはその前でも)、カトリックと現在の東方正教会を同格に並べるなど使徒に対して失礼としか言えません。

 

 そういうわけで。
 「コンスタンティノープルが認めたんだから正統性がある」などというのは理屈のうちにも入っておらず、「社長が決めてんだから黙って従えよバーカ笑」というレベルの悪口・おどしでしかありません。
 神と関係ありません
 キリスト教と関係ありません
 使徒と関係ありません
 単なる政治力にぎってる人間によるパワハラの類。
 いや、新興宗教の教祖さまが決めたのだから絶対だという話。バカバカしい。旧統一教会とコンスタンティノープルの区別もついていないのか。いや同類だと思っているのか。まあ同類(同じキリスト教)なのかもしれませんが。

 

追記(2022年11月):
 コンスタンティノープルの司祭(掌院)がテッサロニキ神学校で提出した論文に対して、反論する形でアルバニア正教会の聖シノドが声明を発表。あらためてコンスタンティノープルの行動を批判、 OCU は教会法上合法でない、その“主教”は主教ではないと指摘するような形となっています。
 論文の中身でアルバニア正教会に触れられている事柄が不正確で誤解を招くとしての発表のようです。
 (ギリシャ語:アルバニア正教会 公式サイト)Σχετικά μέ τή μεταπτυχιακή ἐργασία τοῦ Ἀρχιμανδρίτoυ π. Γρηγορίου Φραγκάκη γιά «τό ἐν Οὐκρανίᾳ ἐκκλησιαστικό ζήτημα». – Ορθόδοξος Αυτοκέφαλος Εκκλησία της Αλβανίας
 (英語:アルバニア正教会 公式サイト)Regarding the Master’s Paper Of the Archimandrite Fr. Grigorios Frangakis On “The Ecclesiastical Issue in the Ukraine”. – Orthodox Autocephalous Church of Albania

※アルバニア正教会の公式サイト、あまり更新の無い英語版にも掲載されました。
 英語版も掲載したのは、読める人の多い英語版を掲載しておかないといけない(=そうしないと一部のギリシャ人が勝手なことを言い出す)との判断でしょう。
 コンスタンティノープルの聖職者が唐突に新発明した神学的珍論(一部は完全に歴史の歪曲を含む)に対応するむなしさが感じられるとても良い文章だと思います。いや本当に。この(論文を書いたコンスタンティノープルの)聖職者は、カトリックの(本筋に関係ない)神学まで持ち出して主張をおこなっているようで、これではカトリック系新興宗教団体(なんだやっぱり東方正教会というのは、ただローマ・カトリック教会から分離したいい加減な少数集団だったのか! 早く帰一したらどうです?)。

 アルバニア正教会の府主教の一人はかつて「旧統一教会に一切かかわるな」と発言していましたが、伝統的な宗教団体(のはずのコンスタンティノープル)が自分で宣言していたルールも守らないようでは大変ですねとしか。旧統一教会が勢力を伸ばす理由の一端もわかるものです。

 21世紀にもなって、ムチャクチャにルールを破る伝統的なキリスト教と、それを支持するかのように「(自分たちが言っていたルールをいきなり破っても)コンスタンティノープルが認めたから正統性がある(だから信者は黙って献金しろ)」などといういい加減な人々。旧統一教会への規制が難航しているのは当然ですし、最終的に失敗するでしょう。

 

追記2:
 書籍形式PDFファイル(2022年11月 アラビア語・一部英語):キリスト教/コプト正教会首座/アレクサンドリア教皇タワドロス2世聖下のスピーチを集めたもの。掲載写真のうちキリスト教指導者では、ローマ教皇フランシスコ聖下、ロシア正教会モスクワ総主教庁キリル聖下、エチオピア総主教“アブネ”・マティアス1世聖下、ロシア正教会ヴォロコラムスク府主教アントニー座下を重要視か

 コプト正教会がロシア正教会を重視し、コンスタンティノープルはかけらも気にしていない写真構成だったという話です。というか、東方正教会の古代からの四大総主教庁はすべてスルー気味=その他大勢扱い。

 もっとも、そもそも非カルケドン派(=オリエント正教会)が五大総主教庁(ペンタルキー)をありがたがる理由は全然ないんですが。
 ローマとアンティオキアとアレクサンドリアは重要かもしれませんが、後二者はオリエント正教会に存在するので、後はローマ教皇だけになると。
 他は、東方正教会の信徒数の半分を占めるロシア正教会くらいしか重要なところがない、とまで思っているかはわかりませんが、アントニー府主教まで重要に扱っているところを見ると、コンスタンティノープル総主教というのは、結局のところロシア正教会モスクワ総主教庁の渉外局長を務める府主教よりはるかに下なのかと。

 


 

 コンスタンティノープルを東方の教会の代表のように扱い、そこと宥和することにより東西教会全体が宥和したかのように見せかけるというローマの目論見(?)は破綻しつつありますが、なんにせよどこももうムチャクチャなので、気のすむようにしたらいいんじゃないでしょうか。